ニューラルネットワークを用いたドナウ川の水質解析
−OECDレポートを用いて−

神部 順子, 長嶋 雲兵, 山内 あい子, 青山 智夫


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1 はじめに

今日,大都市を流域とする河川の水質の変遷を解析することは大都市周辺の環境改善の指針を得る上で極めて重要である.
経済協力開発機構OECDによって公表された環境データ[1]には,20年間(1980-1999)の河川の水質データが記されている.しかしそのデータには,欠測が多く,それらを用いた相互比較ならびに定量的な解析は困難である.そのため,本研究では,欠測データを含むデータの解析が可能な多階層型ニューラルネットワークシミュレーション(CQSAR)法(以下,CQSAR)[2, 3]を用いてこれらの水質データの変化を検討した.本研究では,特に欧州の大都市を流れる主要河川であるドナウ川に着目し,河川の水質データの欠測部を補完し,その相互比較と水質の傾向の定量的な分析を行なった.それらを基に,河川再自然化や河川復元(自然再生)と呼ばれている政策[4]や水質浄化政策に対する有効性を検証する.欧州で河川再自然化や河川復元(自然再生)と呼ばれている政策(以下,河川再自然化政策)とは,堤防を崩し,広大な氾濫原を復活させている施策を指す.川を自然の流れに戻していく新しい治水思想である.それによって期待できる効果は河川の自然浄化機能の増大である[5].
多数の国を流れる国際河川であるドナウ川では,1984年にオーストリアドナウ川流域で水力発電所建設計画が明らかになった.このとき,建設反対運動が始まり,国際河川の管理に関して流域全体の環境保全を考慮すべきという提案を行った.この運動はオーストリアだけでなく,ヨーロッパ各国の他の河川の管理政策に影響を与えた[5].水質データはこれらの政策の効果を反映しているはずなのでそれを検証する.
また,本研究ではスロヴァキアとハンガリー間のドナウ川に設けられたダム(ガブチコボ・ナジュマロシュ・ダム)の水質に対する影響を検討する.

2 データ

OECDによって公表された環境データ[1]には9種類のパラメータが掲載されているが,それらには欠測が多いため,今回の分析には比較的欠測の少ない3種類のパラメータ,すなわち溶存酸素量(Dissolved Oxygen: DO),生物化学的酸素要求量 (Biochemical Oxygen Demand: BOD),全燐(Total Phosphates: T-P)を採用した.
ここでDOの値はそれが大きいと清浄であることを示す.BODとT-Pは,これらの値が小さいと清浄であることを示す.


Figure 1. Schematic Map along the Donau.

Table 1. Branches of the Donau.
countryconfluence citytributarytributary2
GermanyDeggendorfIsar
AustriaPasauInn
Lintz, Wien
SlovakiaBratislavaMorava (from Czech)
KomarnoVah
Hungary(no confluence)Tisza
Budapest
YugoslaviaBeogradTiszaSava (from Croatia, Bosnia-Hercegovina)
Sme dere voMorava(Yugo's)
Romania
Black Sea

ドナウ川はドイツを源流とし,オーストリア,スロヴァキア,ハンガリーなど10カ国以上を通過し,黒海に流れ込む.欧州で2番目に長い国際河川である.Figure 1 にドナウ川とその支流の距離を大まかに捉えるために測定地点の概略を示す.また,ドナウ川に流れ込むそれぞれの支流をTable 1に示す.支流と本流の水質指標の関連を調べることで,汚染の原因を分析する.
OECDレポートにはドナウ川に関して,ドイツ流域(以下,ドイツドナウ川),オーストリア流域(以下,オーストリアドナウ川),ハンガリー流域(以下,ハンガリードナウ川)の3流域の値が公表されている.しかし,さらに下流のユーゴスラビアやルーマニアなどでのDO値の報告はない.
個々の流域について,今回の分析データ数は20年間で最大16個程度(残りの4個は欠測)である.この時,欠測を含むデータを捨ててしまうと,利用できるデータが極端に少なくなり,その解析結果は吉野川の解析の報告[3]でも述べたように,信頼性が無くなってしまう。そこで本研究では、欠測データを補完して解析を行った。このデータ補完はCQSARを用いたが,CQSARの手続きの中で,線形最小二乗法が採用された.1980-1999年の期間は20年間の間に自然環境は大きく変動しており,特に人類の経済発展,経済のグローバル化の必然的結果として,それ以前に比べて変動が大きい.そこで一個の線形関数として20年を区切りにするのでは妥当ではないと判断し,10年を区切りに複数の線形関数で河川の水質データを補完した.今回用いたデータの多くの場合,欠測データが4,5年間連続しているので,データ補完のためにも約10年間程度の期間は必要である.

3 ドナウ川のDO値の経年変化

DO値は量が少ないほど河川の清浄度の度合が小さいことを示すパラメータである.一般的に,DO値は川の自浄作用や水生生物生存に関係があり,魚類は5 [mg/L]以上必要であると知られている.また,日本の基準では,5つに分けられたランクのうち清浄である上位2類型(AAとA)のDO値は7.5 [mg/L]以上となっている[6].
Figure 2にドナウ川の3流域のDO値について1980年から1999年までの経年変化をそれぞれの回帰直線とともに示す.ドイツドナウ川とハンガリードナウ川では1981-1984年,オーストリアドナウ川ではさらに1999年が欠測データとなっていたので,それぞれCQSARを用いて補完した.


Figure 2. DO changes of the Donau.

ドナウ川の各流域での回帰直線の傾きと切片とその相関係数をTable 2にまとめた.ドイツドナウ川,オーストリアドナウ川は回帰直線の係数が正なので,この20年間に清浄になってきていることがわかる.ドイツドナウ川の係数に比べて,オーストリアドナウ川の係数は2倍で,ドイツドナウ川に比べてオーストリアドナウ川の清浄化傾向が大きいことがわかる.ハンガリードナウ川の回帰直線の係数は負である.そのため,ハンガリードナウ川は汚染が進行している傾向にあることがわかる.

Table 2. Slope and intercept of Regression Lines, and R squares of the Donau.
slopeinterceptR square
Germany0.03310.4760.693
Austria0.0639.79090.646
Hungary-0.04610.5980.381

ドイツドナウ川のDO値をより詳細にみると,20年間の中で1995年の値が最も大きい.1991年からは11[mg/L]以上の値となったが,1992年,1994年,1998年にはまた10[mg/L]台に戻った.
オーストリアドナウ川のDO値の場合,1980年から1985年に徐々に清浄になっていたが,1986年と1987年は悪化している.1993年から1994年に汚染が進んだが,その後1997年まで浄化傾向にある.1997年のDO値が20年間の中で最も大きい.1998年は1991年のレベルまで悪化したが,1999年は1996年のレベルまで回復した.
ハンガリードナウ川のDO値の場合,1980年から1994年まで水質は悪化し続けた.1994年のDO値は20年間で最も小さい.その後急激に水質は改善され,1997年のDO値は20年間で最も大きく,清浄であることを示す.しかしまた悪化し,1999年のレベルは1991年のレベルである.
ドイツドナウ川とハンガリードナウ川のDO値は,1980年から1985年までほぼ同等の値である.一方,オーストリアドナウ川のDO値は1980年から1985年までこの2つの流域より小さい.河口からの距離でみると,距離が長い順にドイツドナウ川,オーストリアドナウ川,ハンガリードナウ川である.1980年から1985年と1987年はハンガリードナウ川の値がオーストリアドナウ川の値より大きく,汚染の度合は河口からの距離と対応していない.1986年以降,ハンガリードナウ川の汚染が進んだため,1998年から1996年,1998年,1999年は3つの流域のDO値が示す汚染の度合は河口からの距離と対応している.1997年のDO値はオーストリアドナウ川の方が上流のドイツドナウ川より大きく,オーストリアドナウ川の方が清浄である.1990年代前半に入ると3流域は同様なカーブを描いている.しかし1990年代後半のドイツライン川には下流の2流域と同様な傾向は見られない.これはハンガリードナウ川のDO値は上流のオーストリアドナウ川のそれに大きく影響されていることを示している.
Figure 3にブタベストまでにハンガリードナウ川に流れ込む支流(オーストリアイン川,チェコモラバ川,スロヴァキアヴァハ川)と,ハンガリードナウ川,ハンガリードナウ川下流に位置するハンガリーティサ川(セルビア,ベオグラードでドナウ川と合流)のDO値の経年変化を示す.オーストリアイン川は1981-1984年,1991年,1999年,チェコモラバ川は1981-1984年,スロヴァキアヴァハ川は1981-1984年,1986年,ハンガリーティサ川は1981-1984年が欠測となっていたのでCQSARを用いて補完した.


Figure 3. DO changes of Donau branches (the Inn, the Morava, the Vah) before Budapest, the Hungary Donau, and Hungary Tisza.

オーストリアイン川のDO値をより詳細にみると,1980年から1984年までは緩やかにDO値は改善されていたが,1985年は悪化し,20年間で最も小さい値をとっていた.ところが翌年の1986年より急激に回復し,1987年のDO値は20年間で最も大きい.その後は増減を繰り返しているが,1999年までの5年間は11[mg/L]以上の値である.
チェコモラバ川(スロヴァキア,ブラチスラバでドナウ川と合流)のDO値の場合,1980年から1986年まで徐々に値は小さくなっており,水質は悪化している.1987年から1995年までは浄化傾向がみられる.1995年のDO値は20年間で最も大きい.1996年以降DO値は年々小さくなっており,1999年は1980年と同じ値である.チェコモラバ川の水質改善は1987年以降ハンガリードナウ川より大きいが,これらの効果は本流のドナウ川の水質に反映されなかった。ハンガリードナウ川(測定地点は不明であるが理科年表の測定点から考えておそらくブタベスト)のDO値をチェコモラバ川のDO値と比較すると1980-1987年までは0.6[mg/L]以下の幅の差で大きな違いはみられなかった.その後,1997年を除くと他の年はチェコモラバ川とハンガリードナウ川の差は広がっている.
スロヴァキアヴァハ川のDO値の場合,1980年から1988年までの間で,1981年,1985年,1987年を除くと清浄化傾向がみられる.特に,1988年に急激にDO値が大きくなっていることが目立つ.1989年から1994年まではほとんど変化はないが,それ以降徐々に悪化している.スロヴァキアヴァハ川のDO値は1987年までハンガリードナウ川のDO値より小さく,スロヴァキアヴァハ川はハンガリードナウ川を汚染している.
ハンガリーティサ川のDO値の場合,1980年から1987年までの間で1986年を除くとDOの示す水質は清浄化傾向がみられる.1988年から1990年は水質が悪化しており,1990年のDO値は1986年と同じレベルになった.この20年間で最もDO値が低く汚染が進んでいたのは1996年である.その後、順調に回復している.ハンガリーティサ川はハンガリードナウ川より20年間常に値は大きく,他の河川と比較しても清浄である.この川の経年変化の傾向はハンガリードナウ川と似ている.
1992年以降ハンガリードナウ川の汚染傾向は増加している.これは6で述べるが,ダム完成の影響が考えられる.オーストリアドナウ川およびハンガリードナウ川は1994年に急激に汚染が増加している.ところが,支流には急激な汚染は観測されない.そのため1994年のオーストリアドナウ川およびハンガリードナウ川の急激な汚染の原因は,支流の汚染に拠るものではなく,本流自体の汚染であることがわかる.
Figure 4にハンガリードナウ川と流れ込む河川(オーストリアドナウ川,スロヴァキアヴァハ川,チェコモラバ川)の関係をユークリッド距離で示す.


Figure 4. Euclid distances of DO from the Hungary Donau to the Austria Donau, the Vah, and the Morava, respectively.

オーストリアドナウ川とハンガリードナウ川では1980年から1985年にかけて距離は縮まり,1992年以降距離は離れている.特に1996年と1998年では最も距離が離れている.
チェコモラバ川とハンガリードナウ川では2つの河川の距離は1991年まで類似しているが,1992年以降距離は離れている.1994年に最も距離は長くなり,1997年にかけて距離は短くなっている.1997年にはまたチェコモラバ川とハンガリードナウ川との距離は0になった.
1992年よりオーストリアドナウ川やチェコモラバ川と,その下流に位置するハンガリードナウ川との距離は長くなっている.このことから,1992年以前1988-1989年頃にハンガリードナウ川に何か異変が起こったことが示唆された.これについては6で議論するが,スロヴァキアとハンガリーの間のダム建設とダム湖の完成の影響が考えられる.
スロヴァキアヴァハ川とハンガリードナウ川の距離は1980年から1988年まで増減をくりかえしているが,1988年にはスロヴァキアヴァハ川とハンガリードナウ川との距離は0である.1989年以降も増減を繰り返すが,1987年までと比較するとその増減の幅は小さい.

4 ドナウ川のBOD値の経年変化

BODは河川の有機物汚染の自浄作用を示す指標である.BOD値が大きいと汚染傾向を示す.また,日本の基準では,5つに分けられたランクのうち清浄である上位2類型(AAとA)では2 [mg/L]以下,3番目のB類型では3 [mg/L]以下となっている[6].
Figure 5にドナウ川のBOD値の1980年から1999年までの経年変化をそれぞれの回帰直線とともに示す.ドイツドナウ川とハンガリードナウ川では1981年から1984年,オーストリアドナウ川ではさらに1985年,1986年,1999年も欠測データとなっていたので,CQSARを用いて補完した.


Figure 5. BOD changes of the Donau.

ドナウ川の回帰直線の傾きと切片とその相関係数をTable 3にまとめた.これらの3つの流域の回帰直線の係数はいずれも負であるので,浄化傾向にある.ハンガリードナウ川の係数は他の2つの流域よりも2倍以上大きく,清浄化が目立つ.

Table 3. Slope and intercept of Regression Lines, and R squares of the Donau.
slopeinterceptR square
Germany-0.0513.2840.639
Austria-0.0604.2010.312
Hungary-0.1685.3120.878

1985年から1986年はドイツドナウ川の水質汚染が進んでいる.1987年水質は改善されているが,1991年にはまた悪化している.1999年のBOD値は20年間で最も低い.BOD値は20年間で1mg/L改善された.
オーストリアドナウ川は1987年まで汚染が進んでいる.特に1987年の悪化が目立つ.1987年のBOD値はこの20年で最も大きい.1988年以降BOD値が小さくなっているので,オーストリアドナウ川の水質は浄化傾向にある.1996年に1992年と同じレベルまでBOD値は大きくなるが,1997年以降は3mg/L以下である.
ハンガリードナウ川のBOD値は1981年にこの20年で最も大きい値をとる.1986年から1992年にBOD値は急激に小さくなっている.1995年と1999年のBOD値が20年で最も小さい.20年間でハンガリードナウのBOD値は2.6mg/L改善された.1999年のデータでは上流のオーストリアドナウ川のBOD値よりも下流のハンガリードナウ川のそれは小さく,ハンガリードナウ川の水質の方が良いことを示している.
ただし,3でみたように,DO値ではハンガリードナウ川の水質の改善はなされておらず,BOD値の傾向はDO値の傾向とは異なる.

5 ドナウ川のT-P値の経年変化

T-P値は動植物の増殖に欠かせないもので,富栄養化の目安となる.富栄養化の目安としては日本の環境基準では0.02 [mg/L]程度以上が富栄養化され汚染されている水であるとされている.河川の水にはT-P値の環境基準値はなく,湖沼・海域の水質に対し定められている[6].
Figure 6にドイツドナウ川,オーストリアドナウ川,ハンガリードナウ川のT-P値の1980年から1999年までの経年変化をそれぞれの回帰直線とともに示す.ドイツドナウ川とハンガリードナウ川では1981年から1984年,オーストリアドナウ川ではさらに1980年,1987年,1988年も欠測データとなっていたので,CQSARを用いて補完した.


Figure 6. T-P changes of Germany-, Austria-, and Hungary-Donau.

ドナウ川の回帰直線の傾きと切片とその相関係数をTable 4にまとめた.それぞれの回帰直線の係数は負なので,浄化傾向にある.最も上流のドイツドナウ川の係数に比べて中流のオーストリアドナウ川の係数は大きい.さらに下流に位置するハンガリードナウ川の係数は,オーストリアドナウ川の係数より大きい.つまりハンガリードナウ川の浄化傾向が一番大きく,1980年代にはドイツドナウ川からオーストリアドナウ川,ハンガリードナウ川となるにつれて汚染の度合が大きくなっていたが,1999年にはそれらの差は小さくなっている.

Table 4. Slope and intercept of Regression Lines, and R squares of the Donau.
slopeinterceptR square
Germany-0.0070.2170.842
Austria-0.0120.3090.834
Hungary-0.0140.3660.903

より詳細に見ると,1980年から1984年,1986年から1990年,1992年,1994年,1997年,1999年の14年のデータをみると,上流(ドイツ),中流(オーストリア),下流(ハンガリー)の順にT-P値は大きくなっており,ドナウ川の汚染度の順序は「上流が清浄である」ということと常識的に妥当な結果となっている.しかし1985年,1991年,1993年,1995年,1996年,1998年の汚染度の順序は河口からの距離とは異なっている.
ドイツドナウ川のT-P値は,1981年,1985年,1986年は0.2[mg/L]以上の値を示している.1992年以降は1993年と1995年を除くと0.1[mg/L]以下になった.
オーストリアドナウ川の1996年のT-P値は20年間で最も小さい.だが,1997年には1990年代前半のレベルにまで戻っている.ハンガリードナウ川のT-P値は1980年から1983年まで0.3[mg/L]以上の値を示している.ハンガリードナウ川の観測値の中で1996年の値は20年間で最も小さく,ドイツドナウ川とほぼ同じ値をとっている.

6 スロヴァキアとハンガリーの間のダムの影響

1977年,スロヴァキアとハンガリーは国境(GabcikovoとNagymaros)にダムを作る計画に合意していた.1987年から建設が始まり,1989年7月には90%が完成していた[7].しかし,ハンガリーはダム反対運動の盛り上がりのもと,その建設を中断した.
それは国際的な論争として広く知られている.しかし,1992年頃完成したと思われる[8, 9].先にFigures 2, 4, 5で述べたドナウ川のDO値とBOD値の変化はこのことを示唆している.
ダム建設とダム湖の影響を離散モデル[10]で解析するために, Table 5で示すようにダム建設とダム湖が完成したという情報を0/1ベクトルにより表現した.このダム建設と完成した湖の河川の水質に対する影響をみていく.このダムとダム湖に流れ込む河川として,オーストリアドナウ川とチェコモラバ川の水質も同時に記述子として採用する.チェコモラバ川はチェコに発し,スロヴァキアでドナウ川に合流し,オーストリアドナウ川とハンガリードナウ川の中間にある河川である.

Table 5. Dummy data of dam construction and the lakes.
yeardam construcrtiondam lake completion
198000
198100
198200
198300
198400
198500
198600
198710
198810
198910
199010
199110
199210
199301
199401
199501
199601
199701
199801
199901

Table 5のデータとオーストリアドナウ川とチェコモラバ川のDO値、計4種類の記述子を使い、6. 1でハンガリードナウ川のDO値が神経回路網で再現できるかを調べた.同様に6. 2でBOD値についても検証した. この際, 小数点のデータは、最大値を1.0, 最小値を0.0として規格化した。中間層ニューロン数は1万回の学習ごとに0.001以下の結合重みを持つ結合を消去するという条件の再構築学習法により最適化され,1となった.最終的なネットワーク構造は(入力層4,中間層1,出力層1)である。

6. 1 DO値に対するダムの影響

Figure 7にハンガリードナウ川のDO値とCQSARによる再現値を示す.1994年と1997年のDO値実測値の急激な変化はCQSARでは再現できてはいないが,他の年の変化は再現している.


Figure 7. DO of the Hungary Donau and output DO of a neural network in CQSAR.

また,Table 6にハンガリードナウ川のDO値を再現する際の4種類の記述子の神経間結合の重み(寄与)を示す.

Table 6. Connection weights between neurons.
descriptersweight matrix
dam construction-9
dam lake-16
the Morava0
the Austria Donau13

ハンガリードナウ川のDO値を再現する際の寄与は,ダム湖が -16,オーストリアドナウ川(本流の水質)13である.これらの寄与が大きいことがわかる.またダム工事の寄与は -9で, 3番目に大きく,符号は負である.チェコから流れてくる支流のモラバ川の寄与は無い.オーストリアドナウ川の水質は清浄化に大きく寄与し,ダム工事とダム湖の存在は汚染を進めていることを示す.
DO値は大きいと清浄であることを示すので,この係数が正だと清浄化に重要であり,負だと汚染を進めることを示す.
ハンガリードナウ川の水質はDO値から見れば1980年から汚染が進んでいる.その原因はダム建設工事であることが示唆された.

6. 2 BOD値に対するダムの影響

Figure 8にハンガリードナウ川のBOD値とCQSARによる再現値を示す.


Figure 8. BOD of the Hungary Donau and outputs of CQSAR.

Table 7にハンガリードナウ川のBOD値を再現する際の4種類の記述子の神経間結合の重み(寄与)を示す.CQSARによって再現された値は階段状の線を描いている.これはTable 5に示したダミーデータの影響下にあることを示している.

Table 7. Connection weights between neurons.
descriptersweight matrix
dam construction-8
dam lake-18
the Moraba0
the Austria Donau0

BOD値は小さいと清浄であることを示すので,この係数が正だと汚染を進めており,負だと清浄化に重要であることを意味する.ハンガリードナウ川のBOD値を再現する場合の寄与は,ダム工事が -8,湖の寄与が -18と大きく,本流のオーストリアドナウ川,支流のチェコモラバ川の寄与は無い.ハンガリードナウ川の水質はBOD値から見れば,1980年から改善されている.CQSARを用いたBOD値の解析結果はダム建設が水質を改善する傾向にあることを示している.これはダム湖で有機物が分解されたことを示している.
CQSARからは,スロヴァキアとハンガリー間のドナウ川に設けられたダム建設とダム湖の環境に対する影響は,DO値を悪化する傾向にあり,他方BOD値は改善される傾向にあった.
ダム建設によりハンガリードナウの水質が上流や支流と関係しなくなったことは,先のDO値やBOD値の解析からも本解析からも確かである.

7 まとめ

OECDによって公表された大都市を通過する欧州ドナウ川の水質データ(欠測データを含む)に関し,欠測データを含むデータの解析が可能な多階層型ニューラルネットワークシミュレーション(CQSAR)法を用いて,欠測データを補完した後,水質データの経年変化を解析した.データは1980-1999年の20年間のDO,BOD,T-Pを採用した.これらについて欧州での河川再自然化や河川政策の施行の効果を経年変化からみた.また、ダムの環境がドナウ川の水質に与える影響もみた.
ドナウ川のDO値は,ドイツ流域,,オーストリア流域,ハンガリー流域の結果が公表されていた.ドイツドナウ川とオーストリアドナウ川のDO値はこの20年間に水質の改善を示していることがわかった.一方,ハンガリードナウ川のDO値は汚染の進行を示していた.
ドナウ川のBOD値では,オーストリアドナウ川は1988年まで汚染が進んでいることを示しており,それ以降は浄化傾向を示していた.1988年以降,上流のオーストリアよりもハンガリーの水質が良いことが目立っていた.BOD値からはドナウ川では自然浄化作用がまだ働いているようである.
ドナウ川のT-P値は1990年までは1985年を除くと上流(ドイツ),中流(オーストリア),下流(ハンガリー)の順に大きくなっており,ドナウ川の汚染度の順序は妥当であった.1991年以降,汚染度の順序は河口からの距離とは異なっていた.
DO値とBOD値とT-P値は必ずしも同じ傾向を示さないことがわかった.そのため,これらの継続的な測定は河川の環境をモニタリングするために重要であることがわかった.
スロヴァキアとハンガリー間のドナウ川に設けられたダムの環境(ダム建設と湖の完成)が河川の水質に対する影響をCQSARによって検証した.ハンガリードナウ川の水質を再現する際,DO値ではダム湖と本流のオーストリアドナウ川の寄与が大きく,BOD値ではダム工事と湖の寄与が大きかった.ダム建設工事と水質の関連でみると,ダム建設工事はDO値を少し悪化させ,BOD値を改善するのに寄与していることがわかった.いずれにせよ,ダム建設によりハンガリードナウ川の水質が上流の支流と関係しなくなったことは確かであった.今後の課題として長期的に現れるダムに溜まる土砂,ダム湖水の栄養化などの影響が出てくると思われるので,それらの影響を見る必要があろう.

参考文献

[ 1] Environmental Performance and Information Division, OECD Environment Directorate, OECD Environmental data, compendium 2002.
[ 2] 神部順子, 袁えん, 長嶋雲兵, 青山智夫, J. Comput. Chem. Jpn, 5, 201 (2006).
[ 3] 神部順子, 青山智夫, 山内あい子, 長嶋雲兵, J. Comput. Chem. Jpn, 6, 1 (2007).
[ 4] 中村圭吾, 環境浄化技術, 4 (No.4), 1-5 (2005).
[ 5] 保屋野初子, 川とヨーロッパ−河川再自然化という思想−, 築地書館 (2003), ISBN4-8067-1262-0.
[ 6] 久保田昌治, 西本右子, これでわかる水の基礎知識, 丸善 (2003), ISBN4-621-07229-3.
[ 7] 高橋裕, 地球の水が危ない, 岩波書店 (2003), ISBN4-00-430827-5.
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http://www.dhi.dk/usercon/general/river.htm
[10] 青山智夫, 神部順子, 長嶋雲兵, J. Comput. Chem. Jpn, 5, 101 (2006).


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