演 題 ボロノイ多面体を用いた分子の体積と表面積について
発表者
(所属)
長尾輝夫(函館高専)
連絡先 〒042北海道函館市戸倉町14-1 函館工業高等専門学校 物質工学科
TEL/FAX:0138-59-6466
E-mail:
キーワード ボロノイ、分子体積、MD
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
従来のVan der Waals 半径を用いた分子の体積や表面積の計算法は、球状分子や回転異性体などの構造になると、真の分子の占有体積や表面積を求めることができない。そこで、分子動力学法による計算結果を用いた液体や溶液中の分子をボロノイ多面体として、その占有空間(占有分子体積)や占有外表面(占有分子表面)を求めるプログラムを前報1)に従い大幅に改良した。
環 境 適応機種名 DOS/V
O S 名 Windows 95/98/NT 4.0/2000
ソース言語 富士通(株)製FORTRAN & C パッケージ V2.1 L10
周辺機器  
流通形態
  • 化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス,出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他:未定
具体的方法

 

1.はじめに
 液体や溶液におけるマクロ物性値や生理活性とミクロ構造である化学構造との相関性を推算、考察する上で、密度から求めた分子容や分子中の原子をVan der Waals半径による球に置き換えて、その集合体として分子の体積や表面積を求め、分子の大きさを表すパラメータとしてよく用いられる。しかし、中低分子のように複雑な構造をしていなくても、回転異性体やねじれ構造の分子、さらに籠状の球形分子の場合、分子の中心部へ他分子が浸入できない領域を生じる。従来の方法では、これらに関係なく内部まで計算値し、異性体などには対応できない。そこで、ボロノイ多面体法を用いて、他分子が浸入できない領域(空間)を含めた対象分子の占有空間を占有分子体積とし、その外表面を占有分子表面積として求めるプログラムを作成した。前報1)によるAllen & TildesleyのF35ログラムの修正版をさらに全面的に書き換え、Hypercube,Inc.のHyper Chemへの対応から富士通(株)の分子動力学計算ソフトWinMASPHICへ対応できるようにした。この結果、NTPなどの各種アンサンブルによるシミュレーションの結果を用いることができる。液体や溶液中(気体、固体も考えられる)の対象分子のボロノイ多面体体積(占有分子体積)や表面積(占有分子表面積)から圧力や溶媒効果などを調べることが可能になる。

2.方法および結果
 ソフトの構成は、コンパイラ(富士通(株)製、FORTRAN & C パッケージ V2.1 L10)、分子動力学ソフト(富士通(株)製、WinMASPHIC Pro.およびStd.)、分子軌道計算ソフト(富士通(株)製、WinMOPAC )、ボロノイ多面体解析および体積、表面積計算プログラム(MD‐VORO-VSA)である。
 対象分子を分子軌道計算ソフトWinMOPACによって作成し、構造を最適化し、電荷の計算もする。このデータを元に、分子動力学ソフトWinMASPHICで初期配置し、各条件を設定して、分子動力学計算を行う。次に、バイナリな結果データを富士通(株)のサービスプログラムSIM2ASCを用いてアスキー形式のテキストデータとする。このデータを入力データとしてボロノイ多面体解析および体積、表面積計算プログラムMD‐VORO-VSAを用いて、体積や表面積を計算する。  ボロノイ多面体の計算は、対象分子中の各原子(中心原子)について隣接原子(本ソフトでは周期ボックスの半分の距離を設定している)の距離を調べ、もっとも近い順に登録し、隣接原子との垂直2等分平面の3個の平面から端点を求め、次に、ひとつの隣接原子について3個以上の端点から多角形平面が求め、さらに、すべての隣接原子について多角形平面を求めると多面体が構成され、多角形平面の和を求めるとボロノイ多面体表面で、3個の端点と中心原子との4面体の体積の総和を求めるとボロノイ多面体体積になり、各原子毎や分子全体の表面積と体積が計算できる。
 計算対象分子として、n-ButaneとIsobutaneや1-Butanol、2-Butanol、2-Methyl-1-Propanol、2-Methyl-2-Propanol、Diethyl Etherの7個の構造異性体について行った。各分子を立方体の周期ボックスに64個配置した液体と216個の水分子を配置した立方体の周期ボックスに各分子を1個、2個、4個挿入した水溶液を作成し、NTPアンサンブルで、温度298K、圧力を0.1MPaから100MPaと変化させ、時間ステップ0.5fsで50psの分子動力学計算を行った。分子内ポテンシャルとしてWinMASPHICのOrganic、分子間ポテンシャルはOrganicと水分子のSPC/Eモデルである。最終ステップでの結果を用いてボロノイ多面体体積や表面積を求めた。メチル基、メチレン基、OH基などのグループ毎の結果を表にその一部を示す。分子内のグループ毎に他分子の接触状況の違いがよく観測でき、液体と溶液の違い、加圧による変化などについて考察する。構造活性相関や溶解度の推算式などで、大きさや形状の特性を表すパラメータとして用いられている分子内の原子団や特性基の分子体積や表面積よりも本方法による方が構造の特性を表現するのに有効であろうと思われる。

水溶液
 Compoundn-ButaneIsobutane
Presure[MPa]GroupsCH3CH2CH2CH3CH3CH3CH3CH
0.1Volume[Å3]158.89118.36118.97169.17187.21139.82149.4468.94
0.1Surface[Å2]166.80113.15103.66193.20187.19142.62155.3955.81
0.5Volume[Å3]144.69129.22 97.60211.99135.55134.88209.3163.06
0.5Surface[Å2]156.36125.24 83.54201.54148.45152.11221.7743.41
1.0Volume[Å3]133.85113.59 98.65200.39136.24133.87143.8353.65
1.0Surface[Å2]158.28108.47 90.06207.06141.93144.59162.8437.76

液 体
Presure[MPa]GroupsCH3CH2CH2CH3CH3CH3CH3CH
0.1Volume[Å3]146.30 83.81 97.85138.67133.35154.25129.4758.40
0.1Surface[Å2]174.32 71.18 92.50149.14136.47167.20126.3846.07
0.5Volume[Å3]124.95 95.45 91.45155.32140.44127.37128.4268.42
0.5Surface[Å2]136.84 83.94 87.23156.18148.45130.48125.8665.10
1.0Volume[Å3]161.77101.99109.00134.80154.27117.80139.1358.15
1.0Surface[Å2]180.92 79.50118.96145.07166.06116.84135.3938.41

3.参考文献
1)化学ソフトウェア学会 '97研究討論会講演要旨集、106、p40‐41、'98同、218、p78-79

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