自己阻害型p47phoxの活性化機構に関する分子シミュレーション

渡部 洋子, 坪井 秀行, 古山 通久, 久保 百司, Carlos A. Del Carpio, 一石 英一郎, 河野 雅弘, 宮本 明


Return

1 緒言

NADPHオキシダーゼは白血球細胞の顆粒球のうち特に好中球中に存在し、細菌やウィルスに対する生体防御において重要な役割を果たす酵素である。これは次式に示す溶存酸素と還元基質であるNADPHから活性酸素を生成する反応の触媒として機能する [1, 2]。

細菌や異物が侵入すると好中球はそれらを食胞内に取り込み、NADPHオキシダーゼによって生成された活性酸素産生系によって殺菌を行う。しかし同時に過剰に生成した活性酸素は正常な細胞を破壊する可能性も有しており、慢性炎症など種々の病態に深く関与していることが報告されている [3]。従ってNADPHオキシダーゼの活性/不活性状態を厳密に制御することは、生体の恒常性維持にとって必須である。
休止状態の好中球において、NADPHオキシダーゼサブユニットは細胞膜と細胞質に分かれて存在している。NADPHオキシダーゼの触媒中心は膜内在性の鉄タンパク質であるシトクロムb558である。シトクロムb558は、細胞膜サブユニットgp91phox及びp22phoxから構成される [4]。このシトクロムb558は細胞質サブユニットp47phox、p67phox、及び低分子GTPase Racと複合体を形成しなければ活性化することができない。これらの細胞質サブユニットは好中球が貪食作用を惹起する過程で細胞膜へ移行する [5]。
膜移行において重要な役割を果たすのがp47phoxであり、このサブユニットはFigure 1に示すようにPhox homology (PX) ドメイン、N末端側及びC末端側のSrc homologyドメイン (N-SH3及びC-SH3)、polybasic領域、及びproline-rich (P) 領域から構成されている。NADPHオキシダーゼ活性化のスイッチの役割を持つp47phoxには、SH3ドメインの結合表面をpolybasic領域との分子内相互作用によって覆うことで、細胞膜サブユニットとの結合を阻害するという負の制御が存在している [1, 6 - 8]。好中球が異物と認識している物質の体内進入、すなわち貪食シグナルを受けると、細胞認識に従いp47phoxはリン酸化され、この不活性な自己阻害型の構造が変化する。2つのSH3ドメインはpolybasic領域の代わりにp22phoxの細胞質領域と複合体を形成することで、細胞質サブユニットを細胞膜に会合させシトクロムb558を活性化させる [9]。


Figure 1. Domain organization of NADPH oxidase subunits p47phox.

一方、これまでにpolybasic領域において5つのセリン残基 (Ser 303, Ser 304, Ser 315, Ser 320, Ser 328) が貪食シグナルによってリン酸化されることが解明されている [10, 11]。しかし、これらのリン酸化サイトの中でもSer 315及びSer 320はシトクロムb558に与える影響は少なく、Ser 303、Ser 304、及びSer 328が特に重要であることが示された [1, 12, 13]。これらのセリン残基はいずれも1残基もしくは2残基のリン酸化ではシトクロムb558を活性化することはできず、3つ全てがリン酸化して初めて活性酸素生成が可能になる。このようなp47phoxのリン酸化メカニズムの解明は炎症性疾患の発症原因を特定するために重要である。しかし、p47phoxのセリン残基のリン酸化によってどのような構造変化が起こり、SH3ドメインのリガンド交換が導かれるかは明らかになっていない。そこで本研究では分子動力学法を用いて、自己阻害型p47phoxのリン酸化におけるダイナミクスを解析し、各リン酸化サイトの役割及びリン酸化プロセスのメカニズムを検討した。

2 方法

本研究では計算手法として生体分子用分子力学・分子動力学プログラムImpact及びMacroModel (Schrodinger Inc., Portland, OR) [14] を用い、力場としてOPLS-AA [15]、溶媒効果の考慮にSurface Generalized Born (SGB) モデル [16, 17] を適用した。

2. 1 OPLS-AA力場

OPLS-AAは溶液の分子シミュレーションに対して有効な力場として知られている。これは実験値及び量子力学計算の結果を用いて分子内の共有結合 (bond)、結合角 (angle)、及び二面角 (torsion) のパラメータを決定している。OPLS-AAにおいて、これらの相互作用 (Vintra) はパラメータreq及びqeqを用いて次式で与えられる。

ここでKr及びKqは力定数、r及びqは結合長及び結合角を示す。ここでVtorsionは次のようにフーリエ級数で展開して計算する。

ここでjは二面角、Vはフーリエ係数である。非共有結合力 (van der Waals力及び静電相互作用) は次式で与えられる。

qi及びqjは電荷、Rijは原子間距離を示す。結合トポロジー (Figure 2)での距離が1-5の位置以上に遠い場合は式 (4) を適用し、1-4の場合はその1/2を適用する。ここでeij及びsijは各原子のLennard-Jonesポテンシャルパラメータ (s及びe) の相乗平均を用いて計算する。


Figure 2. Definition of bond topology.

2. 2 Surface Generalized Bornモデル

生体内に近い環境でシミュレーションを行うためには、溶媒分子の考慮は不可欠である。溶媒を陰的に扱い平均的な寄与を計算する連続体近似の手法は、効率的な計算を可能とし生体分子系のシミュレーションに非常に有効である[18]。そのため近年Poisson-Boltzmann式の近似に基づいたSurface Generalized Born (SGB) モデルが開発された [16, 17]。
Born式において、誘電率eiの媒質から誘電率eoの媒質へ球状の溶質を移すときに必要とされる静電エネルギーは、この2つの系のエネルギー差として求めることができる [19]。任意の形状を持った溶質分子に対しては、溶媒の静電エネルギーは以下のGeneralized Born (GB) 式から求めることができる [20, 21]。

ここでq及びaは原子の電荷及び半径であり、rijは原子i及びj間の距離である。DGpairDGsingleaij及びDは式(8)、(9)、(10)、(11)でそれぞれ示される。

DGsingleは自己エネルギーであり、DGpairは溶質原子間の静電エネルギーを示す。
SGBモデルにおいて、DGsingleは次式で定義される。

ここで、riは原子iの座標であり、n (R) は分子表面 (R) に垂直なベクトルを示す。DGsingleが求められると、式 (9) から有効Born半径aiを計算することができる。このように全ての原子の有効Born半径が求められると、式 (7) で表されるGB式から溶媒の静電自由エネルギーを計算することができる。

2. 3 初期構造及び計算条件

自己阻害状態のp47phoxのX線結晶構造はProtein Data Bank (PDBコード:1NG2 [12]) から得た。このX線結晶構造に、溶液中での触媒作用を想定するためにSGBモデルを適用し、エネルギー最小化を行ったものを野生型の初期構造とした。これまでp47phoxを含む多くのタンパク質において、アミノ酸残基のリン酸化による効果はグルタミン酸置換によって検討されてきた [1, 11, 20]。そこで本研究においてもこの構造のpolybasic領域におけるセリン残基をグルタミン酸置換することで、リン酸化セリンを模倣した。リン酸化モデルはSer 303及び304を置換したもの (S303/304E)、Ser 303、304、及び328を全て置換したもの (S303/304/328E)、及びSer 328のみを置換したもの (S328E) の3種類とした。これらのモデルのうちS303/304/328EのみがNADPHオキシダーゼを活性化させることができ、野生型、S303/304E、及びS328Eは酵素としては不活性型である。リン酸化モデルの作成にはSwiss-PDB viewer [22] の回転異性体ライブラリを用い、グルタミン酸置換を行った残基の周囲のみ再度エネルギー最小化を行って初期構造とした。
続いてこれら4つのモデル (野生型, S303/304E, S303/304/328E, S328E) に関して分子動力学計算を行った。この際、生体内に近い条件にするためpolybasic領域を除くN末端とC末端の1残基を、またC-SH3とpolybasic領域をつなぐlinkerをリン酸化による構造変化に大きな影響を与えないと考え初期位置に拘束した。拘束した原子は、シミュレーション中一定のバネ定数で初期位置からの動きを制限される。計算条件は原子数、体積、温度一定のNVTアンサンブルとし、310 Kにおいて2 fsの積分時間で500000 step、トータルで1 nsのダイナミクス計算を行い、4 psごとにトラジェクトリを出力した。また力場はOPLS-AAとし、溶媒効果としてSGBモデルを適用した。

2. 4 トラジェクトリの評価

本研究において、分子の立体構造の可視化にはUCSF Chimera [23] を用いた。またモデルの水素結合及び疎水性相互作用はLIGPLOT [24] を用いて解析し、溶媒露出面積 (ASA) はLee及びRichardsが提案したアルゴリズム [25] に基づいて算出した。

3 結果と考察

3. 1 初期構造及び分子動力学計算の妥当性

Figure 3(a) にエネルギー最小化後のp47phoxとX線結晶構造の座標の根平均二乗変位 (RMSD)、Figure 3(c) にその残基が形成する二次構造を示す。ループ領域においてRMSDは大きく変化しているが、波型で示されるaヘリックス及び矢印で示されるbストランド領域においてはエネルギー最小化の過程においてX線結晶構造を良く保っていることが分かる。


Figure 3. Root mean square deviation (RMSD) of the initial and final structures of auto-inhibited p47phox for the molecular dynamics simulations against residue number. a, RMSD between the energy-minimized initial structure and the X-ray structure; b, RMSD between structures of Wild-type, S303/304E, S303/304/328E, and S328E and the X-ray structure. RMSD of only N- and C-SH3 domains is shown; c, Secondary structure of p47phox.

またそれに続く分子動力学計算も同様に、溶媒モデルにSGBモデルを用いた。この分子動力学計算の妥当性を確認するため、計算の初期構造と1 ns後の最終構造におけるSH3ドメインの座標の比較を行った。ここでN-SH3及びC-SH3それぞれに関して初期構造と最終構造の重ね合わせを行った後、RMSDを算出した。Figure 3(b) にN-SH3及びC-SH3におけるRMSDを示す。Figure 3(a) と同様、SH3ドメインにおいてaヘリックス及びbストランド領域は初期構造を保っていることが分かる。以上より、SGBモデルを適用した2.3のエネルギー最小化の手順、及びそれに続く分子動力学計算によって得られた構造が妥当であると言える。

3. 2 SH3ドメイン-PPIIヘリックス領域間の相互作用

p47phoxが形成する自己阻害型構造において、polybasic領域は2つのSH3ドメインの両方と相互作用を形成している。YuzawaらはX線結晶構造に基づいてこの相互作用を解析し、特にpolyproline type-II (PPII) ヘリックス構造をとっている297GAPPR301配列が中心的役割を担っていることを明らかにした [26]。PPIIヘリックスの主鎖は三角柱に似た立体構造とっており、頂点に位置するPro 299を中心に三角柱の2つの面がそれぞれN-SH3及びC-SH3と相互作用している。まず自己阻害型p47phoxにおけるこのような相互作用が、グルタミン酸置換によりどのように変化していくかを解析した。Figure 4に1 nsの分子動力学計算における系のトータルエネルギー変化を示す。野生型は130、320、420、及び930 ps、S303/304Eは100、810、及び970 ps、S303/304/328Eは490、610、及び710 ps、S328Eは30、80、600、及び970 psにおいてエネルギーが低い値をとっていた。そこでこれらの構造が安定なコンホメーションを形成していると考え、更に詳しく構造を解析した。ここで、シミュレーション中に現れた全ての構造が互いにどのような関係にあるかを確認するため、XCluster [27] によるクラスタ解析を行い各構造の座標に基づいて類似度を求めた。Table 1にS303/304E及びS328Eに対する分子動力学計算において、互いに類似度が高い構造が現れた時間を示す。S303/304Eにおいて低いエネルギー値を示したうちの1つである100 ps、及びS328Eにおいて低いエネルギー値を示したうちの1つである30 psにおける構造と類似度の高い構造は、シミュレーション中にほとんど現れていなかった。一方野生型の130、320、420、930 ps、における構造及びS303/304/328Eの490、610、710 psにおける構造にはこのような現象は見られなかったため、クラスタ解析の結果は省略する。以上よりこれら2つの構造の重要性は低いと考え、この先の考察から除外した。


Figure 4. Total energy changes during the molecular dynamics simulations of four investigated models. a, Wild-type; b, S303/304E; c, S303/304/328E; d, S328E .

Table 1. Classification for S303/304E and S328E by Cluster analysis. Structures derived by molecular dynamics simulations are classified according to their degree of similarity. Low energy structures are presented in bold type.

Figure 5は各モデルにおけるSH3ドメイン-polybasic領域間の相互作用を示す。ここでは、各々のモデルにおいて低いエネルギー値を与えたもののうち、最終の構造についての結果を示す。具体的には野生型は930 ps、S303/304Eは970 ps、S303/304/328Eは710 ps、S328Eは970 psとし、polybasic領域の残基296-304の周囲のみ更にエネルギー最小化を行った後解析した。この図から野生型、S303/304E、及びS303/304/328Eにおいて、polybasic領域はN-SH3及びC-SH3と同様に相互作用を形成しているが、S303/304/328Eにおいては主にC-SH3と相互作用していることが分かる。またPPIIヘリックス領域であるGAPPR配列に注目すると、野生型においてはGly 297、Pro 299、及びPro 300がN-SH3と、Ala 298、Pro 299、及びArg 301がC-SH3と相互作用しており、Pro 299は2つのSH3ドメイン両方と相互作用していた。これはYuzawaらによって示されたX線結晶構造におけるSH3ドメインのターゲット認識 [26] と全く同じであり、野生型においてはこのSH3ドメイン-PPIIヘリックス間相互作用が保たれていることを示す。それに対しシトクロムb558を活性化することのできるS303/304/328EはGAPPR配列の全ての残基がC-SH3と相互作用しており、Gly 297及びPro 300のみN-SH3とも相互作用を形成していた。またグルタミン酸置換はされているもののシトクロムb558を活性化することのできないS303/304E及びS328Eは、GAPPR配列のほぼ全ての残基が2つのSH3ドメイン両方と相互作用を形成していた。以上より、polybasic領域はリン酸化の度合いに従って次第にC-SH3との相互作用を形成し、活性酸素を生成可能なモデルにおいてはPPIIヘリックスを形成する全ての残基がC-SH3と相互作用していることが明らかにされた。


Figure 5. Intra-molecular interaction between the tandem SH3 domains and the polybasic region. a, Wild-type at 930ps; b, S303/304E at 970ps; c, S303/304/328E at 710ps; d, S328E at 970ps. The residues of the polybasic region are shown in the middle of the figures. The residues of N-SH3 and C-SH3 are drawn on the left side and right side of the polybasic region, respectively. Hydrogen bonds and hydrophobic interactions are indicated by black dashed lines and gray semi-circles, respectively.

3. 3 p47phoxの活性化プロセスにおける各リン酸化サイトの寄与

Figure 6(a) は野生型の初期構造においてSer 303、304及び隣接した残基が形成する水素結合を示す。PPIIヘリックス構造と隣接した残基302-305は、Arg 302のカルボニル酸素とIle 305のアミド窒素間の水素結合で安定化した310ヘリックス構造を形成している。Figure 6(b) にこの水素結合を形成する原子間の距離の経時変化を示す。S303/304/328Eにおいてこの原子間距離が増加していることから、310ヘリックスがp47phoxの自己阻害型構造の形成に重要であることが示唆される。しかしSer 303及び304はこの310ヘリックスに含まれているにもかかわらず、この2つをグルタミン酸置換しただけではヘリックスを形成する水素結合に影響はない。一方S328Eにおいては、S303/304/328Eと同様にArg 302のカルボニル酸素-Ile 305のアミド窒素の原子間距離が増加している。このことからSer 328は立体的に離れて位置しているにもかかわらず、残基302-305から成る310ヘリックスの安定化に大きく影響することが示された。またFigure 6(a) に示すように、この310ヘリックスに含まれるSer 303の側鎖はGlu 241の側鎖と水素結合することでC-SH3との相互作用を形成している。Figure 6(c) にこの水素結合を形成する原子間の距離の経時変化を示す。Ser 303をグルタミン酸置換したモデル (S303/304E, S303/304/328E) においてはこの水素結合を形成する原子が存在せず、2つの残基の側鎖間の距離も増加する。一方3.2で述べたように、p47phoxはリン酸化に伴って次第にC-SH3との相互作用を形成していく。従ってリン酸化の過程におけるp47phoxのpolybasic領域は、自己阻害型構造とは異なるサイトでC-SH3との結合を形成している可能性が示された。


Figure 6. Hydrogen bonds formed by the mutation site, Ser 303 and 304, and the residues around it. a, Hydrogen bonds formed in the initial structure of wild-type. Hydrogen bonds are indicated with gray dashed lines. The residues located in C-SH3 and the polybasic region are shown in black. 310 Helix region is shown in black circle; b, The changes in atom-atom distance between the backbone carbonyl oxygen atom of Arg 302 and the amide nitrogen atom of Ile 305 in four investigated models; c, The changes in atom-atom distance between the sidechain of Ser (Glu in S303/304E and S303/304/328E) 303 and Glu 241.

PPIIヘリックスに隣接しているSer 303及び304と比較して、Ser 328はp47phoxのSH3ドメインから形成される結合サイトと直接相互作用することはない。Figure 7(a) は野生型の初期構造においてSer 328及び隣接した残基が形成する水素結合を示す。Ser 328は残基321-328から形成されるaヘリックスに含まれており、C-SH3の残基Arg 267と水素結合を形成している。Figure 7(b) にこの水素結合を形成する原子間の距離の経時変化を示す。Ser 328をグルタミン酸置換したモデル (S303/304/328E, S328E) においてはこの水素結合を形成する原子が存在せず、2つの残基の側鎖間距離も増加する。またFigure 8aヘリックス領域 (Res 321-328) におけるRamachandran Plotを示す。ここでPhi及びPsiはそれぞれポリペプチド鎖におけるN-Ca結合及びCa-C結合の回転角を表している。野生型はシミュレーションを通してaヘリックス構造を保っているが、他の3つのモデルはいずれもaヘリックスに対するプロットから外れておりヘリックス構造が壊れていることが読み取れる。よってこのaヘリックス構造が壊れC-SH3と相互作用できなくなることが、p47phoxの自己阻害型構造の変化に影響を与える可能性が考えられる。またS303/304Eにおいてもこのaヘリックス構造が壊れていたことから、ヘリックスを形成するSer 328だけでなくSer 303及び304もヘリックスの安定化に大きな役割を持っていることが示された。


Figure 7. Hydrogen bonds formed by the mutation site, Ser 328, and the residues around it. a, Hydrogen bonds formed in the initial structure of wild-type. Hydrogen bonds are indicated with gray dashed lines. The residues located in C-SH3 and the polybasic region are shown in black; b, The changes in atom-atom distance between the sidechain of Ser (Glu in S303/304E and S303/304/328E) 303 and Glu 241.


Figure 8. Ramachandran plots for the PPII helix region of the polybasic region (residues 297-301) during the molecular dynamics simulations. a, Wild-type; b, S303/304E; c, S303/304/328E; d, S328E. The dark gray solid lines and light gray regions indicate the range of allowed and core regions [28], respectively. The star region indicates the plot of typical a helix.

以上より、SH3ドメインのターゲットであるPPIIヘリックス領域 (Res 297-301) に隣接している310ヘリックス (Res 302-305) だけではなく、PPIIヘリックス領域から離れて位置するaヘリックスもp47phoxの自己阻害型構造の安定化に寄与していると考えられる。またSer 303及び304とSer 328は立体的に離れているが、そのリン酸化は互いに他方が形成する二次構造も変化させている。一方S303/304/328Eにおいては310ヘリックス構造が変化し、更に自己阻害型構造におけるC-SH3との相互作用が壊れているが、これらの変化は3つの残基を全てリン酸化しなければ同時には起こらないことが示された。

3. 4 SH3ドメインのリガンド交換メカニズム

Figure 9は各モデルにおいて、N-SH3 (Res 159-213) 及びC-SH3 (Res 229-283) の原子それぞれについて算出したASAの経時変化を示す。野生型、S303/304E、及びS328EにおいてはN-SH3、C-SH3共にASAはほぼ一定に保たれていた。それに対しS303/304/328EはN-SH3のASAが増加傾向にあり、逆にC-SH3のASAは減少していた。これは3つのセリン残基のリン酸化により、N-SH3が溶媒に露出することを示している。また3.2で述べたようにS303/304/328EはC-SH3と新たに相互作用を形成しているため、C-SH3のASAが減少していると考えられる。


Figure 9. The changes in solvent accessible surface area (ASA) for the SH3 domains. a, Wild-type; b, S303/304E; c, S303/304/328E; d, S328E.

以上の結果よりp47phoxのリン酸化によるSH3ドメインのリガンド交換について、Figure 10に示すメカニズムを提案する。まずNADPHオキシダーゼが不活性な状態では、p47phoxはSH3ドメインとpolybasic領域が結合した自己阻害型構造を形成している。貪食シグナルを受けてp47phoxのセリン残基がリン酸化すると、polybasic領域はC-SH3ドメインと新たな相互作用を形成し、N-SH3の結合表面は溶媒に露出する。続いて露出したN-SH3にp22phoxの細胞質領域が結合してリガンド交換が起こり、最終的にp47phoxとp22phoxが安定な複合体を形成しシトクロムb558のgp91phoxのヘム部位において活性酸素を生成することが可能になる。Groempingらは等温滴定型熱量測定により、C-SH3のみではp22phox細胞質領域間との間に相互作用は存在しないが、N-SH3は単独でもp22phox細胞質領域と弱い相互作用を形成することを報告している [12]。よってFigure 10に提案したリガンド交換メカニズムは、この報告によっても妥当性が支持される。


Figure 10. A proposed mechanism for the ligand exchange of SH3 domain.

Table 2は野生型の初期構造におけるSH3ドメイン-polybasic領域間の相互作用エネルギーを示している。相互作用エネルギーは、リガンドをpolybasic領域のSH3ドメイン結合領域全体 (Res 296-304) 及びPPIIヘリックス領域のみ (Res 297-301) の2種類、レセプタを2つのSH3ドメイン両方 (Tandem SH3, Res 159-283)、N-SH3のみ (Res 159-213)、及びC-SH3 (Res 229-283) のみの3種類として次式から求めた。

Table 2. Intra-molecular interaction energy of the initial structure of the wild-type at the beginning of the molecular dynamics simulations.
LigandReceptorInteraction energy [kcal/mol]
Tandem SH3-117.139
SH3 domain-binding regionN-SH3-52.344
C-SH3-53.763
Tandem SH3-66.831
PPII helix regionN-SH3-21.153
C-SH3-47.317

ここでEreceptor及びEligandは上述のレセプタとリガンドのトータルエネルギーであり、Ecomplexはレセプタとリガンドから形成される複合体のトータルエネルギーを示す。Table 2から、SH3ドメイン結合領域−N-SH3間とSH3ドメイン結合領域−C-SH3間の相互作用エネルギーはほぼ等しいことが分かる。しかしPPIIヘリックス領域のみに注目すると、この領域は主にC-SH3と強く相互作用している。従ってp47phoxのpolybasic領域は2つのSH3ドメインと同様に相互作用しつつも、PPIIヘリックス領域−N-SH3間の相互作用は比較的弱いと言える。またこのようにして自己阻害型構造を形成していることは、Figure 10に示すようなリガンド交換を起こりやすくするのではないかと考えられる。

4 結言

p47phoxのリン酸化による自己阻害型構造の変化と各リン酸化サイトの役割、及びリガンド交換のメカニズムに関して分子動力学計算により解析を行った。p47phoxの活性化に重要なリン酸化サイトはSer 303、304、及び328であり、PPIIヘリックス領域に隣接するSer 303及び304は310ヘリックスに、Ser 328はaヘリックスに含まれている。これらはリン酸化によりヘリックス構造を保てなくなることから、p47phoxの自己阻害型構造の安定化に寄与していることが示された。また自己阻害型p47phoxはpolybasic領域がPPIIヘリックス構造をとっており、2つのSH3ドメイン両方と相乗的に相互作用している。しかしPPIIヘリックス領域は主にC-SH3と相互作用しており、N-SH3との相互作用は比較的弱いということが確認された。polybasic領域におけるセリン残基がリン酸化すると更にC-SH3との相互作用は強くなり、N-SH3は溶媒に露出していく。このことからp47phoxのSH3ドメインにおけるリガンド交換は、まずリン酸化によって溶媒に露出したN-SH3とp22phoxの細胞質領域が結合することによって起こると予測される。

参考文献

[ 1] T. Ago, H. Nunoi, T. Ito, H. Sumimoto, J. Biol. Chem., 274, 33644 (1999).
[ 2] A. J. Thrasher, N. H. Keep, F. Wientjes, A. W. Segal, Biochim. Biophys. Acta., 1227, 1 (1994).
[ 3] V. Benard, G. M. Bokoch, B. A. Diebold, Trends Pharmacol. Sci., 20, 365 (1999).
[ 4] J. Huang, N. Hitt, M. E. Kleinberg, Biochemistry, 34, 16753 (1995).
[ 5] F. R. DeLeo, M. T. Quinn, J. Leukocyte Biol., 60, 677 (1996).
[ 6] J. Huang, M. E. Kleinberg, J. Biol. Chem., 274, 19731 (1999).
[ 7] H. Sumimoto, Y. Kage, H. Nunoi, H. Sasaki, T. Nose, Y. Fukumaki, M. Ohno, S. Minakami, K. Takeshige, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 5345 (1994).
[ 8] T. L. Leto, A. G. Adams, I. de Mendez, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 10650 (1994).
[ 9] H. Sumimoto, K. Hata, K. Mizuki, T. Ito, Y. Kage, Y. Sakaki, Y. Fukumaki, M. Nakamura, K. Takeshige, J. Biol. Chem., 271, 22152 (1996).
[10] A. Fontayne, P. M. Dang, M. A. Gougerot-Pocidalo, J. El Benna, Biochemistry, 41, 7743 (2002).
[11] J. El Benna, R. P. Faust, J. L Johnson, B. M. Babior, J. Biol. Chem., 271, 6374 (1996).
[12] Y. Groemping, K. Lapouge, S. J. Smerdon, K. Rittinger, Cell, 113, 343 (2003).
[13] O. Inanami, J. L. Johnson, J. K. McAdara, J. E. Benna, L. R. Faust, P. E. Newburger, B. M. Babior, J. Biol. Chem., 273, 9539 (1998).
[14] F. Mohamadi, N. G. J. Richards, W. C. Guida, R. Liskamp, M. Lipton, C. Caufield, G. Chang, T. Hendrickson, W. C. Still, J. Comput. Chem., 11, 440 (1990).
[15] W. L. Jorgensen, D. S. Maxwell, J. Tirado-Rives, J. Am. Chem. Soc., 118, 11225 (1996).
[16] L. Zhang, E. Gallicchio, R. Friesner, R. M. Levy, J. Comput. Chem., 22, 591 (2001).
[17] A. Ghosh, C. S. Rapp, R. A. Friesner, J. Phys. Chem. B, 102, 10983 (1998).
[18] J. Tomasi, M. Persico, Chem. Rev., 94, 2027 (1994).
[19] M. Born, Z. Phys., 1, 45 (1920).
[20] L. Huang, T. Y. W. Wong, R. C. C. Lin, H. Furthmayr, J. Biol. Chem., 274, 12803 (1999).
[21] W. C. Still, A. Tempczyk, R. C. Hawley, T. Hendrickson, J. Am. Chem. Soc., 112, 6127 (1990).
[22] N. Guex, M. C. Peitsch, Electrophoresis, 18, 2714 (1997).
[23] E. F. Pettersen, T. D. Goddard, C. C. Huang, G. S. Couch, D. M. Greenblatt, E. C. Meng, T. E. Ferrin, J. Comput. Chem., 25, 1605 (2004).
[24] A. C. Wallace, R. A. Laskowski, J. M. Thornton, Protein Eng., 8, 127 (1995).
[25] B. K. Lee, F. M. Richards, J. Mol. Biol., 55, 379 (1971).
[26] S. Yuzawa, N. N. Suzuki, Y. Fujioka, K. Ogura, H. Sumimoto, F. Inagaki, Genes Cells, 9, 443 (2004).
[27] P. S. Shenkin, D. Q. McDonald, J. Comput. Chem., 15, 899 (1994).
[28] A. L. Morris, M. W. MacArthur, E. G. Hutchinson, J. M. Thornton, Proteins, 12, 345 (1992).


Return