線形多変量解析を用いた徳島吉野川の水質の解析

神部 順子, 青山 智夫, 山内 あい子, 長嶋 雲兵


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1 はじめに

吉野川は徳島県内最大の一級河川であり,幹線流路延長194km のうちに数多くの支川と合流しながら流下する.この川は近年四国一きれいな川として知られている穴吹川を支流として抱える一方で,下流部には昭和40 年代に水質汚濁で知られた新町川を派川としている[1].吉野川流域は多くの支流の合流や分流があり,複雑である.そのため,総合的な水質の解析は困難である.
本研究では,吉野川の水質浄化の指針を得るために,吉野川水系の上流から河口に至るまでの5つの水質パラメータの変化を主成分分析とクラスター分析を用いて解析し,吉野川水系の上流から下流までの汚染度をみるための複合的な指標を得ることを試みた.主成分分析はなるべく少ない合成変数で,なるべく多くの情報を把握するという情報の縮約を実現する方法であるため,汚染度をみるための複合的な指標を得るために用いた.それにより,測定地点のグループ化が可能であった.クラスター分析は似通った測定点あるいは変数のグループ化を行うための分析手法であり,本研究ではユークリッド距離を用いたグループ化と,主成分分析によって得られた第一主成分と第二主成分のKahunen-Loeveプロット(K-L Plot)によるグループ化の対応を確認した. 解析にはWindowsPC上でSPSS ver. 11.0[2]を用いた.


Figure 1. Schematic Map of Sampling Points along the Yoshinogawa, Tokushima, Japan. See Table 2 for details of monitoring points.

Table 1. Abbreviations and explanation of chemical index of water analysis
Chemical index (abbreviations)Explanation
Dissolved Oxygen (DO)Amount of dissolved oxygen that is freely available in water to sustain fish and other aquatic organisms. Lower DO level indicates higher level of water pollution.
Biochemical Oxygen Demand (BOD)Total amount of oxygen consumed in the biological processes that break down organic matter in the water. Higher BOD level indicates higher level of water pollution.
Chemical Oxygen Demand (COD)Mass concentration of oxygen consumed by the chemical breakdown of organic and inorganic matter. Higher COD level indicates higher level of water pollution.
Total Nitrogen (TN)Total amount of nitrogen compounds contained in water. Can be divided into inorganic and organic matter groups, as well as into dissolved matter and particulate matter groups.
Total Phosphorus (TP)Total amount of phosphorus compounds contained in the water. Can be divided into inorganic and organic matter groups, as well as into dissolved matter and particulate matter groups.

本研究では,国立環境研究所が提供する「国立環境研究所環境データベース」公共用水域水質年間値データファイル[3]を利用した.このデータは,全国の公共用水域において都道府県等が測定した結果を環境省がとりまとめたものである. 2002 年度のデータで26地点(支流も含む)の5種類の水質パラメータについて分析した.このデータには,欠測が有り再測定不能であるためそれらを線形関数とニューラルネットを用いて補完した.これにより,得られる情報を最大限利用することができる.
Figure 1 に吉野川26の測定地点の河口からの距離を大まかに捉えるために測定地点の概略を示す.吉野川は中・下流域が複雑であることがわかる.
解析に用いた5種類の水質データの略号と内容をTable 1に示す.ここで,TP は8 地点,TN は5 地点で欠測となっている.そこで,まず最初に3つのパラメータ(BOD,COD,DO)がそろっている26 測定地点3パラメータのデータを用い,主成分分析とクラスター分析を行った.その後にTP とTN のデータを加えた5つのパラメータがそろっている18 測定地点5パラメータのデータを用いて,同様の解析を行った.   
18測定地点5パラメータの結果から,TPとTNも河川の汚染度を見るのに重要であることがわかったので,さらにTP とTN の値が欠測となっている地点のデータを予測し,そのデータを用いて26測定地点5パラメータの解析をおこなった.

2 データ

Table 2 に2002年の吉野川のデータを示す.Table 2の陰の部分は,欠測であることを示している.

Table 2. Values of chemical index of water analysis and distances from estuary of monitoring points in the Yoshinogawa region

Shaded parts indicate defect data

3 26地点3パラメータ(BOD, COD, DO)を用いた線形多変量解析

Table 2の全てのデータが揃っている26地点3パラメータ(BOD, COD, DO)を用いたクラスター分析によるデンドログラムをFigure 2に示す.結合されたクラスター間のユークリッド距離の2乗が2.0以上で分類すると,26 測定地点は4グループに分類することができる.


Figure 2. Dendrogram of the Yoshinogawa, 3 parameters, 26 monitoring points

グループ1は,河口からの距離が長い順に平和橋(1)から吉野川水系が4つに分岐するまでの6測定地点と,共栄橋(12)以外の旧吉野川上流水域の3測定地点,合計9測定地点である.水質が清浄であると解釈される測定地点のグループである.
グループ2は旧吉野川上流の共栄橋(12)と旧吉野川下流の大津橋(16),旧吉野川に流れ込む支流の撫養川2測定地点,今切川のうち鍋川合流点(20)以外の5測定地点,吉野川下流2測定地点とこの2つの間に流れ込む支流の鮎喰川(8),新町川のうち新町水門(23),合計13測定地点である.
グループ3は今切川水域の測定地点のうち最も汚染の進んでいる鍋川合流点(20),および新町川の三ツ合橋(24)と漁連前(26)の3測定地点である.グループ4は新町橋(25)のみである.新町橋(25)は他のグループとは距離が大きく離れており,全測定地点の中で,特に水質汚染が進んでいる.
BOD とCOD は値が大きいほど汚染の度合いが進んでいることを示すパラメータであり,DOは値が小さいほど汚染の度合いが進んでいることを示すパラメータである.第一主成分(fac. 1)の係数の符号が負であるのはその関係を示している.そのため第一主成分の値が小さいほど清浄である.第二主成分はBODとDOが大きな重みをもっている.
Table 3に26地点3パラメータを用いた主成分分析の第一から第三主成分の固有値と寄与率および累積寄与率を示す.26地点3パラメータを用いた主成分分析の寄与率は,第一主成分(90.1%)と第二主成分(7.54%)を合わせると95%を超えており,第一主成分だけで汚染程度の記述がほぼ可能である.Table 4に26地点3パラメータを用いた主成分分析の主成分負荷量を示す.第一主成分の係数は全ての項目がほぼ等価の重みを持つ.

Table 3. Eigenvalues and contribution (%) of principal components (the Yoshinogawa, 3 parameters, 26 monitoring points)
eigenvaluecontribution rate(%)cumulative contribution rate(%)
fac.12.7090.1290.12
fac.20.237.5497.66
fac.30.072.34100.00
fac1: the first principal componentfac2: the second principal componentfac3: the third principal component

Table 4. Coefficients in the first and second principal component (the Yoshinogawa, 3 parameters, 26 monitoring points)
fac.1fac.2
BOD0.9360.332
COD0.9770.008
DO-9.9340.341
fac1: the first principal componentfac2: the second principal componentfac3: the third principal component

26地点3パラメータを用いた主成分分析の第一主成分の主成分得点の高い順に並べたものをクラスター分析によるグループ番号および各測定地点の河口からの距離をTable 5 に示す.主成分分析による第一主成分の主成分得点は,クラスター分析によるグループ番号とよく適応していることがわかる.

Table 5. Score of Factor 1, groups in cluster analysis and distances (the Yoshinogawa, 3 parameters, 26 monitoring points)

一方,主成分得点は河口からの距離と対応しておらず,それぞれの流域の水質の悪化に何らかの影響を与える原因が個々にあることが示唆された.特に,今切川流域,新町川流域は,河口からの距離が長い領域(上流)の方で汚染が進んでいる.また,新町橋(25)が最も汚染が進んでいるので,三ツ合橋(24)と新町橋(25)間での汚染源の特定とその除去が急がれる.
26地点3パラメータを用いた主成分分析により得られた第一主成分と第二主成分を用いて観測地点をK-L Plotした結果を,クラスター分析で得られたグループと対応させてFigure 3に示す.観測地点は第一主成分に沿って左側から,一番清浄なグループ1から汚染のもっとも進んでいるグループ4まで順に並んでおり,クラスター分析によって4つに分けられたグループは,第一主成分得点の大きさとよく対応した結果となった.


Figure 3. K-L plots by factors 1 and 2 of the Yoshinogawa, 3 parameters, 26 monitoring points

4 欠測値のない18地点での5パラメータを用いた解析

次に,TP とTN のデータを加えた5つの観測値がそろっている18 測定地点のデータを用いて,同様の解析を行った.
Figure 4に18地点5パラメータを用いたクラスター分析によるデンドログラムを示す.


Figure 4. Dendrogram of the Yoshinogawa, 5 parameters, 18 monitoring points

ここで,結合されたクラスター間のユークリッド距離の2乗が2.0以上になったものは,6つのグループに分類することができた.グループ1は,河口からの距離が長い順に大川橋(2)から穴吹(5)の4測定地点である.グループ2は,平和橋(1),吉野川大橋(9)と旧吉野川のうち共栄橋(12)を除いた4測定地点である.大川橋(2)よりもより上流に位置する平和橋(1)はグループ2に分類された.これは26地点3パラメータでの分析結果とは異なっている.平和橋(1)と大川橋(2)の間に水質浄化作用のある要因があることが伺えるが,具体的にその要因が何であるかは不明である.グループ3は今切川の鯛浜堰上上流側(18)のみである.グループ4は大里橋(15),今切川下流の加賀須野橋(21)と河口(22),鮎喰(8)の4測定地点である.グループ5は新町川の漁連前(26)のみである.グループ6は新町橋(26)のみである.新町橋(26)は26地点3パラメータでの分析結果と同様,他のグループとは大きく距離が離れており,新町橋(26)の上流の汚染源の存在を強く示唆している.
2つのパラメータを加えることで,3つのパラメータでは分離できなかった清浄なグループの2つ(3パラメータの場合のグループ1と2)に属する観測点がそれぞれ2つのグループに分離された.
Table 6に18地点5パラメータを用いた主成分分析の第一から第五主成分の固有値と寄与率および累積寄与率を示す.18地点5パラメータを用いた主成分分析の寄与率は,第一主成分(87.0%)と第二主成分(8.5%)を合わせて95%を超えている.この傾向は26地点3パラメータの傾向と一致している.

Table 6. Eigenvalues and contribution (%) of principal components (the Yoshinogawa, 5 parameters, 18 monitoring points)
eigenvaluecontribution rate(%)cumulative contirbution rate(%)
fac.14.3587.0487.04
fac.20.428.5095.53
fac.30.142.7498.27
fac.40.051.0799.34
fac.50.030.66100.0
fac1: the first principal componentfac2: the second principal componentfac3: the third principal componentfac4: the fourth principal componentfac5: the fifth principal component

Table 7に18地点5パラメータを用いた主成分分析の主成分負荷量を示す.第一 主成分の係数は全ての項目が等しい重みを持ち,DOの係数の符号が負である.これも26地点3パラメータの結果と一致しているが,さらにTNとTPも水質を表す成分のコンポーネントとして重要であることを示している.第二主成分の係数はTNが0.54,DOが0.34で大きな重みをもっている.26地点3パラメータの結果の第二主成分はBODとDOが大きく,傾向が異なっている.これらによりTNとTPも汚染度をみる指標として重要であることがわかる.

Table 7. Coefficients in the first and second principal component (the Yoshinogawa, 5 parameters, 18 monitoring points)
fac.1fac.2
BOD0.9720.031
COD0.970-0.142
DO-0.9040.339
TN0.8320.536
TP0.978-0.032
fac1: the first principal componentfac2: the second principal component

18地点5パラメータを用いた主成分分析の第一主成分の主成分得点の高い順に並べたものとクラスター分析によるグループをTable 8に示す.主成分分析による第一主成分の主成分得点は,クラスター分析によるグループの結果とよく適応していることがわかる.26地点3パラメータと比べると,18地点5パラメータは26地点3パラメータのグループ1が2つのグループ(グループ1,2)に分かれ,26地点3パラメータのグループ2が3つのグループに分解された.これは,パラメータを増やすことにより,より精密な分類が行われたことに他ならない.

Table 8. Score of Factor 1 and groups in cluster analysis (the Yoshinogawa, 5 parameters, 18 monitoring points)

18地点5パラメータを用いた主成分分析により得られた第一主成分と第二主成分を用いてサンプルの採取地点をK-L Plotした結果をクラスター分析で得られたグループと対応させたものをFigure 5に示す.6つに分けられたグループのうち,グループ1,2,5,6は,第一主成分得点とよく対応した結果となった.だが,クラスター分析によって分けられたグループ3とグループ4は第一主成分だけではなく,第一主成分得点と第二主成分得点の組み合わせによって,ようやく分離することができる.


Figure 5. K-L plots by factors 1 and 2 (5 parameters, 18 points)

5つのパラメータで分析した結果,3パラメータのときとは異なり,最も河口からの距離が長い平和橋(1)は,水質汚染が進んでいるグループに分類された.パラメータを増やしたことによって,より吉野川の水質の特徴が明確になったが,欠測のある測定地点を除いたことによって,吉野川全体を知ることは困難になってしまった.特に,汚染の進んでいる新町川に関しての情報が不足している.そこで欠測値を補完し,測定地点を増やしてさらに水質変化を検討する必要があることがわかった.

5 欠測値の予測後,26地点5パラメータを用いた解析

TPの値が欠測となっている8地点 とTN の値が欠測となっている5地点のデータを補完した.欠測値の補完には線形関数とニューラルネットを用いて比較した.線形関数の予測の方法は,5パラメータがそろっている18地点のデータで,各パラメータの2パラメータ間の相関係数を求め,その相関係数が高いものを採用することにした(TN=0.3522×BOD+0.3008,TP=0.041×COD-0.0435).このときニューラルネットワークはPSDD[4, 5] とNECO[6 - 11]を用いた.
Table 9に線形関数とニューラルネットによる予測の結果を示す.TNに関して共栄橋(12)と三ツ合橋(17)および(24)の値が絶対値で両者は0.5以上異なる.TPは共栄橋(12)と三ツ合橋(17)および鯛浜橋(19)の値が絶対値で0.1程度異なった.

Table 9. Estimation of defect data

TPの予測に関してニューラルネットは大きな値を予測しているが,TNとTPの観測値があるものと比べ,TPの値は大きすぎる.特に,共栄橋(12)のTN=0.16に対してTP=0.11,三ツ合橋(17)のTN=0.38に対してTP=0.12であり,整合性に欠ける.そのため今回は,線形関数による予測値を採用した.
Figure 6に26地点5パラメータを用いたクラスター分析によるデンドログラムを示す.ここで,結合されたクラスター間のユークリッド距離の2乗が2.0以上になったもので分類すると,26 測定地点は7つのグループに分類することができた.


Figure 6. Dendrogram of the Yoshinogawa, 5 parameters, 26 monitoring points

グループ1は大川橋(2)から穴吹(5)の4測定地点である.これは,18地点3パラメータで分析したときと同じである.グループ2は平和橋(1)と高瀬橋(6),旧吉野川上流の4測定地点と今切川の三ツ合橋(17)の合計7測定地点である. グループ3は,今切川のうち三ツ合橋(17)と鍋川合流点(20)を除いた4測定地点と,吉野川下流の送電線下(7)の合計5測定地点,グループ4は大里橋(15),大津橋(16),新町水門(23),吉野川大橋(9)で合計4測定地点である.グループ5は,城見橋(14),鍋川合流点(20),鮎喰(8),漁連前(26)の4測定地点である.グループ6は新町川の三ツ合橋(24),グループ7は新町川の新町橋(25)である.
26地点3パラメータの結果と比べると,第一番目のグループが2つに,第二番目のグループが4つに,第3番目のグループが2つに分解された.より精密な分類が可能である. 26地点3パラメータを用いたクラスター分析の結果と26地点5パラメータを用いたクラスター分析の結果を比較すると,平和橋(1)が異なるグループに属することがわかる.これは平和橋(1)のTNの値が大きいことによって生じたと考えられる.これについては鮎喰(8)や城見橋(14)についても同様で,TNの値が分析に加わったことでクラスター分析の結果が異なった.また,新町川については,新町水門(23)から新町川三ッ合橋(24)の間と,新町川三ッ合橋(24)と新町橋(25)の間には何らかの汚染源があり,新町橋(25)は吉野川水系の中で最も汚染されていることがわかる.一方,新町橋(25)の下流にある漁連前(26)は,新町川より清浄なグループに分類されているので,その間には河川の清浄化を強力に進める何らかの要因がある.
Table 10に26地点5パラメータを用いた主成分分析の第一から第五主成分の固有値と寄与率および累積寄与率を示す.26地点5パラメータを用いた主成分分析の寄与率は,第一主成分と第二 主成分でほぼ95%となっている.この傾向は26地点3パラメータおよび18地点5パラメータの結果と一致している.

Table 10. Eigenvalues and contribution (%) of principal components (the Yoshinogawa. 5 parameters, 26 monitoring points)
eigenvaluecontribution rate(%)cumulative contribution rate(%)
fac.14.2685.2285.22
fac.20.479.3894.59
fac.30.142.7797.36
fac.40.091.8799.24
fac.50.040.76100.00
fac1: the first principal componentfac2: the second principal componentfac3: the third principal componentfac4: the fourth principal componentfac5: the fifth principal component

Table 11に26地点5パラメータを用いた主成分分析の主成分負荷量を示す.第一 主成分の係数はBOD が0.94,COD が0.97,DO が-0.90,TNが0.83,TPが0.97 であり,全ての項目が等価である.第二主成分の係数はTNが0.53,DOが0.35で大きな重みを持つ.

Table 11. Coefficients in the first and second principal component (the Yoshinogawa, 5 parameters, 26 monitoring points)
fac.1fac.2fac.3
BOD0.940.160.24
COD0.97-0.150.12
DO-0.900.350.20
TN0.830.53-0.17
TP0.97-0.13-0.02
fac1: the first principal componentfac2: the second principal componentfac3: the third principal component

18地点での結果と同様,第一主成分は5つのパラメータの総合で,第二主成分はTNとDOである.18地点での結果と同様,TNとTPも汚染度をみる指標として重要であることがわかる.
26地点5パラメータを用いた主成分分析の第一 主成分の主成分得点の高い順に並べたものとクラスター分析によるグループを示したものをTable 12に示す.主成分分析による第一 主成分の主成分得点は,クラスター分析によるグループの結果とは適応していないことがわかる.結合されたクラスター間のユークリッド距離の2乗が3.0以上になったもので分類すると,グループ2からグループ4は1つのグループにまとまる.そうすると,主成分分析の第一主成分得点が-0.8以上,0.4以下である測定地点が1つにまとまることになるので,全体では26 測定地点は5つのグループに分類することができる.この5つのグループにすれば,第一主成分得点とクラスター分析によるグループは適応する.26地点5パラメータを用いた主成分分析により得られた第一主成分と第二主成分を用いてサンプルの採取地点をK-L Plotした結果をクラスター分析で得られたグループと対応させてFigure 7に示す.7つに分けられたグループは,第一主成分得点だけではグループ1,5,6,7は分類可能であるが,グループ2,3,4はうまく分類できないことを示している.

Table 12. Score of factor 1, groups in cluster analysis and distances (the Yoshinogawa, 5 parameters, 26 monitoring points)


Figure 7. K-L plots by factors 1 and 2 (5 parameters, 26 monitoring points)

26地点5パラメータを用いた主成分分析により得られた各測定地点の第一主成分得点と河口からの距離の相関をFigure 8に示す.回帰直線とその相関係数は,それぞれ y = -0.02 x +0.40,R2 = 0.31である.第一主成分得点と河口からの距離の分布に強い相関はみられない.河口からの距離20kmまでに測定地点が集中しているが,この付近の第一主成分得点の分布を詳細にみると,回帰曲線より上部に位置する測定地点は,新町橋(25),三ッ合橋(24),鍋川合流点(20),漁連前(26),鮎喰(8),城見橋(14)であり,新町川,今切川,撫養川流域の汚染が進んでいることがわかる.吉野川は4つの河口を持つが,河川の汚染状況を示す第一主成分得点の値と河口からの距離とは対応しておらず,吉野川に流れ込む支流のうち,特に最も河口からの距離が長い平和橋(1)と河口の1つである新町川の水質汚染が進んでいることがわかった.それぞれの流域の水質に影響を与えている個々の要因を探る必要があることが示唆された.より詳細にみると,新町川,今切川,撫養川の汚染が甚だしく,それらの汚染要因を除去することが吉野川全体の浄化につながることが示唆された.


Figure 8. Relationship between distances and score of factor 1 (5 parameters, 26 monitoring points)

平成16年度版徳島県環境白書[1]によると「新町川は,昭和40 年代前半には新町橋でBOD が30mg/l を超える汚濁がみられましたが,法令等による排水規制,下水道事業の推進,市民の清掃活動等により,現在は3mg/l 以下にまで水質が改善されました.」とあるように,近年,新町川の水質は良くなっているとの報告がある[12]. しかし,吉野川全体の中では依然として他の測定地点とは異なった傾向を示し,さらに浄化が必要な測定地点である.今後,上記の政策施行など水質データ以外のものがどう水質データに影響を与えたかについてと,経年経過の観点からもみていく必要がある.

6 2002年度吉野川と多摩川の水質データの比較

先の東京多摩川の水質データの分析結果(1994〜2002)では各年度の2月のデータを用いて分析を行い,多摩川の清浄度を示す主なパラメータとしてDOとTPが抽出された[13].そこで吉野川と同様の分析を2002年度の多摩川の水質データについても行い,比較検討する.多摩川のデータも吉野川と同様,国立環境研究所が提供する「国立環境研究所環境データベース」公共用水域水質年間値データファイル[3]を利用した.5種類の水質データをTable 13に示す.

Table 13. Values of chemical index of water and distances in the Tamagawa

Figure 9に多摩川のクラスター分析のデンドログラムを示す.ここでクラスター間のユークリッド距離の2乗が2.0以上になったもので分類すると,15 測定地点は5つのグループに分類することができた.グループ1は河口からの距離が長い順に和田橋(1)から拝島橋(6)の6測定地点である.グループ2は,日野橋(7)と多摩川原橋(10)を除いた中流の5測定地点である.グループ3は日野橋(7)のみである.グループ4は下流の2測定地点である.グループ5は多摩川原橋(10)のみである.多摩川原橋(10)は特に汚染が進んでおり,他の中・下流の測定地点とは異なるグループに分類された.


Figure 9. Dendrogram of the Tamagawa, 5 parameters, 16 monitoring points

Table 14に多摩川の主成分分析の第一から第五主成分の固有値と寄与率および累積寄与率を示す.主成分分析の寄与率は,第一主成分(89.9%)と第二主成分(5.2%)で95%を超えている.吉野川と同じように第一主成分が重要である.ただ第二主成分と第三主成分(4.5%)が擬似縮退しており,第二主成分とあわせて第三主成分も重要であるところが吉野川の結果と大きく異なる.第三主成分までを考慮することとすると寄与率は99%を超える.

Table 14. Eigenvalues and contribution (%) of principal components (the Tamagawa, 5 parameters, 15 monitoring points)
eigenvaluecontribution rate(%)cumulative contribution rate(%)
fac.14.4989.8889.88
fac.20.265.2295.11
fac.30.224.4799.58
fac.40.020.3399.91
fac.50.000.09100.00
fac1: the first principal componentfac2: the second principal componentfac3: the third principal componentfac4: the fourth principal componentfac5: the fifth principal component

Table 15に多摩川の主成分分析の主成分負荷量を示す.第一主成分は全ての項目がほぼ同じ重みを持ち,DOの符号が負である.このことは吉野川と同じ結果である.第二主成分の係数はDOとTPおよびBODが大きな寄与をしており,吉野川の結果(TNとDO)と異なる.

Table 15. Coefficients in the first and second principal component (the Tamagawa, 5 parameters 15 monitoring points)
fac.1fac.2fac.3
BOD0.910.21-0.34
COD0.99-0.04-0.04
DO-0.910.420.07
TN0.960.040.28
TP0.970.200.16
fac1: the first principal componentfac2: the second principal componentfac3: the third principal component

主成分分析の第一主成分の主成分得点の高い順に並べたものとクラスター分析によるグループを示したものをTable 16に示す.

Table 16. Score of factor 1 and groups in cluster analysis (the Tamagawa, 5 parameters, 15 monitoring points)

主成分分析による第一主成分の主成分得点は,クラスター分析によるグループの結果とは適応していない.グループ2に属する観測地点の間にグループ4が割り込んでいる.とはいえ,吉野川の複雑さと比べると,主成分得点の順とクラスター分析のグループとの対応は単純である.
主成分分析により得られた第一主成分と第二主成分を用いてサンプルの採取地点をK-L Plotをクラスター分析で得られたグループ番号で表示したものをFigure 10に示す.第一主成分と第二主成分を用いて15地点をK-Lプロットすると,多摩川の場合,第一主成分によって上流と中・下流が分類可能であり,第二主成分によって上・中流と下流が分類可能であった.吉野川のK-Lプロット(Figures 3, 5, 7)と比較すると第一主成分による多摩川の上流と中・下流域の分離の良さが良くわかる. 主成分分析により得られた各測定地点の第一主成分得点と河口からの距離の関係をFigure 11に示す.回帰直線とその相関係数は,それぞれ y = -0.04 x + 1.37,R2 = 0.59である.第一主成分得点と河口からの距離の分布に強い相関はみられないが,最上流6地点の水質は清浄である.


Figure 10. K-L plots by factors 1 and 2 of the Tamagawa, 5 parameters, 15 monitoring points


Figure 11. Relationship between distances and score of factor 1 (the Tamagawa, 5 parameters, 15 monitoring points)

水質汚染という観点からみると,多摩川では上流から中流域の水質の変化に比べて中流から下流域の水質変化の方が緩やかである.このことにより多摩川の水質保全には,中流域での汚染原因を取り除くことが重要であることが示唆された.一方,吉野川は4つの河口を持っているため,多摩川ほど明確な上流から下流にかけての分類はできなかった.それぞれの河口毎の浄化に向けての対策が必要である.

7 まとめ

吉野川の上流から河口に至るまでの5種類の水質パラメータの変化を主成分分析とクラスター分析を用いて解析し,吉野川の上流から下流までの汚染度をみるための複合的な指標を得ることを試みた.またそれらを用いて,吉野川の水質を解析した.
5種類のパラメータの測定データには,欠測があり,それらを予測して解析を行った.その方法の妥当性を調べるために,まず,全てのデータが揃っている3つのパラメータ(BOD,COD,DO)26 測定地点のデータを用い,クラスター分析と主成分分析を行った.クラスター分析により,26測定地点は4つのグループに分類された.
主成分分析の第一主成分では,3つのパラメータが同じ程度に重要であった.第一主成分の主成分得点は水質の清浄度を表現する成分であるが,その値は河口からの距離とは対応していなかった.それぞれの流域の水質に影響を与える原因が個々にあることが示唆された.
次にTP とTN のデータを加えた5つのパラメータのある18 測定地点のデータを用いて,同様の解析を行った.クラスター分析により18測定地点は6つのグループに分類された.3パラメータのときと異なり,最も河口からの距離が長い平和橋(1)は,水質汚染が進んでいるグループに分類された.主成分分析の第一主成分の5つのパラメータはほぼ同じ重みであった.第二主成分はTNとDOが大きな重みを持っていた.これらから3つのパラメータ(BOD,COD,DO)だけでなく,TNとTPも汚染度をみる指標として重要であることがわかった.
解析のパラメータを5つに増やしたことによって,より吉野川の水質の特徴が明確になったが,欠測のある測定地点を除いたことによって,吉野川全体を知ることは困難になってしまった.そこで,欠測値を補完し,測定地点を増やしてさらに水質変化を検討した.
最後にTP とTN の値が欠測となっている地点のデータを線形関数によって予測した後,同様の分析を行った.クラスター分析により,26測定地点は7つのグループに分類された.
欠測を補完することで得られた情報を捨てることなく,吉野川全体の状況を知ることが可能となった.今後TNとTPの欠測が続くことが惜しまれる.
吉野川と同様の分析を2002年度の多摩川の15地点5パラメータのデータについても行い,比較検討した.
クラスター分析により,多摩川は,5グループに分類できた.15測定地点は上流(1〜6)と中・下流(7〜15)に分類可能であった.
主成分分析の第一主成分は吉野川の第一主成分と同じく,5つの水質パラメータすべてが重要であった.第二主成分は主にDOが大きな重みをもっていた.この結果は吉野川の結果(TNとDO)とは異なっていた.
多摩川の場合,上流は清浄であるが,中・下流域の汚染の度合は河口からの距離によらなかった.吉野川の場合も河川の汚染の度合は,河口からの距離とは対応しておらず,それぞれの流域の水質に影響を与えている個々の要因を探る必要があることが示唆された.
河川の総合的な水質調査のためには,第一主成分のような個々の環境指標の線形結合であらわされる指標を用いた解析が重要であることがわかった.

いつも有益な御議論をしていただいている,徳島大学の中馬寛教授に深く感謝する.

参考文献

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http://ourtokushima.net/kankyo/hakusho16.php
[ 2] SPSS ver. 11.0, SPSS Japan Inc..
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