分子動力学法によるピレン修飾核酸の塩基配列認識プローブ設計のための基礎的研究

佐々 和洋, 宇野 健, 林 治尚, 中野 英彦


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1 緒言

ヒトゲノムの解読が完了し、我が国においてもこれまで、疾患遺伝子の探索が行われるとともに、遺伝子領域における一塩基変移(SNPs)の基盤データベースが完成するなどの成果が創出されている。これらの成果に伴い、個人個人に対し最も適した医療、「テーラーメイド医療」の実現が目指されている。そこで、ターゲットとする配列を迅速に判別するためのシステムに関する研究が盛んに行われている。その中で、蛍光物質を用いて核酸のハイブリダイゼーションを検出する蛍光プローブの研究が注目されている。特に、均一溶液系でDNAやRNAが分析可能な蛍光修飾核酸は、ハイブリダイゼーションが確実に行うことができるため、魅力的な蛍光プローブであると期待されている [1 - 4]
中村らは核酸の糖部2'位にピレニルメチル基を導入したピレン修飾核酸に関する研究を行い、ピレン修飾DNAは完全に相補鎖のDNAと二重螺旋形成時(以降フルマッチとする)、ピレンのモノマー蛍光に1本鎖のときと大きな変化は無いが、ピレン修飾RNAでは相補鎖RNAとフルマッチの二重螺旋形成時に、モノマー蛍光が著しく増強されることを発見した [5 - 8]。これは、ピレン修飾DNAではピレンが二重螺旋内部に存在し周辺の塩基等とインターカレーションしており、また、ピレン修飾RNAではピレンが二重螺旋の外部に存在することにより蛍光の増大が起こるためであると示唆している [8]。
また、ピレン修飾RNAにおいては、相補的でない塩基対(以降ミスマッチとする)を一部含む場合、ミスマッチがピレン修飾部の近傍(2塩基以内)に存在するときは蛍光の増大は観測されず、3塩基以上離れると再び蛍光の増大することが山名らにより観測されている [9]。
しかし、ピレン修飾DNAおよびRNAにおける、ピレンの挙動やピレンと周辺塩基の構造などは明らかにされておらず、より高性能なプローブを開発するためにも、それら様々な情報は必要不可欠である。そこで、これら実験的手法で研究されてきたピレン修飾核酸のさらに詳細な情報を得ることを目的として、分子動力学(MD)シミュレーションを実行し、ピレン修飾を施したフルマッチDNAおよびRNAやミスマッチを含むピレン修飾RNAを再現し、ピレンの周辺塩基や二重螺旋に対する配座やその周辺塩基の構造について解析を行った。

2 シミュレーション条件


Figure 1. The sequence of full-match pyrene-modified DNA and RNA


Figure 2. The sequence of mismatch pyrene-modified RNA

本研究では、中村らの実験と同じフルマッチ10量体ピレン修飾DNAおよびRNAを用いてMDシミュレーションを行った [8]。各シーケンスはFigure 1に示す。また、ミスマッチを含むピレン修飾RNAについても実験と同様、Figure 2に示すシーケンスの15量体を用いた。各シーケンスにおける塩基対をそれぞれPosition 1~10およびPosition 1~15とした。
ピレン修飾残基については、ウリジン(Uridine)の糖部2'位にメチレンリンカーを介してピレンを修飾した2'-O-(1-Pyrenylmethyl)uridineを用いた。
シミュレーションソフトには、生体高分子のシミュレーションに適したAMBER ver.6.0 [10]を用いた。2'-O-(1-Pyrenylmethyl)uridineの構造や電荷などはAMBERのデータベースに登録されていないため、それらを登録するための入力ファイルを作成する必要がある。そこで入力ファイルの作成には、我々の開発したModast-P [11 - 14]のAMBERに対する新規残基追加支援システムを用いて作成した。このシステムにおいては、形式電荷をMOPACにより算出した。修飾残基の各原子に対する原子タイプはAMBERのparm94より作成した。
全てのシミュレーションは、AMBER6のsanderモジュールより行い、force fieldにはAMBERのff94 force fieldを適用した。まずAMBERのLEaPモジュールでモデリングを行った。二重螺旋構造の核酸を配置し、その中にピレン修飾残基を導入した。全てのピレン修飾体において、ピレンは塩基対とほぼ平行に二重螺旋内部に配置した。
シミュレーションは、エネルギー極小化計算を実行し構造の安定化を図った後、MDシミュレーションを行った。シミュレーションの環境は、水溶媒分子とカウンターイオンを核酸の周囲に発生させ、水中を模倣した系とした。水分子の配置は、AMBERの"solvatebox"コマンドを用い、DNAおよびRNA分子より、x、y、z軸の正負両方向へ10AずつのSolvate Boxを作成し、AMBERのWATBOX216に基づいてTIP3P水分子を配置した。カウンターイオンは、DNAおよびRNAのリン酸における電荷の中和を目的として、ナトリウムイオンを18個挿入した。また、温度は全て300 Kとし、MDシミュレーション時間はフルマッチピレン修飾DNAおよびRNAに対し、長時間のシミュレーションを行ったが大きな構造変化が見られなかったため、全て1ns(Time step 1fs)で議論した。

3 結果と考察

3. 1 フルマッチピレン修飾DNAとRNAにおけるピレン残基の挙動

ピレン修飾DNAはフルマッチの二重螺旋形成時において、ピレンのモノマー蛍光は1本鎖のときと大きな変化が無いが、ピレン修飾RNAではフルマッチの二重螺旋形成時にモノマー蛍光が著しく増強することが合成実験において確認されている。そして、CDスペクトルやNMRなどから、ピレン修飾DNAではピレンが二重螺旋内部に存在し周辺の塩基等とインターカレーションしていることと、ピレン修飾RNAではピレンが二重螺旋の外部に存在していることが示唆されている [8]。
そこで、中村らと同様のフルマッチピレン修飾DNAおよびRNAについてMDシミュレーションを実行し、ピレンとピレン周辺の構造を比較した。

3. 1. 1 メチレンリンカーの挙動

ピレンを二重螺旋内部に配置したピレン修飾DNAおよびRNA双方のモデリング構造からエネルギー極小化計算後の極小化構造への構造変化をグラフィック表示により調べたところ、ピレン修飾DNAではピレンは二重螺旋内部に留まり、ピレン修飾RNAではピレンは二重螺旋外部に配座する結果となった。
そこで、ピレンとウリジンの糖をつなぐメチレンリンカーにおける二面角a, b, gの時間推移をFigure 3に示す。各二面角はDNA・RNAとも全て揺らいでいる程度であることが確認される。このことはピレン修飾DNAおよびRNAともにピレンは安定した状態を保っていることを示している。
次に、DNAとRNAの相違について、まず、糖とピレンの配座に大きく影響する二面角abそれぞれについて考察する。DNAとRNAで明らかな相違が見て取れるのはaであり、bは双方ほぼ同様の値を取っている。これは、ピレンがリンカーの根元の部分から配座の異なるを示していることを示しており、二面角a, bの値からピレンがDNAでは内部、RNAでは外部(副溝)方向に配座することを示している。
また、二面角gにおいて、ピレンが二重螺旋内部に収まっているDNAだけでなく、ピレンが二重螺旋外部に存在するRNAにおいてもgは回転等の大きな挙動を示さなかった。

3. 1. 2 1ns後におけるピレン修飾核酸の構造

1ns後における、ピレン修飾DNAおよびRNAのスナップショットをFigure 4に示す。ピレン修飾DNA (Figure 4(a))ではピレンが隣接の塩基対とほぼ平行に並んでおり、それに対して、ピレン修飾RNA (Figure 4(b))ではピレンが二重螺旋の外部に出ていることが確認できる。
螺旋軸方向からピレンとピレン周辺核酸残基を見たFigure 4の(c)と(d)では、ピレン修飾DNAの場合のみピレンと塩基が重なり合っている様子が見える。


Figure 3. The structure of 2'-O-(1-pyrenylmethyl)uridine (a). The dihedral angle (a,b,g) of linker in DNA (b) and RNA (c).


Figure 4. The side view of Ball & Stick Model display of full-match pyrene-modified DNA at 1ns (a) and full-match pyrene-modified RNA at 1ns (b). The top view of the pyrene aromatic plane together with A-U nucleoside pair of full-match pyrene-modified DNA at 1ns (c) and full-match pyrene-modified RNA at 1ns (d).

3. 1. 3 ピレンを挟む塩基間の距離

ピレンを挟む2つの塩基間の距離として各残基のC1'における水素間距離を調べたところ、DNAのA鎖では約6.0A、B鎖では約6.5Aであった。これは、B型DNA二重螺旋構造の基本構造では5.0A、そしてピレンを修飾していない同シーケンスDNAについてのMDシミュレーションより得られた平均値が約5.0Aであることから、A鎖で約1A、B鎖で約1.5A増加している。それに対し、RNAではA鎖が約5.7A、B鎖が6.5Aであった。これは、A型RNA二重螺旋の基本構造では5.6A、そしてピレンを修飾していない同シーケンスRNAについてのMDシミュレーションより得られた平均値が約5.5Aであることから、A鎖はほとんど変わらず、B鎖のみ約1Aの増加が見られただけであった。これは、DNAではピレンが二重螺旋内部に存在するため、A鎖およびB鎖において塩基対間距離の増加が引き起こされたのに対し、RNAではピレンが二重螺旋の外側へ出ているためメチレンリンカー部分のみが影響し、B鎖のみ塩基間距離が増加したものと思われる。

3. 1. 4 ピレンと周辺塩基

中村らはピレン修飾DNAのピレンのインターカレーションを証明するため、NMRからNOESYスペクトルを測定し、ピレンと周辺塩基との水素間におけるオーバーハウザー効果を観測している [8]。これは水素間距離が約5A以下で観測されるものであるので、中村らによってオーバーハウザー効果が観測された水素間距離をi~viii(Figure 5)とし、MDシミュレーションにおけるピレン修飾DNAおよびRNAの各水素間距離の平均をTable 1に示す。
Table 1から、ピレン修飾DNAでは、シミュレーション結果においても全ての水素間距離でオーバーハウザー効果が観測され得る距離が示された。また、各水素間距離とオーバーハウザー効果の強度において、水素間距離が短いところはオーバーハウザー効果の強度も高く、長いところは強度も低いと言う高い相関性を示した。このことから、ピレン修飾DNAにおいて、本シミュレーションはピレンの塩基対間内部にインターカレートしている状態をよく再現していると思われる。
また、ピレン修飾RNAでは、A鎖側の塩基とピレンの水素間距離vi, viiが特に大きな値をとっている。よって、ピレン修飾RNAおいては、ピレンが塩基対間の外へ出ていることがこの結果からも確認される。


Figure 5. The proton pairs between the bases and pyrene for which NOE signals are observed.

Table 1. The average distances between the bases and pyrene protons in full-match pyrene-modified DNA and full-match Pyrene-modified RNA, and strength of NOE signals in full-match pyrene-modified DNA.
iiiiiiivvviviiviii
Full-match DNA (A)4.63.43.44.65.43.85.43.2
NOE signal [8]+++++++++++++++++
Full-match RNA (A)5.87.08.05.43.68.010.45.1


Figure 6. The dihedral angle of linker in Sequence I (a), Sequence II (b) and Sequence III (c).


Figure 7. The side view of Ball & Stick Model display of Sequence I at 1ns (a). The top view of the pyrene aromatic plane together with A-U nucleoside pair of Sequence I at 1ns (b). The side view of Ball & Stick Model display of Sequence II at 1ns (c) and Sequence III at 1ns (d).

3. 2 ピレン修飾RNAにおけるミスマッチの影響

ピレン修飾核酸を塩基配列認識プローブとして利用するためには、フルマッチだけでなくミスマッチによる蛍光強度やピレンと周辺塩基の構造への影響を検討する必要がある。
そこで、一本鎖のときとフルマッチ二本鎖のときで、明らかな違いを示したピレン修飾RNAについて塩基対ミスマッチの位置によるピレンの挙動に対する影響を調べた。今回使用したミスマッチRNA(15量体)は、A鎖の5'末端からの位置Position 6~8にミスマッチが存在する(以降、ピレン修飾部からミスマッチが近い順にシーケンスI~IIIとする)(Figure 2)。これらシーケンスI~IIIは、Iでは二本鎖を形成した際、フルマッチのピレン修飾RNAとは異なり蛍光の増大は観測されず、II, IIIではフルマッチのピレン修飾RNAと同様に蛍光の増大が観測されている[9]。
さらに、ミスマッチにおいては様々な組み合わせが考えられるため、他の組み合わせについてもシミュレーションを行い、ミスマッチの組み合わせによるピレン周辺部位への影響を調査した。

3. 2. 1 メチレンリンカーの挙動

フルマッチのときと同様にミスマッチ修飾RNAについて極小化構造を解析したところ、シーケンスIではピレンが二重螺旋内部に留まり、シーケンスII, IIIでは二重螺旋外部に配座する結果となった。
ミスマッチを含むシーケンスI~IIIにおけるメチレンリンカーの各二面角の時間推移をFigure 6に示す。Figure 6から、シーケンスIのメチレンリンカーは1ns中に構造変移を起こしているが、シーケンスII, IIIはほぼ一定の状態を保っていることが確認される。
そこでまず、3.1.1と同様に糖とピレンの配座に大きく影響する二面角abについて考察する。シーケンスIでは、ピレンが二重螺旋内部にいる状態(a-90°であり極小化構造でもほぼ同値)をほぼ維持しており、僅かの間だけ二重螺旋外部(a-180°)に出ているが、すぐに内部に戻っている様子が確認される。それに対し、シーケンスIIとIIIでは終始ピレンは二重螺旋外部に留まっていることが確認される。
また、二面角gにおいて、シーケンスIではメチレンリンカーの構造転移に伴い、ピレンの向きも変化している様子が確認される。シーケンスII・IIIではフルマッチのピレン修飾RNAと同様、二重螺旋の外部にピレンが配座しているにもかかわらず、回転等の大きな挙動は示されなかった。

3. 2. 2 1ns後におけるピレン修飾核酸の構造

1ns後における、シーケンスI~IIIのスナップショットをFigure 7に示す。3.2.1のリンカーの挙動でも示された通り、シーケンスIではピレンは二重螺旋内部に留まり、シーケンスII, IIIではピレンが二重螺旋の外部に出ていることが確認できる。

Table 2. The average distances between base pairs in Sequences I-III.
A strandB strand
Sequence I (A)6.96.4
II (A)6.76.1
III (A)6.56.2

Table 3. The average distances between the bases and pyrene protons in Sequences I-III.
iiiiiiivvviviiviii
Sequence I (A)4.84.34.74.14.55.94.64.3
II (A)5.16.37.55.43.69.37.04.8
III (A)5.66.06.65.54.010.98.54.8

3. 2. 3 ピレンを挟む塩基間の距離

次に、3.1.3と同様にC1'におけるの水素間距離を調べた(Table 2)。シーケンスIにおいて、ピレンが修飾されているA鎖の平均水素間距離は約6.9A、B鎖は約6.4Aであった。同様に、シーケンスIIではA鎖約6.7A、B鎖約6.1A、シーケンスIIIではA鎖6.5A、B鎖6.2Aであった。A型RNA二重螺旋の基本構造での水素間距離は5.57Aであり、同シーケンスかつ未修飾のフルマッチRNAのMDより得られた平均距離がA鎖約5.6A、B鎖約5.5Aであること、さらにフルマッチのピレン修飾RNAではA鎖約6.6A、B鎖5.8Aでることから、フルマッチピレン修飾DNAのときほど明確ではないが、ミスマッチにより周辺の構造に乱れが生じて塩基間が広がっており、シーケンスIではさらにピレンが二重螺旋内部に存在することによって塩基対間の広がりが最も大きくなったと考えられる。

3. 2. 4 ピレンと周辺塩基

Table 3にフルマッチのピレン修飾DNAおよびRNAで測定した水素間と同様の各距離i~viiiを示す。Iでは、水素間距離viが他の水素間距離に比べ僅かに大きな値を示すが、他の水素間距離の結果からピレンはフルマッチのピレン修飾DNAと同様に塩基対の間に存在していることが推察される。それに対し、II, IIIではフルマッチのピレン修飾RNAの場合に近い水素間距離が得られたことから、フルマッチのピレン修飾RNAと同様にピレンは塩基対の外側に存在していることが示された。

3. 2. 5 ミスマッチにおける他の組み合わせ

シーケンスI~IIIより、ミスマッチの位置によるピレンとピレン周辺への影響を考察したが、次に、ミスマッチの組み合わせをFigure 2の組み合わせと変更した場合について検討した。
フルマッチピレン修飾DNAおよびRNAとシーケンスI~IIIの極小化構造の結果から、ピレンが二重螺旋内部に留まり得るピレン修飾核酸は、極小化構造の時点でピレンが二重螺旋内部に留まっており、ピレンが二重螺旋外部に配座するものは極小化構造の時点ですでにピレンが二重螺旋外部に配座していた。そこで、極小化構造をピレンが二重螺旋内部に留まるか外部に配座するかの指標とした。
そこで、ミスマッチの位置はシーケンスI~IIIと同様であるがミスマッチの種類のみを変更したピレン修飾RNAに対して、それぞれ極小化計算を実行し、ピレンが内部に留まるか外部に配座するかを調べた。ただし、塩基対がプリン(アデニンおよびグアニン)同士のミスマッチは、A型RNA二重螺旋の基本構造において塩基が重なり合ってしまうため、シミュレーションは実行しなかった。また、フルマッチにおいては、シーケンスIの場合のみ行った。結果は、ピレンが二重螺旋内部に留まる場合を""、外部に配座する場合を"×"、シミュレーションを行わなかった場合"-"としてTable 4に示す(括弧付きの(×)、(-)はフルマッチの組み合わせであることを示す)。Table 4から、シーケンスIと同様にピレンから2残基離れた位置にミスマッチがあるピレン修飾RNAではミスマッチの種類に関わらずピレンは二重螺旋内に留まり、シーケンスII, IIIと同様の位置にミスマッチがあるピレン修飾RNAでは、ピレンが二重螺旋外部に出るという結果が示された。

Table 4. Calculated positions and combinations of mismatched base pairs.
A strand\B strandAUGC
Position 6 C6(×)
A6-(×)-
U6(×)
G6--(×)
Position 7 A7-(-)-×
U7(-)×××
G7-×-(-)
C7××(-)×
Position 8 G8-×-(-)
A8-(-)-×
U8(-)×××
C8××(-)×
Inside the double helix
×Outside the double helix
- not simulated
(  ) Full-match sequence

4 結言

本稿では、ピレン修飾核酸におけるMDシミュレーションの妥当性と塩基配列認識プローブの開発への可能性を検討した。フルマッチのピレン修飾DNAではピレンは二重螺旋内部に留まり、隣接する塩基と非常によく重なり合っている様子がピレンと周辺塩基との水素間距離などにより確認された。また、ピレンが二重螺旋内部に留まることにより、ピレンを挟む2つの塩基の間がA鎖、B鎖とも広がることも確認された。それに対しフルマッチのピレン修飾RNAではDNAの様なピレンが二重螺旋内部に留まることはなく、二重螺旋の外側へ出ており、塩基との重なり合いも起こしておらず、ピレンを挟む塩基間の距離もメチレンリンカーの影響によるものと思われるB鎖のみ増加がみられA鎖では増加は確認されなかった。また、ピレンの挙動に対しては、ピレン修飾DNAおよびRNAの双方とも揺らいでいる程度で回転等大きな挙動は見受けられなかった。ミスマッチを含むピレン修飾RNAでは、ミスマッチがピレン修飾部から2塩基離れた場合では二重螺旋内に留まり、3塩基以上離れた場合では二重螺旋外に出ることが確認された。
以上の結果から、ピレン修飾核酸のMDシミュレーションは中村らの実験結果によく則した結果となり、ミスマッチによるピレンの挙動への影響を予測することが可能であることを示した。このことから、MDシミュレーションが実際のターゲットに対するプローブ設計への指針と成り得ることを示す。

参考文献

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