
Figure 1. Molecular Framework of Dioxin Isomers.
筆者はこの状況を改善する必要に迫られ,Excel/VBAを利用した自作プログラムを数年前から授業と学生の自習のために用いて,分子構造の類似性に関する概念を環境学専攻の学生に修得させる試みを実践してきた.幸い学生の多くが所有するパーソナル・コンピュータには標準的にExcelが搭載されていたこともあり,この試みは短期間で上述の回答の分布をa>b>cへ収斂させる効果があった.そこで筆者と同様に,手段としての化学を学ぶ学生に分子構造の類似性に関する概念を修得してほしいと考える方々の参考に供するために,本報で上述のプログラムとダイオキシン異性体の計算例を紹介する.




Figure 2. List of data input part in this program.
本プログラムでは,Figure 2に示したプログラムによって読み込んだ基準分子と比較分子の3次元直交座標から原子間距離が計算され,その後,式(1)に従ってrPの値が計算されるという手順を採った.なお,筆者の担当する授業では本プログラムを使用する前に行うMOPACの演習で得られた3次元直交座標をcsvデータとしてExcelの入力シートに読み込んで利用しているが,MOPACの演習と切り離して本プログラムを利用する場合も想定して,現在,3次元直交座標の簡便な生成プログラムの作成を検討中である.
上述のリストで示したプログラムに続けて,式(1)に従ってrPの値を計算する部分のリストをFigure 3に示した.ただし,Figure 3で比較分子の原子i,j間の距離を表すDを計算する部分は,Figure 2に示したリストの各変数名からRを取り除くだけで作成できるので,ここではリストを示さなかった.また,Figure 3のD2,RD2,DRDはそれぞれ式(1)のdAij2,dBij2,dAij*dBijを示す.

Figure 3. List of part calculating Pearson correlation coefficient in this program.
さらに,以上のプログラムを用いて,2,3,7,8-PCDDに対する1,4,6,9-PCDDのrP値を求めた際の出力画面をFigure 4に示した.今回紹介する試みにおいては,複数の比較分子のrPを同時に計算するようにプログラムを作成していないので,Figure 4に示したようにrPの計算値は比較分子の座標を入力したワークシートの右上隅に出力させた.

Figure 4. An output page of this program.

Figure 5. List of part calculating Tanimoto coefficient in this program.
ここでは後に触れるように類似性における分解能類似概念の導入のため,Figure 6aに示した入力画面に距離対の類似性を判定する基準値の上限と下限を入力しておくことで,この区間を10等分したそれぞれの基準値でrTの値が計算されるようにした.これによって, rTの出力範囲をあらかじめ適当なグラフのデータに指定しておけば,Figure 6bに示した出力画面のように基準値の変化による類似性判定の変化を観察することができる.

Figure 6. An input page and an output page of this program.
また,このグラフを示した上で,Figure 7の様な図を例示して多角形と円の類似性を考察させることで,類似性判定における分解能類似概念を学生に触発することができた.

Figure 7. Diagram to remind students of concept of resolving power.
Table 1. Calculated values of rP and rT of some Dioxin isomers.
| Chlorination | TEF | rP | rT (t=0.5) |
|---|---|---|---|
| 2,3,7,8- | 1 | 1.0000 | 1.0000 |
| 1,2,3,7,8- | 1 | 0.9997 | 0.9412 |
| 1,2,3,4,7,8- | 0.1 | 0.9994 | 0.9012 |
| 1,2,3,6,7,8- | 0.1 | 0.9994 | 0.8780 |
| 1,2,3,7,8,9- | 0.1 | 0.9994 | 0.8857 |
| 1,2,3,4,6,7,8- | 0.01 | 0.9991 | 0.8333 |
| 1,2,3,4,6,7,8,9- | 0.0001 | 0.9989 | 0.7838 |
ただし,rPの値の降順にすべての異性体を配列すると,例えばTEFの値が0.01と0.001の間にはTEFの値が未知の異性体が6種類入ることからも明らかなように,ひとつの類似性指数だけで化合物群の活性を説明することは困難であり,例えば小林ら[8]はダイオキシン類の電子構造に基づく考察からハードネスの概念が特に重要であることを指摘している.
また,rTの値はFigure 6にも示したように基準値によって変化し,場合によっては値の大小関係が逆転することもあるため,活性相関の検討に用いる際には注意を要すると考えられる.Table 1に示したダイオキシン異性体のrTの値が,基準値の選び方によって変化する様子をTable 2に示した.
Table 2. A change of calculated value of rT with a change of reference value.
| Chlorination | rT (t=0.1) | rT (t=0.3) | rT (t=0.5) |
|---|---|---|---|
| 2,3,7,8- | 1.0000 | 1.0000 | 1.0000 |
| 1,2,3,7,8- | 0.8406 | 0.8704 | 0.9412 |
| 1,2,3,4,7,8- | 0.6739 | 0.7769 | 0.9012 |
| 1,2,3,6,7,8- | 0.7111 | 0.7634 | 0.8780 |
| 1,2,3,7,8,9- | 0.7048 | 0.7567 | 0.8857 |
| 1,2,3,4,6,7,8- | 0.5986 | 0.6739 | 0.8333 |
| 1,2,3,4,6,7,8,9- | 0.5049 | 0.6098 | 0.7838 |
なお,Table 2のような基準値に依存する類似性指数の値の変化と塩素置換数の等しい異性体の構造式,例えば6置換体の構造式を比較することで,分子構造の類似性が一意的なものではなく区別する基準によって変化しうるものであることを啓発することができる.
なお,本研究の一部は山口県立大学研究創作活動助成事業によるものであることを,ここに記して感謝する.