生体高分子のWeb教材集のChime版からJmol版への移植ならびに新機能の追加

本間 善夫


Return

1 はじめに

生体高分子の構造解析や機能の研究が進み,その成果が多様なデータベース[1]として広く公開され,Web教材やビジュアルな解説書などによってもその状況を知ることができる.Web上のコンテンツの中には,タンパク質や核酸の3D構造を参照可能な様々なビューアを利用しているものも多く,視覚的かつインタラクティブにデータの意味を理解できるようになっている.
本研究室ではこれまでに以前は広く用いられていたプラグインのChime[2]を利用し,ChimeスクリプトおよびRasmolスクリプト記述によるWebページ作成により,ブラウザ上で容易に多様な分子情報を表示できる教材を多数公開してきた[3].
しかしOSやブラウザのバージョンアップにより利用できない環境が増えてきたことから,Javaアプレットで動作するJmol[4]を用いたコンテンツに移植する作業を続けている[5].特にインターネット通信環境の高速化が進んだためにProtein Data Bank(PDB)[6]に登録されているデータサイズの大きい生体高分子の転送も容易になったことを受け,それらのデータを活用した生命科学分野の学習に適した独自のコンテンツも順次公開しているので[7]その概略を報告する.

2 Jmolを利用した生体高分子関連コンテンツの作成

2. 1 ChimeスクリプトとJmolスクリプト

これまでに公開してきたChime[2]利用コンテンツでは,Chimeスクリプト・Rasmolスクリプトを利用して,タンパク質の二次構造など生体高分子の特徴がわかる多様な表示変更をWebブラウザ上でボタンを押すだけで可能にする試みを重ねてきた.
Windows XP/Vistaその他のOS環境で閲覧できるように,Javaベースで動作するオープンソースのJmol[4]を利用したものに移植するにあたっては,Chimeスクリプトに類似しているものの一部違いがある上にバージョンによって若干変更されるJmolスクリプト[8]への変換が必要であった.ただし,動作に必要なjarファイルはコンテンツのあるサーバに置くことになるので,そのバージョンにスクリプトが対応していればよい.因みに2007年12月1日現在,筆者のデータ集[9]で用いているバージョンは11.0.2,RCSB PDB[10]では10.0.2となっている.
またChimeではembedタグによるボタン表示でデータ変更・表示変更等の処理を行ったが,Jmolではラジオボタンまたはチェックボックスでの処理に変更する必要があった.Table 1に両者のタグの違いを例示した.

Table 1. Comparison of Jmol script with Chime and Rasmol script.
ChimeJmol
親水性疎水性インデックス順色分け表示<EMBED type="application/x-spt" width=10 height=10 script="select ile or val or leu | colour atoms [255,255,0] | select phe or cys or met or ala | colour atoms [255,220,20] | select gly or thr or ser or trp or tyr or pro | colour atoms [255,175,50] | select his or glu or gln or asp or asn | colour atoms [255,90,100] | select lys or arg | colour atoms [200,00,96]" button=push target="data"> 疎水性インデックス順色分け<script>jmolRadio("select ile or val or leu; colour atoms [255,255,0]; select phe or cys or met or ala; colour atoms [255,220,20]; select gly or thr or ser or trp or tyr or pro; colour atoms [255,175,50]; select his or glu or gln or asp or asn; colour atoms [255,90,100]; select lys or arg; colour atoms [200,00,96];"," 疎水性インデックス順"); </script>
(ラジオボタン)
分子回転<EMBED type="application/x-spt" width=12 height=12 script="set spin Y 6 | spin on" button=push target="data"> 回転<script>jmolCheckbox("spin on", "spin off", "回転");</script>
(チェックボックス)

2. 2 生体高分子関連コンテンツの概要

表中にアミノ酸残基の親水性疎水性インデックス[11]の違いを色分けする部分を示したが,Jmolが標準でもっているタンパク質の二次構造などの表示形式に加えて,同インデックスのほかに,酸性・塩基性,極性・非極性,等電点,コンホメーション選択性[12]などの特性を色分けできるようにして独自性をもたせており,その元になる数値と用いている色をTable 2にまとめた.
さらに近年注目されている糖鎖については,ヒアルロン酸など糖鎖や糖鎖を含むタンパク質のPDBデータをまとめて1つの教材とし[13],代表的な糖であるGal,Glc,Man,Fuc,Xyl,Sia,GalNAc,GlcNAc,GlcAについては色分け表示できるようにした.
Figure 1にPDBデータ1FC1(免疫グロブリンのFcフラグメント)について,リボン表示にしたタンパク質を親水性疎水性インデックス値にしたがって着色し,糖鎖についても色分けした画面例を示した.このような多彩な表現が可能になったことで,利用者が自由にデータを表示させて回転・ズームしたり画像をキャプチャして教材に用いたりできることで生体高分子について理解を深めることが容易になったと考える.なお,同データについて可能な表示変更例や回転の様子をアニメーションにした動画ファイルを電子付録として添付した(Fig_a1.gifおよびFig_a2.gif).
糖タンパク質以外に,特有の構造を有する生体高分子をまとめたコンテンツとしては[9],膜貫通タンパク質(膜貫通のα鎖を識別表示.他にβバレル型膜タンパク質をまとめたものも作成),シトクロムP450(共通するプリズム型形状中のヘリックス鎖のうち中心を貫くIヘリックスを強調可能)などがある.
なお,PDBデータ閲覧時の読み込み速度を向上させるために表示に必要な座標データ以外を自動的に削除したり,複数の構造データが含まれているNMRで得られたデータについては最初の構造以外を削除したりできるテキストエディタ用の自作マクロ[14]を利用している.さらに構造が類似した複数の鎖が含まれている場合には必要な鎖だけを手動で切り出したものをサーバに置いて提供している.その一方,本来は対称性構造の多量体でありながらその一部しか登録されていないPDBデータもあることから,Protein Quaternary Structure(PQS)[15]でその推定複合体構造を取得して作成した教材も公開している.
最後に,本データ集は書籍[16]付録のDVD-ROMに収録したものを別途公開しており[17],Web版と併用することで一層有用であることを付記しておきたい.

Table 2. Properties of amino acid residues and their colouring on "Data Book of Molecules" [9].


Figure 1. An example of a display of "Structure of Glycoprotein and Carbohydrate Chain" (PDB-ID: 1FC1). Protein in ribbon model is coloured according to the hydropathy index.

3 まとめ

本報告は,世界中の研究者によって構造解析されたものが集積されて研究・教育用に公開されているPDBデータを活用し,分子ビューアJmolによってその構造の特徴をわかりやすく閲覧できるようにした自作データ集について詳述したものである.これにより初学者から専門家まで生体高分子の構造の意味を容易に理解できるであろう.各コンテンツにはサンプル画像や関連するWebページへのリンクや参考文献も掲載し,当該分野についてより深く知ることができるだけでなく,各HTMLソースを参照して改変すれば利用者独自のコンテンツも作成可能なサンプルとしての役割も担っていると位置付けている.
ワトソンとクリックによって見出されたDNAの二重らせん構造に代表されるように,生体高分子は美しい構造をもっているものも少なくなく,それらの3D構造をパソコン上で自由に動かして見ることができることは,生命科学への関心を高めることにもつながり,生命科学教育という観点でも有用と考えるものである.

最後に公開データ集作成に協力してくれた県立新潟女子短期大学生活科学科生活科学専攻の卒業生に深く感謝いたします.

参考文献

[ 1] ライフサイエンス統合データベースセンター.
http://dbcls.rois.ac.jp/
[ 2] Elsevier MDL.
http://www.mdl.com/products/framework/chime/
[ 3] 本間善夫, Chime版 分子の学習帳.
http://www.ecosci.jp/chem2/mol_db00.html
[ 4] Jmol: an open-source Java viewer for chemical structures in 3D.
http://jmol.sourceforge.net/
[ 5] 例えば, 本間善夫, 日本コンピュータ化学会2006秋季年会講演予稿集, 1P06.
[ 6] Protein Data Bank.
http://www.wwpdb.org/
[ 7] 例えば, 本間善夫, 第29回情報化学討論会講演予稿集, JP33.
http://www.jstage.jst.go.jp/article/ciqs/2006/0/JP33/_pdf/-char/ja/
[ 8] 例えば, Jmol.js JavaScript Library.
http://jmol.sourceforge.net/jslibrary/
[ 9] 本間善夫, Jmol版 分子の学習帳.
http://www.ecosci.jp/jmol/pdb_1f88A.html
[10] RCSB Protein Data Bank.
http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do
[11] Kyte and Doolittle, J. Mol. Biol., 157, 105-132 (1982).
[12] G. A. Petsko, D. Ringe著, 横山茂之 監訳, カラー図説 タンパク質の構造と機能 ─ゲノム時代のアプローチ, メディカル・サイエンス・インターナショナル (2005), p.18.
[13] 本間善夫, 糖タンパク質データ集.
http://www.ecosci.jp/chem10/weekmol101j.html
[14] 本間善夫, PDBデータ用秀丸マクロ集(2008年の日本化学会第88春季年会で発表予定).
http://www.ecosci.jp/pdb/hm/macro_g1.html
[15] Protein Quaternary Structure.
http://pqs.ebi.ac.uk/
[16] 本間善夫, 川端潤, DVD-ROM付 パソコンで見る動く分子事典 Windows Vista対応版, 講談社 (2007).
[17] 本間善夫, 星哲也, 川端潤, 日本コンピュータ化学会2007秋季年会講演予稿集, 1P02.


Return