論文誌および研究討論会要旨のオンライン化

中野英彦

〒671-22 姫路市書写2167 姫路工業大学工学部応用化学科
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1. はじめに

 インターネットの発展によって、学術情報の流通において革命的な変化がおきつつあると言っても過言ではない。本学会においても、インターネットの可能性について早くから着目し、筆者を含めて7名のワーキンググループ(姫路工大・中野英彦、広島大・吉田 弘、高知女子大・一色健司、創価大・伊藤眞人、群馬大・中田吉郎、・埼玉大・時田澄男、福井高専・吉村忠与志)を組織し、インターネット上に学会のホームページを開設するとともに、論文誌のオンライン化とソフトウェアの頒布の活動を開始した。このうちソフトウェアの頒布活動に関しては別に解説があるので、筆者は論文誌のオンライン化について報告を行う。また、本研究討論会の講演要旨についてもオンライン化を行っているが、これについては本稿執筆時にはまだ一部しか進んでいないので、本稿には掲載できないが、講演時には紹介する予定である。
 論文誌のオンライン化については、まずワーキンググループ員が著者である論文について試験的に行い、次いで新規に掲載決定された論文に対して、著者にフロッピーによる原稿の提出を求めて順次登録を行った。登録作業の概要については、昨年度本研究討論会において発表した(化学ソフトウェア学会'95研究討論会講演要旨集、p.36)。
 その後、新規掲載論文に対する登録作業が軌道に乗ったため、過去に掲載された論文に対しても、遡及して登録することを決定し、著者に対してフロッピー原稿提出の協力を依頼し、提供のあった論文に対して登録作業を行っている。

2. オンライン登録の現状

 新規掲載決定論文に対して、印刷体論文誌発行以前におけるオンライン登録を開始したのは、Vol.2, No.4以降である。同号に掲載決定された6報全てがオンライン登録され、その後Vol.2, No.4は印刷体が出版された。続いてVol.3, No.1についての登録に移り、掲載決定された6報中の4報がオンライン登録され間もなく印刷体が発行される運びとなっている(2報については、著者からのフロッピー原稿の提供がなく、登録が遅れている)。
 既発行論文に対する遡及登録に関しては、Vol.1, No.1からVol.2, No.3までに掲載された論文の著者に対して、フロッピー原稿の提供を依頼し、提供があったものから順次登録を行っているが、8月末時点で該当論文34報中16報がオンライン登録されている。

3. アクセス状況の分析

WWWのサーバープログラムは、アクセスされる毎に、アクセス日時、アクセスしてきたサイトのドメイン名およびホスト名(ドメインネイムサーバー(DNS)がインストールされていない所についてはIPアドレス)、読み出されたファイル名をログファイルに出力しているので、このログファイルを解析することにより、ある程度のアクセス状況がわかる。

3.1 ホームページ全体のアクセス数

 図1に示したのは、昨年11月から本年8月までのアクセス数である。このグラフでのアクセス数とは、図形ファイルを除いて、文書ファイルが読み出された回数をカウントしたものである。図形ファイルを除いているのは、文書中にインライン図形を埋め込んだ文書を読み出すと、その中の図形ファイルも同時に読み出されるので、図形が多い文書を読み出すとそれだけで多数のカウントが記録されるのではアクセスの実数を過大に評価してしまうと考えられるからである。本カウント法でも、一度ホームページにアクセスしてから、いくつもの文書を読めばそれだけカウント数が増加するので、一度のアクセスで複数のカウントがなされることになるが、それは読む意志を持って複数のページを開くということであるので、意味を持っていると考えている。
 図でわかるように、昨年11月に比較して本年7、8月は10倍以上のアクセス数となている。これは、ここ1年以内の飛躍的なインターネットの普及の結果によって、インターネットの参加者が増加した事の他に、ここ1年以内に関連の学協会、出版社などでホームページを開設するところが増加し、それらのホームページからリンクが張られている例が増えていることにもよると思われる。


      図1. 月別アクセス数

3.2 国別のアクセス数

 アクセスしてきたサイトが、DNSがインストールされているドメインに属しており、かつDNSに登録されているホストであれば、ドメイン名およびホスト名がログファイルに記録されるので、どこからのアクセスかを判別することが可能である。上記の全アクセスのうち、25%程度のアクセスに関してはDNSに登録されていないため不明であるが、残りについてまず国別のカウントを行ってみた結果が図2である。8割程度が国内からのアクセスであるが、海外からのアクセスも2割程度有り、そのうちほとんどが米国からのものである。その他の国からのアクセスも、それぞれは少数ながら世界各地から広く分布している。

3.3 機関別アクセス数

次に国内からのアクセスに関して、ドメイン名によって判定可能な機関別の集計を行ったのが図3である。図において "ac"で示されている大学等からのアクセスが半数を超えている。その次に多いのは "or"で示されているもので、これは多くの場合いわゆるプロバイダ(インターネット接続業者)経由による個人からのアクセスであると思われる。民間企業を示している "co"からのアクセスは12%であった。


    図2.国別アクセス数          図3.機関別アクセス数

3.4 論文誌の要旨および本文に対するアクセス

 以上のアクセス数に関しては、本学会のホームページ全体に関してのアクセス数をカウントしてものであり、極端に言えば“ネットワークサーフィン”中に所かまわずクリックして、たまたま本学会のホームページにアクセスし、すぐに出てしまったというのもカウントに入っていることになる。そこで、論文誌に対してはどの程度アクセスされているかについて、論文の英文要旨、和文要旨、本文に関して個々の論文毎にカウントしてみた。昨年11月からのアクセス数のカウントでは、全登録論文25報のうちで、本文に関して言えば168カウントのものが最大である。カウント数に関しては、論文の性格によってかなりばらつきが見られるようであるが、詳細な分析は本稿執筆時には十分になされていない。また、昨年11月時から登録されている論文と最近登録された論文を全期間で同列に比較する事はあまり意味がないので、8月の1ヶ月のログファイルにおけるアクセス数を調べてみたところ、25論文の英文要旨、和文要旨、本文の1論文平均のアクセス数は、それぞれ 8.4, 7.3, 7.7であった。これは、それぞれの論文が毎週2回程度アクセスされているということを意味している。

4. 今後の課題

 オンライン化に際しては、現在は著者からのフロッピー提供を受けて手作業で行っている。また、図表においても、著者が作成した機械可読の図形ファイルがある場合にはそれから変換し、ない場合にはイメージスキャナによって画像ファイルを作成している。現在は、投稿規定自体はオンライン化を想定していないため、必ずしもオンライン化に適しない画像を無理してオンライン化した例もあるが、将来的には最初からオンライン化を想定した投稿規定にする必要があると思われる。
 その際には、ある程度著者に今以上の負担をかけることになるが、それを上回るメリットが著者にもあることを理解してもらう必要があると思われる。そのメリットの最大のものは、掲載決定された論文は印刷体の雑誌よりも早く配布される(しかも世界同時に)という事であろう。受理の時期と印刷体配布の時期とのかねあいによって一概には言えないが、平均して数ヶ月は早く公表されるメリットは大きいと思われる。
 国際化の点から言えば、オンライン化によって世界中からアクセスが可能となっているわけであるが、実際にはまだそれほど海外からのアクセスが多いとは言えないかもしれない。その原因の一つに、言葉の問題があると思われる。現在でも海外からのアクセスを考慮して、目次および要旨は英文と和文の二本立てとしているが、本文の多くは日本語であるため、海外からのアクセスにたいして障害となっているかもしれない。編集委員会の方でもその点を考慮し、図表の説明は英文とするように著者に要請しているが、オンライン化に際しては、本文が和文の場合には、要旨に図表を加えるか、図表と説明のみのページを海外からのアクセス用に設ける等の処置が必要かもしれない。