正十二面体対称性を有する超分子の分子モデル

末永 正彦


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1 はじめに

分子の自己集合を巧みに利用して多面体のかご型超分子[1, 2]を形成させる試みが近年盛んに行われており、このうちP. Stangによって合成された正十二面体の超分子[3](結合角109.5°の三座サブユニットと結合角180°の二座サブユニット間の配位結合により骨格を形成 Figure 1)は、その形の美しさだけでなく、その巨大な内部空洞の包摂挙動にも興味がもたれている。しかしながらこのような超分子の分子モデルの作成は、自己集合を形成するための結合が水素結合や配位結合であるため、分子軌道法や分子力学を利用して構造を最適化しながらモデルを構築することが非常に困難である。そこで、このような正十二面体の超分子の分子モデルの座標と結合情報を、稜線に位置する部分の構造から対称性を利用して作成するプログラムをPerlにより作成した。
座標に関しては、もとになる座標を対称性に従って変換してやればよいが、結合情報を一義的に発生させるためには、稜線部の部分構造を構成する原子の数をパラメータとして全原子の番号付けを表現する必要がある。


Figure 1. Supermolecule with dodecahedral symmetry

2 結合情報と座標の生成アルゴリズム

2. 1 フラグメントの定義と番号付け

パラメータによる全原子の番号付けを説明するために、p-フェニレンを稜線部としsp3炭素を頂点とした仮想的な分子をFigure 2に示す。


Figure 2. Virtual molecule with dodecahedral symmetry

稜線に位置する部分構造はFigure 3に示す構造で、これをフラグメントと呼ぶことにする。すなわち、フラグメントは「正十二面体の稜線を構成する対称性の上で独立な部分構造とそれに直接結合している正十二面体の頂点となる2つの原子からなる部分構造」と定義できる。Figure 3の例では、11と12番の原子が正十二面体構造での頂点となり、残りが稜線部となる。番号付けの規則としては、稜線部の最小番号(1)と最大番号(10)を有する原子は頂点部と結合している。それ以外の番号付けは任意でよい。


Figure 3. Numbering in the symmetrically unique fragment of the virtual molecule in Figure 2

フラグメントの構造を一般的に表現するとFigure 4のようになる。ここでは簡単のため、2からk - 3の番号は省略してある。フラグメントは頂点となる2つの原子も含めてk個の原子から成っている。ただし、頂点となる二つの原子のうちk - 1番は1番のみと、またk番はk - 2番のみと結合していなければならない。それ以外には制限はない。


Figure 4. Numbering in generalized fragment

2. 2 (フラグメントの原子数-2)をパラメータとした全原子の番号付けと結合情報

フラグメントの全ての原子を変換すると、頂点となる原子が重複してしまうため、フラグメントから頂点となる二つの原子を除いた構造(即ちFigure 4の1番からk-2番までの原子の座標)をもとにして、正十二面体の対称性により稜線部(30個)を求め、その後頂点(20個)を求める方法をとった。この変換の順序にしたがい、全体の番号付けはFigure 6からFigure 11に示すように定義した。番号付けは、フラグメント内でのそれとは異なり、稜線部(1番から30n番)が終わった後、頂点部(30n + 1番から30n + 20番)の番号を付けている。ここでnは、Figure 4でのk - 2を改めてnと表記したものである。図では簡単のため、頂点に直接結合した原子の番号と頂点の原子の番号のみを示した。
このように、すべての原子の番号がnをパラメータとして表現されることで、例えばFigure 5のように1番から始まる構造の中でi番とj番に結合があった場合、次のn + 1番から始まる稜線部の構造の中では、i + n番とj + n番の間に結合があることになる。一般にpn + 1番から始まる稜線部ではi + pn番とj + pn番に結合がある。また、1番は30n + 5番と、n + 1番は30n + 1番というように、頂点と稜線部の結合情報が固定されている。以上のような関係を基にして、全ての結合情報を部分構造から求めている。


Figure 5. Numbering in two successive fragments


Figure 6. Numbering in edges (1)

Figure 9. Numbering in edges (4)

Figure 7. Numbering in edges (2)

Figure 10. Numbering in edges (5)

Figure 8. Numbering in edges (3)

Figure 11. Numbering of vertices

2. 3 座標変換に必要な角度と距離

座標変換を行うためには、正十二面体の隣接する二つの面がなす二面角(2q)と稜線の長さをLとしたときの正十二面体の中心から稜線の中点までの距離(r)を求めておく必要がある。これらの値をもとめるため点A、B、CをFigure 12に示したようにとる。点Aは稜線の中点で、点Bは点Aの対面にある頂点、点Cは面の重心である。稜線の長さをLとする。


Figure 12. View along the normal at the center of face

Figure 12より、線分ACの長さは(L /2)tan54°である。また、qrと点A、B、Cの関係はFigure 13のようになり、cosq= AC / r であるので、次の関係式が得られる。


Figure 13. Definitions of q and r (view along x axis)


Figure 14. Definitions of q and r (view along z axis) (cf Figure 13.)

一方、点A、Bの座標はそれぞれ(0, 0, r)、(0, r, L /2)であることから、位置ベクトルAOとABはそれぞれ(0 0 -r)と(0 r L /2-r)の成分を持つ。従って、ベクトルAOとベクトルABのなす角qrの間には式2の関係が成り立つ。

L = 1としたとき、式1、2より、rについての四次方程式(式3)が得られる。

二分法により、式3の正の実根を求めると、
r = 1.3090169943495 となり、これより
q= 58.282525888539°となる。
qrを求めるためにここで使用した座標系は、正十二面体型超分子の原子の座標を求めるために座標変換を行う際には使用しない。その場合にはFigure 16およびFigure 17に示すように、正十二面体の一つの面の重心を通る法線をz軸とし、これに垂直で稜線の中点を通る直線がy軸となるような座標系を用いる。

2. 4 座標変換

フラグメントの座標を正十二面体の対称性に従って変換するためには、Figure 15に示すように、まずフラグメントの両端の原子を結ぶ線分がy軸上にありその中点が原点と一致するように変換することから始まる。


Figure 15. Translation of fragment onto the y axis

次にx軸方向に(L/2)tan54°、z軸方向に(L/2)tanqtan54°だけ平行移動する。ここでLはフラグメントの両端間の距離で、qは正十二面体の隣接する二つの面のなす二面角の二分の一の角度である。この変換でフラグメントの両端の原子を結ぶ線分は、Figure 16に示すように、原点を中心とする正十二面体の一つの稜線に位置するようになる。


Figure 16. Fragment placed on an edge (view along x axis)


Figure 17. Fragment placed on an edge (view along y axis)

Figure 16およびFigure 17の状態にあるフラグメントの座標を基にして対称性により、残りの稜線に位置するフラグメントの座標を求めていく。座標変換に必要な回転操作は、次の3つである。

  1. z軸の回りでの72°の回転
  2. y軸の回りの2fの回転(f = 90°- f
  3. y軸の回りの180°の回転。
一連の回転操作とそれによって求められる稜線部を太線でFigure 18Figure 19およびFigure 20に示す。


Figure 18. Ten edges of top and bottom faces


Figure 19. Ten edges of the lateral faces


Figure 20. Ten edges in the equatorial part

3 プログラムについて

3. 1 概要

本プログラムは、フラグメントとなる構造のCC1形式(Cart Coords 1、デカルト座標フォーマット形式1)で記述した座標と結合情報に独自の変更を加えたデータを読み込み、相当する正十二面体の座標と結合情報をCC1形式のファイルとして出力するものである。本来のCC1形式のファイルの一行目には、原子の個数が記述してあるが、本プログラムでは正十二面体の頂点となる二つの原子を指定するため、一行目の原子の個数の後に、頂点となる二つの原子の番号を記述する(各数字の間にはスペースを入れる)。このように、頂点となる二つの原子の番号を指定する理由は、2.1で述べたフラグメント内での番号付けの規則に合うような番号付けを自動化するためである。特に環状構造のあるフラグメントを作成したとき、k - 1番あるいはk番と結合している原子が必ずしも1番あるいはk -2番にはならず、手作業による番号の付け直しが煩雑になるためこの付け直し作業を自動化した。

3. 2 フラグメントと入力ファイルの作成法

Figure 2の仮想的な正十二面体分子を例にとり、フラグメントの作成手順を示す。
目的のフラグメントはベンゼンの1、4位に炭素がついた構造なので、まず適当なモデリングソフトを使いp-キシレンをつくる。この例では、モデリングソフトとしてCS Chem3D pro (Ver.3.5.1)を用いた。Automatic Rectificationの機能をオンにしてモデルを作成すると番号付けがばらばらになるので、必ずオフにして行う。骨格ができたのち、全体を選択しRectifyにより必要な水素原子を付け、構造最適化を行っておく。次に、二つのメチル基から水素原子を全て削除し、CC1形式で保存する(List 1)。頂点となる原子は7番と8番であるが、それぞれベンゼン環の2番と5番に結合しており、フラグメント内の番号付けの規則にはまだ従っていない。

12
C1-1.3111270.452789-0.0737002269
C2-0.2694551.352295-0.3242652137
C31.0442960.875320-0.26710522410
C41.311264-0.4614560.03601123511
C50.269608-1.3597870.2903902468
C6-1.044189-0.8836360.22937021512
C7-0.5369112.792343-0.63334712
C80.536316-2.7923430.63333115
H9-2.3577120.793655-0.12341351
H101.8820651.566544-0.45495653
H112.357712-0.8034520.08268754
H12-1.882004-1.5753630.41412456
List 1. Coordinates of the fragment (Figure 2) in CC1 format

CC1形式のファイルの一行目に頂点となる二つの原子の番号をList 2に示すように書くと、番号の付け替えが自動的に行なわれる。

1278
C1-1.3111270.452789-0.0737002269
C2-0.2694551.352295-0.3242652137
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
List 2. Serial numbers of two vertices are specified in the first line of the input.file (cf List 1)

List 2をファイル名fragment.cc1で保存し、PerlのスクリプトDhcoor1.5と同じフォルダー内に置く。Dhcoor1.5を実行するとファイルDhcoor.cc1の中に結果が書き出される。List 3には計算の結果生成される320個の原子の座標の一部が示されている。計算の途中経過は、標準出力に表示されるので、計算がおかしい時の手がかりとする。計算がうまく行かない場合は、頂点原子の入れ忘れなど、入力ファイルに間違いがある場合がほとんどである。

320
C14.002434-1.4163076.475376223305
C24.834115-0.6915015.7876312169
C33.162422-0.7046797.1657662145
C43.1557520.6917537.17159023107
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
List 3. Result of the calculation (first few lines are shown)

4 応用例

本プログラムの応用例として、Figure 21のような構成単位からできる正十二面体の超分子のモデルを示す。この超分子は、sp3炭素に結合した3つの芳香族アミンの塩酸塩と環状五量体構造を持つDecamethyl Cucur- bit[5]urilの上端と下端に位置するそれぞれ5つのカルボニル基とがそれぞれ水素結合により錯体を形成することで構築されると考えられるが、単離・確認にはまだ至っていない。


Figure 21. Supermolecule assembled from tris- (4-aminophenyl) methane trihydrochloride and decamethyl cucurbit[5]uril


Figure 22. Fragment of the supermolecule in Figure 21


Figure 23. 3D model of the supermolecule in Figure 21

Figure 23は、Figure 22のフラグメントからできる正十二面体型の超分子のモデルで、4480個の原子からできている。尚、頂点に位置する原子の原子価が炭素のように4価の場合、本プログラムは4つ目の原子の座標を作成しないので、別のモデリングソフトで補ってやる必要がある。このモデルの場合、それぞれの頂点に水素原子を1個補っている。

5 プログラムの配布

Perlのスクリプトおよびサンプルの座標データ等が、著者のホームページより無償でダウンロードできる。
http://hb6.seikyou.ne.jp/home/zzzfelis/

参考文献

[ 1] S. Leininger, B. Olenyuk, and P. J. Stang, Chem. Rev., 100, 853-908 (2000).
[ 2] L. R. MacGillivray and J. L. Atwood, Angew. Chem. Int. Ed., 38, 1018-1033 (1999).
[ 3] B. Olenyuk, M. D. Levin, J. A. Whiteford, J. E. Shield, and P. J. Stang, J. Am. Chem. Soc., 121, 10434-10435 (1999).


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