膜タンパク質ブラウン動力学シミュレーション法の開発

金 完起, 伊藤 隆宏, 山登 一郎, 安藤 格士


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1 Introduction

タンパク質は生物体の主要構成成分であり、複数のアミノ酸がペプチド結合により連結したポリペプチド鎖から成る。その中でも、膜タンパク質は、生体膜中に存在しているタンパク質である。細胞内外との物質のやりとり、隣の細胞との接着などに、膜タンパク質は重要な役割を果たす。従って、膜タンパク質の構造や機能を解析、予測することは、生化学、薬学の分野で大変重要である。
しかし、水溶性タンパク質とは異なり、膜タンパク質は疎水的で非常に凝集しやすいという特徴がある。また、発現場所が膜に限られているなどの性質により、大量かつ安定に精製することが難しく、実験的に構造や機能を解析するのは困難である。このため、立体構造が解析されている膜タンパク質は数少ない[1]。そこで、時間・空間分解能の高いコンピュータシミュレーションによる膜タンパク質の解析が注目されている。
これまでは主に分子動力学法(Molecular Dynamics:MD)により膜タンパク質のシミュレーションが行われてきた[2]。MDシミュレーションは膜タンパク質だけでなく、水分子や膜脂質分子などの溶媒分子も全て明示的に発生させるため、詳細なアプローチが可能であった。しかし、脂質分子や水分子などの溶媒分子の数が膨大になってしまう問題がある。また、MD法では、一周期の振動が10フェムト秒程度で起こる共有結合長の伸縮運動をシミュレートするため、タイムステップは1フェムト秒程度が限界である。これら2つの問題のために、MD法では長時間の計算が困難である。しかし、タンパク質の構造変化や機能発現にはマイクロ秒からミリ秒かかるため、MD法でのそれら解析は困難である。
このような状況を改善するために、溶媒である水と膜を非明示的に再現した、膜タンパク質のMDシミュレーションが行われてきた[3 - 12]。溶媒分子を発生させないので、その分高速にはなるが、タイムステップは1フェムト秒程度が限界という点には変わりがなく、この手法を用いても長時間化には限界がある。また、溶媒分子を発生させないうえ、溶媒の粘度を考慮していないため、粒子の動きは真空中を動いているような状態になってしまい、原子の挙動に正確さの疑問が残る。
一方、安藤らが開発したブラウン動力学(Brownian Dynamics:BD)法[13]は溶媒分子を明示的には扱わず、その動的な効果をランダムな力として計算に組み込むため、シミュレーション系の原子数が少なくて済む。また粒子の運動は溶媒の粘性により短い時間に過減速すると仮定するため、長いタイムステップを設定することが可能である。このような特徴を持つBD法は長時間のシミュレーションを行うのに適しているといえる。
しかし、このBD法は水溶性タンパク質をシミュレーション対象としており、膜タンパクには適用できなかった。そこで、本研究では、膜環境をも非明示的に再現するモデルの開発を行い、BD法が膜タンパク質のシミュレーションにも適用できるように拡張した。aヘリックス構造のポリアラニンペプチドやパピロマーウイルス由来のE5タンパク質、蜂毒のメリチンをモデルとしてシミュレーションした結果、疎水性であるポリアラニンとE5膜タンパク質は膜中で安定に存在した。また、両親媒性であるメリチンペプチドは膜表面に安定に結合していた。これらの結果から、本膜モデルを用いたBD法は膜タンパク質のシミュレーションに有効であると考えられる。

2 Theory and Methods

2. 1 Brownian Dynamics Algorithm[13]

熱浴に接している粒子系の運動は式1のようなLangevin方程式で表せる。

ここでmi, riはそれぞれの原子iの質量と位置を表す。ziは粘性係数であり,ストークスの法則zi = 6paiStokeshで決められる。aiStokesは原子iのStokes半径,hは溶媒の粘度である。Fiは原子iが系から受ける力,Riは溶媒分子から受けるランダムな力であり,平均<Ri(t)> = 0,分散 <Ri(t)Rj(0)> = 6zikBTdijd(t)で表される。さらに粘性抵抗が大きく,慣性項が無視できるとすると,上の式の左辺を0とし,

が得られる。単位時間hにおける原子iの変位は,

で得られる。ここで,ziはガウス分布から得られるランダムなノイズベクトルである。これらの式2、式3に従う運動をブラウン動力学と呼ぶ。

2. 2 Force Field

本シミュレーションで利用する力場は式4で表される。

Vintraはタンパク質のコンフォメーションに依存したポテンシャルエネルギーであり、Gsolvは溶媒和自由エネルギーである。この2つのエネルギーの和Wtotalは有効エネルギー(effective energy)である。Vintraの計算には、AMBER91 united-atom force field[14]を用いた。また、Gsolvは以下の項で説明する、露出表面積に比例するエネルギーとして計算した。

2. 3 Solvation Energy

溶媒和の効果を表すため以下のモデルを用いた。

2. 3. 1 Distance-dependent Dielectric : DD[15]

原子分極や配向分極などの効果を誘電率eの中に取り入れるモデルである。本研究では 式5のように表した。

ここで、rijは原子iと原子jの距離である。

2. 3. 2 Solvent-accessible Surface Area : SA[16 - 18]

溶媒和自由エネルギーが露出表面積 (SA(rN)) に比例すると仮定し、計算に取り入れるモデルである。すなわち、

と表される。siは原子iの溶媒和パラメータ(atomic solvation parameters : ASP)である。ASPの値をTable 1に記載した。

2. 3. 3 Effective Charge : EC [19]

各原子の電荷qはその露出表面積 (SA) に応じて減少するとしたモデルで、

と表した。ここで、Siは原子iが単独で存在するときの露出表面積であり、gは遮蔽パラメータである。本研究ではg = 5とした。

Table 1. Atomic solvation parameter (ASP) values for membrane and water environment[18]
AtomASP in lipid phase, bASP in water phase, a
typea(cal/mol/A2)(cal/mol/A2)
Cali-1120
Caro-26-1
Chet-26-22
S-232
O3-83
N-59-140
O--20-128
N+-22-198
a Cali : aliphatic carbon atoms, Caro : aromatic carbon atoms, Chet : carbon atoms bonded to any heteroatoms, S : sulfur atoms, O: uncharged oxygen atoms, N : uncharged nitrogen atoms, O- : charged oxygen atoms, N+ : charged nitrogen atoms.

2. 4 Membrane Model

脂質二重層の疎水部分がz座標上に15 Aから-15 Aの厚さで存在すると設定した。それ以外の領域を水相とし、水相と脂質二重層との間にインターフェイス領域を設けた。今回は、インターフェイス領域の厚さを6 Aの大きさに設定した(Figure 1)。
ASPは水相中(a)と膜中(b)とで異なる値をとっており(Table 1)[18]、インターフェイス領域ではASPの値がabの間を連続的に変化するようにswitching function[20](式8)を導入した(Figure 2)。

ここでzi は原子iのz座標、zmは脂質二重層の半分の厚さであり、lはインターフェイス領域の厚さである。つまり、今回はzm = 15、l = 6である。


Figure 1. Implicit membrane model. zm is a half of the lipid slab thickness. l is the thickness of the water lipid interface.


Figure 2. ASP values for different atom types used in the bilayer model versus z coordinate. :s(S), :s(Cali), :s(Caro), :s(Chet), :s(O), :s(O-), :s(N), :s(N+)

2. 5 Conditions of BD Simulations

本研究のシミュレーションにはmultiple time step[21]を用い、タイムステップは、共有結合項を5 fs、非共有結合項を40 fsと設定した。シミュレーション時間は100 nsであり、温度は298 Kと設定した。水相での溶媒粘度は0.128 kcal/mol/A3.psとし、今回のモデルでは脂質相の粘度も同じ値とした。サンプリングは100 psごとに行った。計算にはIntel Pentium4 2.8 GHzのLinux コンピュータを用いた。

2. 6 Model Peptides

モデルペプチドとして、以下の3種類を使用した(Figure 3)。

2. 6. 1 A30(30 residues)(Figure 3a)

アラニン30残基をaヘリックス構造で設計した。N末端、C末端ともにチャージ化している。

2. 6. 2 Melittin: MLT(26 residues)(Figure 3b)

蜂毒であるメリチンペプチドは、両親媒性でaヘリックス構造をとることが過去のX線結晶構造解析実験で明らかとなっている[23]。配列はGly1-Ile2-Gly3-Ala4-Val5-Leu6-Lys7-Val8-Leu9-Thr10-Thr11-Gly12-Leu13-Pro14-Ala15-Leu16-Ile17-Ser18-Trp19-Ile20-Lys21-Arg22-Lys23-Arg24-Gln25-Gln26である[22]。初期構造は実験で得られた構造と同一に設計した。両末端ともにチャージ化しているモデルMLT(1)とN末端をメチル化して、C末端だけをチャージ化したモデルMLT(2)の2通りを作成した。

2. 6. 3 E5(44 residues)(Figure 3c)

E5はトナカイパピロマーウイルス由来のタンパク質である。このタンパク質の配列は、Met1-Asn2-Hip3-Pro4-Gly5-Leu6-Phe7-Leu8-Phe9-Leu10-Gly11-Leu12-Thr13-Phe14-Ala15-Val16-Gln17-Leu18-Leu19-Leu20-Leu21-Val22-Phe23-Leu24-Leu25-Phe26-Phe27-Phe28-Leu29-Val30-Trp31-Trp32-Asp33-Gln34-Phe35-Gly36-Cys37-Arg38-Cys39-Asp40-Gly41-Phe42-Ile43-Leu44である[24]。
3次元構造は解明されていないが、円偏光二色性スペクトルによりタンパク質の80 %がaヘリックス構造であることが判明している[25]。また、ハイドロパシー解析により、1残基目から31残基目までが膜貫通型状になっていると予測されている[25]。これらのことを踏まえて、1残基目から31残基目までをaヘリックス構造とし、それ以外の部分を伸びきった状態で初期構造を設計した。このモデルはN末端、C末端ともにチャージ化している。


Figure 3. The initial structures of the model peptides used in the present research. a) the 30 residues of alanine (A30), b) bee venom melittin (MLT), and c) the papillomavirus E5 membrane protein (E5).

3 Results and Discussion

3. 1 BD Simulation of A30 Peptide

A30モデルをFigure 4に示す通り膜貫通型に初期配置し、100 nsシミュレーションを行った。Figure 4には初期配置とともに50 ns後 と100 ns後のA30の構造、effective energy、solvation energy、RMSD、1、15、30残基目のCa原子のz座標に対するトラジェクトリーの結果を示した。
effective energy、solvation energy共に大きな変化は認められず、RMSDも2 Aあたりで安定的に推移していた。Ca原子のトラジェクトリーからも、A30が膜中で安定に存在していたことが確認された。
アラニン残基はハイドロパシー指標が1.8であり[26]、アラニン30残基は、N末端、C末端がともにチャージ化しているとはいえ、疎水的なポリペプチドであると考えられる。ゆえに、A30は膜中に留まると予想された。今回のシミュレーション結果はこの予想と一致していた。


Figure 4. Time dependence of various energies, RMSD, and z coordinates of some specific Ca atoms in A30. Effective energy (; in upper graph), solvation energy (; in upper graph), RMSD of Ca atoms (; in upper graph) from the initial structure, and the z coordinates of 1 Ca (black; in lower graph), 15 Ca (; in lower graph), and 30 Ca (; in lower graph) atoms.

3. 2 BD Simulation of MLT Model (1)

両末端ともチャージ化したMLT(1)モデルをFigure 5に示す如く、親水基の多いC末端側を脂質相へ、疎水基の多いN末端側を水相に位置するように初期配置し、100 nsシミュレーションを行った。Figure 5にはMLT(1)の初期配置とともに50 ns後 と100 ns後のMLT(1)の構造、effective energy、solvation energy、RMSD、1、13、26残基目のCa原子のz座標に対するトラジェクトリーを示した。
トラジェクトリーより、40 nsから60 nsにかけてC末端側が水相側へ移動していることがわかった。また、このときsolvation energyが低下していることが確認された。これは、親水基が多いC末端側が水相へ移動したためと考えられる。RMSDが2 A付近で推移していることより構造は崩れてはおらず安定であった。最終的に、MLT(1)は膜表面結合型で安定に存在していた。


Figure 5. Time dependence of various energies, RMSD, and z coordinates of some specific Ca atoms in MLT(1) of which both ends are charged. Effective energy (; in upper graph), solvation energy (; in upper graph), RMSD of Ca atoms (; in upper graph) from the initial structure, and the z coordinates of 1 Ca (; in lower graph), 13 Ca (; in lower graph), and 26 Ca (; in lower graph) atoms.

さらに、各残基の二面角を100 psごとに計測した結果、Ile2残基の二面角が20 nsあたりで変化し、aヘリックス構造が崩れていることがわかった(データ未搭載)。20 nsではまだIle2残基が水相に位置しているため、また、N末端側がチャージ化していることも考慮すると、エネルギーが安定化するに従い構造が変化したと考えられる。また、Gly3残基も50 nsあたりを境にしてaヘリックスが崩れていた。50 ns以降MLT(1)のC末端側は水相へ移動しており疎水基の多いN末端側が膜に埋まる形になっている。しかしながら、N末端はチャージ化しているのでGly1残基は水相へ突き出る構造をとろうとする。このため、Gly3残基のaヘリックスが崩れたと考えられる。メリチンのN末端側をチャージ化していない状況でシミュレーションを行うとメリチンのN末端側はaヘリックスが崩れないと予想される。一方、親水基の多いC末端側は二面角で特に大きな変化は確認されなかった。

3. 3 BD Simulation of MLT Model (2)

N末端側はチャージ化せず、C末端側だけをチャージ化したMLT(2)モデルを使用した。Figure 6に示す通り、親水基の多いC末端側を脂質相へ、疎水基の多いN末端側を水相に位置するように初期配置し(MLT model(1)と同じ配置)、100 nsシミュレーションを行った。Figure 6に50 ns後 と100 ns後のMLT(2)の構造とeffective energy、solvation energy、RMSD、1、13、26残基目のCa原子のz座標に対するトラジェクトリーを示した。
トラジェクトリーより、60 nsから80 nsにかけてC末端側が水相側へ移動していることがわかった。また、このときsolvation energyが低下していることが確認された。これは、MLT(1)とシミュレーションと同じく親水基が多いC末端側が水相へ移動したためと考えられる。RMSDより、構造は若干崩れていることがわかった。しかしながら最終的に、MLT(2)はMLT(1)のシミュレーション結果と同じように膜表面結合型で安定していた。
このモデルにおいても、各残基の二面角を100 psごとに計測した結果、MLT(1)と異なりIle2残基の二面角は安定に保たれており、aヘリックスが崩れていないことが分かった(データ未搭載)。Gly3残基においても同様であった。また、Figure 6に示されているようにN末端側は膜の中へ埋まっていることが分かった。MLT(1)(Figure 5)と比較するとMLT(2)のほうがより深く埋まっていることが分かる。これは、N末端側がチャージ化していないため、ヘリックス構造が崩れることなく膜の中で安定に存在できたためと考えられる。一方、C末端側では、Arg22Lys23aヘリックス構造が崩れていることが判明した。親水基が多く、水の中なので露出表面積(SA)を増加させる方向に構造が変化したと考えられる。このモデルでRMSDが増加していったのは、C末端側のaヘリックスが崩れたためと考えられる。C末端側5残基のaヘリックス構造が崩れている現象はメリチンのMDシミュレーション結果[3]、および実験結果と一致していた[28, 29]。ただ、このMDシミュレーションではN末端側をチャージ化したモデルを用いており、MLT(2)とはその点が異なる。また、実験においても、メリチンのN末端はチャージ化している。N末端をチャージ化しているMLT(1)では先述した通りC末端側のaヘリックス構造は崩れていなかった。しかしながら、MLT(1)のシミュレーション時間を延ばすなどすれば、C末端側構造が変化する可能性はある。


Figure 6. Time dependence of various energies, RMSD, and z coordinates of some specific Ca atoms in MLT(2) of which both ends are uncharged. Effective energy (; in upper graph), solvation energy (; in upper graph), RMSD of Ca atoms (; in upper graph) from the initial structure, and the z coordinates of 1 Ca (; in lower graph), 13 Ca (; in lower graph), and 26 Ca (; in lower graph) atoms.

MLT(1)、MLT(2)どちらにおいても、C末端側は約20 nsかけて膜表面に移動していることが今回のシミュレーションで観察された。膜表面に移動している間、両モデルとも各残基の二面角に大きな変化は認められなかった。ゆえに、大きな構造変化することなく、C末端側が表面に出てきたといえる。過去に、Im et al. が非明示的溶媒モデルであるGB(Generalized Born)を用いたMD法で、本シミュレーションのMLT(2)と同様の系をシミュレーションした報告がある[5]。その報告によると、C末端側は約250 psという短時間で膜表面へ移動していた。しかし、このMDシミュレーションでは溶媒を非明示的に扱っており、溶媒の粘度を考慮していない。一方、本研究で開発したBD法は溶媒粘度を膜と水相で同一ではあるが考慮しているため、このMDシミュレーションに比べて時間をかけて膜表面に移動したと考えられる。このメリチンの挙動を観察した実験は行われていないが、溶媒の粘性を考慮している分、BDシミュレーションのほうがより妥当であると考えられる。
100 ns後MLTが膜表面に位置しているとき(Figures 5, 6)、先述した通りGlnLysなど親水残基は水相へ向き、疎水残基は脂質相へ向いていた。この配向は"wedge"と呼ばれる構造と一致しており[27]、また固体NMR、Polarized attenuated total internal reflection - Fourier transform infrared (PATIR-FTIR) spectroscopyを用いて脂質二重層でのメリチンの配向を調べた実験結果と一致していた[28, 30]。
また、メリチンを対象に明示的な環境でMDシミュレーションした結果とも配向が一致していた[2]。これらのことからMLTモデルを対象にした本BDシミュレーションは有効であったといえる。

3. 4 BD Simulation of E5 Model (1)

E5モデルをFigure 7に示す。aヘリックス部分を膜貫通型(transmembrane;TM)に、それ以外の部分(32残基目から44残基目)を水相へ突き出す形に初期配置して、100 nsシミュレーションを行った。Figure 7には50 ns後 と100 ns後のE5の構造、またeffective energy、solvation energy、RMSD、1、16、31残基目のCa原子のz座標に対するトラジェクトリーを示した。RMSDはE5タンパク質全体のCa原子を対象に計測したものとは別に、新たにTM領域部分(1残基目から31残基目)のCa原子を対象に計測したものと、それ以外の部分(32残基目から44残基目)のCa原子を対象に計測したものもグラフに加えた。
トラジェクトリーより、aヘリックスからなるTM領域は膜中に留まっていることがわかった。また、TM領域はRMSDが2 Aで推移しており構造が安定していた。また、solvation energyも大きな変化が認められず、E5のTM領域は膜中で安定に存在していることがわかった。一方、effective energyは低下していることが認められた。これは、E5のTM領域以外の部分が構造変化したためにポテンシャルエネルギーが低下したためと考えられる。


Figure 7. Time dependence of various energies, RMSD, and z coordinates of some specific Ca atoms in E5. Effective energy (; in upper graph), solvation energy (; in upper graph), RMSD of all the Ca atoms (; in upper graph), the Ca atoms in the TM region (; in upper graph), the Ca atoms in the 32th to 44th residue region (; in upper graph) from the initial structure ,and the z coordinates of 1 Ca (; in lower graph), 16 Ca (; in lower graph), and 31Ca (; in lower graph).

3. 5 BD Simulation of E5 Model (2)

前項と同じE5モデルを、今度はE5のTM領域を若干水相へ突き出す形に初期配置し(Figure 8)、100 nsシミュレーションを行った。このシミュレーションの50 ns後 と100 ns後のE5の構造もeffective energy、solvation energy、RMSD、1、16、31残基目のCa原子のz座標に対するトラジェクトリーとともにFigure 8に示した。
Ca原子のトラジェクトリーに注目すると、0 nsから40 nsにかけてE5のTM領域が膜中へ埋まっていく様子が確認された。また、同時にsolvation energyが低下していることも確認された。これは、E5のTM領域が膜中へ埋まることによりエネルギー的に安定したと考えられる。また、膜へ埋まった後は安定に存在していた。前項の結果と同じ状態になったといえる。


Figure 8. Time dependence of various energies, RMSD, and z coordinates of some specific Ca atoms in E5. Half of the a-helical region of the protein was embedded in lipid phase at initial state. The color of each curve corresponds to that in Figure 7.

今回、E5の初期配置を、先述した通り2通りの条件でシミュレーションを行った。そこで、100 ns後の2つの構造を比較してみた。Ca原子のRMSDを計測したところ、TM領域部分は0.98 A、親水部分は4.99 Aであった。つまり、E5のTM領域は2通りのシミュレーションで最終構造が大きく変化していないといえる。一方、親水部分は2通りのシミュレーションで異なる構造をとっていた結果になった。今後、長時間シミュレーションを継続すれば、親水部分も同じ構造になる可能性もある。
2通りの初期配置で行ったシミュレーションどちらにおいても、E5のTM領域が膜内部で安定に存在していた結果になった。この結果は、過去の実験結果とその予測結果と一致していた[25]。よってE5を対象にしたシミュレーションにおいても本BD法が有効であったといえる。

3. 6 Computational Time

1 nsのBDシミュレーションに要した時間は、A30 (183原子)では約182 s、MLT(255原子)では約400 s、E5(434原子)では約800 sであった。現在、溶媒分子を明示的に扱う分子動力学法では、系の大きさに依存するものの、1 nsのシミュレーションに約1日を必要とする。したがって、本手法により非常に高速な計算が可能となった。

4 Conclusions

本研究で、膜タンパク質ブラウン動力学シミュレーション法を開発し、3種類のモデルペプチドを対象にシミュレーションを行った。A30は想定した結果と一致した。MLTは過去の実験結果と、また他のシミュレーション結果と一致しており、E5も過去の実験結果とその予測結果と一致していた。以上のことから、今回開発した非明示的膜モデルによるBD法は膜タンパク質のシミュレーションに有効であると考えられる。今後、高速な計算を可能とする本BD法は、膜タンパク質の折り畳み・構造予測、さらには機能発現に伴う膜タンパク質の構造変化など、長時間の計算を必要とするシミュレーションに適用することができると期待される。

5 Agreement for Using the Program

本研究で開発されたブラウン動力学プログラムは無料で配給できる。このプログラムが必要な方は電子メールにてご連絡ください。

本研究は文科省の私学学術フロンティア(平成17年度〜平成21年度) (to T. A)、およびハイテクリサーチセンター整備事業(平成18年度〜平成22年度)(to T. A. and I. Y)による助成を得て行われた。

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