演 題 OpenGLを用いた原子軌道の可視化
発表者
(所属)
○矢野雅彦,野口文雄,時田澄男(埼玉大学工学部)
連絡先 〒338-8570 埼玉県浦和市下大久保255
埼玉大学工学部
TEL/FAX 048-858-3536
E-mail:
キーワード Atomic Orbital
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
 Schrodingerの波動方程式は難解であるため,量子化学の入門者が原子軌道の形を実感により把握することは,甚だ困難である.そこで,PCを用いて,水素原子における各原子軌道の等値曲面の点を計算で求め,高品質な三次元画像として,原子軌道の形を可視化した.
環 境 適応機種名 PC98シリーズ,DOS/V
O S 名 Windows98/NT/2000
ソース言語 Inprise社Borland C++ Builder5
周辺機器 特になし
流通形態
  • 化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス,出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他:未定
具体的方法

 

1.はじめに
 演者の一人である時田は,原子軌道可視化ソフトをMS-DOS版で開発し,公開した.しかし近年,PCのOSは,マルチタスクな動作が可能なWindowsが主流となっているため,C++を用いてWindows版への移植を行った.移植前のMS-DOS版のものでは,マシン固有なグラフィックメモリを利用した二次元の正射影による原子軌道の等値曲面を描いており,画像の回転,遠近ズーム等の操作性および汎用性に難点があった.今回,OpenGLを用いることで,直接,等値曲面上の三次元の点を扱う仕様としたため,マシンに依存せず操作性にすぐれた高画質なグラフィックス出力を可能とし,各種原子軌道を可視化できるソフトウェアを開発する目途が得られた.

2.プログラムの概要
2.1 計算方法
 水素原子の各原子軌道は,Schrodingerの波動方程式により,解析解が得られているが,各軌道関数の形から,原子軌道の形を想像することは,困難である.まず,次式1)で表される2Px軌道の可視化から手がけた.


 2Px軌道の等値曲面をOpenGLで描くには,x,yを微小変化させた際の,軌道関数の設定値(χ2px)に一致する三次元座標(x,y,z)を求める必要があるが,この場合,x=0の点を除けば,χ2pxとx,yの値を与えてz座標が求まり,等値曲面を与える三次元座標が確定する.x=0の場合は,繰り返し計算により座標を確定させた.
2.2 出力例
 OpenGLには,三角形の頂点座標および各法線ベクトルを与えることで,三次元空間の三角形を照光処理して描画するグラフィック関数がある.この機能を利用して,2Px軌道の等値曲面を多数の微小三角形の集まりとして表現した(ポリゴン描画).なお,OpenGLには遠近ズーム,回転,移動の操作を容易にできる多彩な関数群があり,ユーザーが簡単なマウス操作で原子軌道を可視化できるソフトウェアに仕上げることが出来た.
Fig.1 水素原子の2Px軌道等値曲面

3.おわりに
 指数付けを行うには,X線回折より検出される結晶面間隔が重要となる.本ソフトウェアでは,この結晶面間隔の実測値と計算値を比較し,試行法により指数付けを行う.その結果をFig.1(a)に示す.この結果には立方晶系における(1 1 0)面や(1 0 1)面などの同じ反射指数が重複して含まれるため理解が困難である.そこで,これら重複する反射指数をいくつかの条件により削除する.その結果,Fig.1(b)に示すような指数付け結果を得た.
 結晶面間隔の実測値と計算値を比較する際,両者の間に誤差が発生する.この誤差は結晶により様々であり,また同じ結晶でもピークによって異なるため,1つに決められない.そこで,誤差はあらかじめ用意された10段階の設定から,ユーザーが選択する方式を採用した.また,X線回折の際,特性X線にKα線を,対陰極物質に銅を用いることを前提としてプログラムしたため,X線波長は1.5406Åに設定した.
4.参考文献
1. 時田澄男,「目で見る量子化学」,講談社(1998).
2. 時田澄男他,“水素原子の原子軌道の可視化”,J.Chem.Software,3,p37-48(1996).
http://www.sccj.net/CSSJ/jcs/v3n1/a5/abstj.html

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