演 題 Metropolis Monte Carlo Brownian Dynamics 法によるDNA 水溶液の対イオン分極のシミュレーション
発表者
(所属)
〇 鷲津 仁志・菊地一雄(東京大学大学院総合文化研究科)
連絡先 〒153-8902 東京都目黒区駒場 3-8-1
東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻生命環境科学系
TEL: 03-5454-6581 FAX: 03-5454-6998
E-mail:
キーワード Monte Carlo Method, Polyelectrolytes, Counterion polarization
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
高分子電解質溶液における対イオンゆらぎのシミュレーションを行ない, 電気的分極率の異方性の起源を明らかにする. 高分子電解質溶液の長距離クーロン相互作用を適切に粗視化して 計算するアルゴリズムも開発した.
環 境 適応機種名  
O S 名  
ソース言語  
周辺機器  
流通形態
  • 化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス,出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他:未定
具体的方法

 

1.はじめに
 添加塩溶液中の DNA のまわりのイオン雰囲気は, 凝縮対イオンの部分と 散慢な部分とからなる. さらに, その外側にはバルク塩が存在する. この三領域の中の対イオンのゆらぎの挙動はそれぞれ異なる. 揺動散逸定理によると, 溶液中の高分子電解質の電気的分極率は, 外場が存在しない平衡状態のイオン雰囲気中に生成する 双極子能率のゆらぎに関係づけられる. これまでわれわれは, Metropolis Monte Carlo Brownian Dynamics (MCBD) [1] による水溶液中のモデル DNA 断片の対イオンゆらぎの シミュレーションによって, 電気的分極率の異方性 Δα の起源を明らかにしてきた. 無塩系 [2-4],添加塩系 [5] のシミュレーションを行ない Δα を決定し, それぞれの性質を再現することができた. Δα を決定する際には, ポリイオンに近い n個の対イオンによる部分的な双極子のゆらぎの大きさ である部分分極率 α(n) を計算した. これにより, ポリイオンの近傍から順に局所的な分極挙動を知ることができる. 実験で観測される電気的分極率の異方性は, 散慢な部分を含めたイオン雰囲気の分極に由来することがわかった.
本報告では, これまでの主要な成果を中心に, 最新の結果を交えて, 高分子電解質溶液のイオン雰囲気の静的構造と対イオン分極率との関係, 長距離クーロン力が支配する系をシミュレーションでどのように 取り扱うかについて紹介する.

2.結果と考察
 対イオン分極の実験, 解析理論ともに, 非常に希薄な溶液を対象とする. シミュレーションでは, 広大なMC セル中の小さなイオンの ゆらぎを扱わなければならない. このため, DNA を円筒とし, その表面にらせん状に負電荷を配置する, 対イオンを点電荷を持つ剛体球とする, といった粗視化をした. さらに, 実験と対応する物理量を定量的に得るために, 超並列型 スーパーコンピュータを用いて, 膨大なトラジェクトリにわたり積算した.

 MC 法における配置エネルギー計算は, 当初は MC セル中の 全電荷間のクーロン相互作用を直接計算した. この方法では粒子数の二乗に比例して 計算時間が増加する. そこで, この計算を粗視化して行うアルゴリズムの開発を 行った. これは MC セルを仮想セルに分割して 粒子をまとめ, そこからの寄与を多重極展開する方法であるが, 仮想セルに対してツリー構造を用いないことと, 多重極展開を双極子までに とどめることにより高速化を実現した.

 図 1 に, 高分子の周囲のイオン雰囲気の静的構造を, ポリイオンの電荷を中和する溶液中の正味の電荷密度と 静電ポテンシャルによって示す. 前述したポリイオンの周囲のイオン環境の 3 領域は, 電荷密度と静電ポテンシャルによって特徴づけられる.

図 1: 3D view of the reduced electrostatic potential (gray) and net charge concentration profile (dark gray) around a 64 base-pair DNA. Region of net charge neutralizing polyion charge (dashed line) are also shown.

 図 2 に, 各添加塩濃度における部分分極率の異方性 Δα(n) を n の関数として示す. 領域 0<n<80 の凝縮相に対応する部分分極率と, 領域 80<n<128 の散慢な部分を含んだ部分分極率の添加塩濃度依存性が 逆転している. これは, 散慢なイオン雰囲気の分極は対イオンがゆらぐ 領域の広さに依存し, 凝縮対イオンの分極は高分子が対イオンを 束縛する強さに依存するためであることがわかった.

図 2: Partial anisotropy of polarizability Δα(n) of a 64 base-pair DNA as functions of number of contributing counterions n at a polymer concentration of 0.60 mM nucleotide residues and at various salt concentrations cs.

3.参考文献
[1] M. Yoshida and K. Kikuchi, J. Phys. Chem., 98, 10303 (1994).
[2] H. Washizu and K. Kikuchi, Chem. Lett., 651-652. (1997),
[3] H. Washizu and K. Kikuchi, Colloids Surfaces A, 148, 107 (1999).
[4] K. Kikuchi, in Polyelectrolytes,Ts. Radeva, Ed., Marcel Dekker, to be published in 11/2000.
[5] H. Washizu and K. Kikuchi, Chem. Phys. Lett., 320, 277 (2000).

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