今回は、ベンゼン、チオフェン、フラン、ピロール、シクロペンタジエンおよびこれらのアザ置換体からなるアゾ化合物について、AM1、PM3およびB3LYP/6-31G*等によって配座解析をおこない安定配座を検討した。ついで、チオフェン系アゾ化合物については3d-AOを含めた場合と含めない場合のCNDO/S計算を行い、DE1の値そのものに対する3d-AOの影響を求めた。さらに、すべての化合物についてCNDO/SとTD-DFTによる吸収スペクトルの計算を行い、チオフェン系アゾ色素の深色性について考察した。

Figure 1. AM1 Conformational Energy of Thiophene Derivatives S1~S9

Figure 2. PM3 Conformational Energy of Thiophene Derivatives S1~S9

Figure 3. B3LYP/6-31G* Conformational Energy of Thiophene Derivatives S1~S9
Figure 2に示したPM3計算結果はFigure 1のAM1計算結果と類似の傾向を示すが、3'-N置換体、特にS5は捩れ構造が最も安定となっている点が大きく異なる。
Figure 3に示したDFT計算結果はAM1およびPM3の結果とは大きく異なり、9個の化合物すべてにおいてConformer-BがConformer-Aより安定であることを示している。さらに、Figure 4にB3LYP/6-31G*、6-311G**、6-311++G**によるConformer-AとConformer-Bの最適化構造のエネルギー差を示す。エネルギー差における基底関数依存性は小さく、6-31G*でも特に問題ないと判断される。5'-ニトロ置換体S4〜S6は無置換体S1〜S3とほぼ同程度のエネルギー差であるが、5'-アミノ置換体S7〜S9は無置換体より1.5倍ほどエネルギー差が大きくなっている。

Figure 4. Energy Difference between Conformer-A and B.
:B3LYP/6-31G*,
:B3LYP/6-311G**
:B3LYP/6-311++G**
以上のようにConformer-AとBのいずれが安定であるかについてはAM1、PM3およびDFTにより異なった結論を与えるが、チアゾールおよびチアジアゾールアゾ化合物(X1、X2、X3)のX線結晶構造解析結果[6, 7]によると、いずれもConformer-Bであることから、以後の配座解析および構造最適化においてはDFT計算を採用することとする。
Figure 5にはConformer-AとBのそれぞれにおいて3'-および4'-アザ置換体のエネルギー差を図示した。5'-無置換体S2、S3および5'-ニトロ置換体S5、S6ではConformer-AおよびBともに3'-アザ置換体S2、S5が4'-アザ置換体S3、S6よりエネルギー的にやや安定である。他方、5'-アミノ置換体S8、S9では逆に4'-アザ置換体S9が3'-アザ置換体S8より約7kcal/molも安定となっている。

Figure 5. Energy Difference between 3'-N and 4'-N Isomers. Conformer-A
:B3LYP/6-31G*,
:B3LYP/6-311G**,
:B3LYP/6-311++G** Conformer-B
:B3LYP/6-31G*,
:B3LYP/6-311G**,
:B3LYP/6-311++G**
Figures 6 - 9にベンゼン、シクロペンタジエン、フラン、ピロールとこれらのアザ置換体からなるアゾ化合物のB3LYP/6-31G*レベルによる配座解析結果を示す。Figure 10には化合物1〜9に加え10〜12のConformer-AとBの最適化構造におけるエネルギー差を示している。なお、この図には零点エネルギー補正後のエネルギーもあわせて示しておいたが、補正前の値と大きな差は認めがたい。

Figure 6. B3LYP/6-31G* Conformational Energy of Benzene Derivatives

Figure 7. B3LYP/6-31G* Conformational Energy of cycloPentadiene Derivatives

Figure 8. B3LYP/6-31G* Conformational Energy of Furan Derivatives

Figure 9. B3LYP/6-31G* Conformational Energy of Pyrrole Derivatives

Figure 10. B3LYP/6-31G* Energy Difference between Conformer-A and B. *:benzene,
:furan,
:pyrrole,
:cyclopentadiene,
:thiophene ; solid line:SCF Energy, dotted line:Corrected by Zero Point Energy
以上のことからフラン誘導体の一部(O1、O4、O10)はわずかにConformer-Aが安定であるが、これら以外の化合物においてはConformer-BがAより安定であると言える。とくに、チオフェン誘導体S1〜S12においてはConformer-Bがより安定であると言える。

Figure 11. 1st p®p* Excitation Energy DE1 Calculated by CNDO/S Including 3d-AO and Excluding 3d-AO.
つぎに、ベンゼン、チオフェン、フラン、ピロール、シクロペンタジエンおよびこれらのアザ置換体からなるアゾ化合物のConformer-AとBに関するCNDO/S計算結果をFigure 12に示す。両者のDE1の差は最大0.1 eV程度であり深色性の議論に影響を与える大きさではない。そこで、Figure 13にはConformer-BについてのCNDO/SおよびTD-DFT計算値DE1を示す。

Figure 12. Comparison of CNDO/S Excitation Energy DE1 of Conformer-A and B. *:benzene,
:furan,
:pyrrole,
:cyclopentadiene,
:thiophen

Figure 13. 1st p®p* Excitation Energy DE1 Calculated by CNDO/S (left) and TD-B3LYP/6-31+G*(right). *:benzene,
:furan,
:pyrrole,
:thiophene,
:cyclopentadiene
CNDO/S計算結果をみると、アゾベンゼン誘導体のDE1は他のすべての五員環系アゾ化合物のそれより約0.3 〜0.4 eVも大きくなっている。五員環系アゾ化合物の間ではDE1の差は小さく0.2 eVをこえることはない。特に、チオフェン系アゾ化合物が他の五員環系アゾ化合物よりDE1が小さいとは言えない。すなわち、チオフェン系アゾ色素が対応するアゾベンゼン系色素より深色的である事実は五員環系アゾ化合物に共通した特性であると結論される。
DE1に対するアザ置換の位置による効果の相違に注目すると、5'-ニトロ置換体4、5、6では3'-アザ置換体5のDE1が大きく、5'-アミノ置換体7、8、9では4'-アザ置換体9が大きくなっている。このようにアザ置換の効果が5'-置換基の種類によって逆転することはHOMOとLUMOのエネルギーレベルやLCAOの係数の大きさから説明可能である[5]。
TD-B3LYP/6-31+G*計算結果においてはCNDO/S計算結果と比べ、アゾベンゼン系化合物と他の五員環系アゾ化合物とのDE1の差は小さい。また、五員環によるDE1の差が大きくなっている。しかし、一般的傾向として五員環系アゾ化合物の方がアゾベンゼン誘導体より深色的であるということができる。