離散形河川水質モデルと不完全データ問題

青山 智夫a*, 神部 順子b, 長嶋 雲兵c

a宮崎大学工学部, 〒889-2192 宮崎市学園木花台西1-1
b大東文化大学外国語学部, 〒175-8571板橋区高島平1-9-1
c産業技術総合研究所計算科学研究部門, 〒305-8568つくば市梅園1-1-1

(Received: November 21, 2005; Accepted for publication: February 6, 2006; Published on Web: June 5, 2006)

  都市を流域とする河川水質シミュレーションのための離散形式の四モデル,単純離散,堰,地下浸透,双未定係数モデルを提示した.それらモデルで記述された人工河川の水質を神経回路網により解析した.目的は水中物質量変化を離散表示する妥当性を,モデルの支配方程式逆算可能性の観点から検討することである.逆算可能ならば河川作用をデータのみから推定できる.
  神経回路網は非線形現象解析に有用である.解析には離散形式のデータ集合が必要である.データ集合は観測値と現象要因の離散形データを含む.神経回路網はデータを学習することにより現象記述機能を獲得する.獲得には観測,要因データに不足があってはならない.不足とはデータ集合要素の存在自明,値不明の場合と,測定要因データの一部種の全欠損,要因存在不確実の三種類がある.最初の場合を欠測という.欠測を含むデータ処理は近年研究されているが後二者は検討例が少ない.我々は環境問題解析に後者の検討は必要と考える.同時にそれは神経回路網の出力値検定に関わる重要問題である.
  本稿では神経回路網の非線形多変量解析機能を基にデータ不足状況における挙動を調査する.主目的は同回路網の機能限界を明確にすることである.そのためデータ誤差の考察を除外した.一般に観測誤差の統計的性質は確かでない.不確実データを基に適用限界の議論は困難である.そのためにモデルを考案し人工河川を定義した.河川データは一様乱数を基に作成した.そしてあえて解析に必要な現象要因データを省き,データ不足状況を作った.
  神経回路網解析から以下の事実が判明した.1.水中物質量変化を離散表示することは妥当である.データが完備していれば離散表示から精度良く現象要因を計算できる.2.データ不足状態でも神経回路網は精度良く河川水中の物質量をシミュレーションする.一方,同回路網の出力値の偏微分係数は正確な要因値を示さない.3.原因は欠損要因を他が補完するためである.4.データ要素の偏微分値変化の大きさがその補完要因種を示す.5.偏微分値変化から欠損要因の性質が推定できる.6.それが可能であるのはモデル支配方程式の概要が推測できる場合である.これら事実は水中物質量変化が離散表示可能なこと,モデル支配方程式がデータのみから逆算できることを示し,総じて河川作用を観測データのみから推定できる可能性を示唆する.

キーワード: 河川モデル, 浄化作用, 神経回路網, 偏微分係数, 欠測


Abstract in English

Text in Japanese

PDF file(217kB)


Return