浮遊粒子状物質の可視化:画像的アプローチ

青山 智夫, 神部 順子, 長嶋 雲兵, 中山 榮子


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1 はじめに

大気は窒素,酸素の混合気体であると同時にエアロゾルである.直径(以下径)1~10mmのゾル粒子は浮遊粒子状物質(Suspended Particulate Matter, SPM)と呼ばれ,実体は火山灰,海塩粒子,土壌粒子,排気粒子など様々である.大気中の化学反応は気体,光,SPM表面が関与する.SPM自体も大気中の反応で生成することがある[1].
東アジアの春先の視界を霞ませる黄砂はSPMとは区別されている[2].粒子径分布極大は~4mmである[3].日本大気中の黄砂濃度はppbオーダの希薄さである.しかし全量は決して無視できるほど小さくなく,地球温暖化や生態系に及ぼす影響も小さくない[4].黄砂表面には様々な物質が吸着する.岩坂[4]によれば黄砂は「空飛ぶ化学工場」である.発生源の黄砂と日本に飛来する黄砂では表面の化学的な性質が違う[5].我々は一種のSPMと考える.
日本の夏の高温高湿度の大気中には雲を形成しない微小な凝結核が存在する.気象現象としてはヘイズと呼ばれる夏季の霞として出現する.吸湿性物質の臨界半径から粒子径は~1.2mm[6]と思われる.それも我々はSPMの一種と考える.本論文のSPMは大気汚染物質としてのSPMの他に黄砂,雲凝結核を含む.
SPMは普遍的であるにもかかわらず視認性は低い.研究も盛んとは言い難かった.最近,径2.5mm以下のSPMは呼吸器の深部に到達し健康を害す[7 - 10]ことが認識されるようになり,疫学面から研究されるようになった.日本に飛来する黄砂は2.5mm以下の粒子を含む[11].黄砂表面にバクテリア,黴の付着が報告されている[12].我々は急性症状を起こさなくとも高濃度のSPMは可能ならば避けるべきと考える.その回避のためにもSPM可視化は必要である.
SPMを気体反応の場,大気流動の指示物質と考えれば,興味深い物質であり,もっと化学者に注目されて良いと思う.本論文の目的はSPM研究の第一歩として視認性の低いSPMの大気中の分布を明らかにする簡便法を提示することである.

2 南九州の黄砂とSPM

2006年以降,南九州宮崎地区では全日快晴の日が少なくなってきた.視程の悪い曇とも晴ともいえない日が増えている.そういう日はSPM濃度が高い.レーザ散乱光方式の粉塵計で測定するとSPM濃度は50~100 mg/m3を示す(宮崎市船塚地区測定).
宮崎市では工場,自動車数,道路網の発達から考えてSPM源は少なく,西風が卓越する気象条件と東に開けた地形から考えて夜間のSPM蓄積の可能性も大きくない.降雨後の快晴時の住宅街のSPM濃度は10~20mg/m3である.しかし,その状態が長く続かない.従来SPM源はボイラーや内燃機関の排気と考えられてきたが50 mg/m3を超えるようなSPMは外部から流入したと考えざるを得ない.
国立環境研究所が設置したライダー群の実況を見ると上空~12km付近ではエアロゾルの塊が一年中飛んでいる[13].塊は偏光度から考えて黄砂の可能性が高い.
霞は排気中の未燃焼有機物が強い日射により光化学反応を起こした二次的粒子の可能性がある.SPM濃度(<100 mg/m3)に比較すると視程は~10kmで低い.粒子が高湿度の大気中で膨潤していると考えられる.このような状態の霞を以下ヘイズという.濃度50 mg/m3を超えるようなSPMを生成させる未燃焼有機物が何故存在するのか不明である.これらは想像の域を出ないが,宮崎地区のSPM濃度を考察する際に大気の流動について考える必要があることは確かである.それは西日本全域に言えることではないだろうか.

3 宮崎市のSPM分布構造

宮崎市中心部,船塚地区のSPM濃度の時刻変化をデジタル粉塵計(柴田科学LD-3K2, LD-3B)で測定した.結果をFigure 1に示す.宮崎市の2007年1月から6月の非黄砂かつ晴天日のSPM量は住宅街で10mg/m3,交通量の多い国道沿いで20 mg/m3である.宮崎市にはSPMを多量に排出する産業はなく,最大排出源は大型自動車のディーゼルエンジンである.南宮崎駅のバスセンターで朝のラッシュ時にSPM濃度を測定すると無風時35~50 mg/m3である.50 mg/m3を超えるSPMは域外から飛来したものと考えられる.
実際に3/28, 30~4/2は気象庁が黄砂日とした.3/31を除き,Figure 1のピークA+B, C, D+E+F, G+Hが対応する.黄砂とSPM濃度の相関関係は環境省のホームページに記載されている[2].SPM濃度値から黄砂現象をみれば日の単位は大まか過ぎる.一日の内に複数のSPM極大現象が存在する.


Figure 1. Changes of the SPM density [mg/m3] at Funazuka, Miyazaki-city between 2007/3/27~4/4. The resolving for the time is 7.5 min.

Figure 1,ピークAでは22.5分でSPM濃度が72mg/m3から651mg/m3へ増大した.ピークA現象は眼視的には濃霧である.それは1.6時間続いた.この間の宮崎気象台(測定点から0.9km西方)では西の風2.8m/sである.ゆえに幅16kmのSPM塊が通過したと考えられる.同時刻のMSAT衛星IR1バンドの11mmの遠赤外放射画像[14]では宮崎地方に放射を遮る雲/霧は見出せない.地表面に近い霧である.現象の規模はメソ(meso)のレベルである.その規模の構造はピークCにも存在する.ピークCをGaussian分解した結果をFigure 2に示す.


Figure 2. Gaussian expansions for the peak C in Figure 1.

ピークCは4つのサブピークに分かれる.それぞれの特徴をTable 1に示す.SPM塊を動かす原因は大気流動である.それは風速に現れる.それから考えるとG1, G2, G4は同一の大気塊中のSPM塊である.3/30は黄砂飛来日で,当日の最大SPM現象はピークCのみである.従って黄砂にはメソ構造がある.

Table 1. Characters of the G1~G4 sub-peaks in Figure 2.
NameSPM(time)half-peakWind[m/s]Width
G140*(4:56**)4:11-5:41**9.3, W50 km
G282 (7:26)6:11-8:419.0, W81
G420.5 (9:26)8:41-10:308.2, W41
G342 (11:11)9:56-12:180.7, W6
*) Max. Density [mg/m3], **) JST time of 2007/3/30.

大気境界面とSPM構造の関係を調べる.SPM以外にも微細水滴,氷片,水蒸気も大気流動と共に動いている.それらの時間変化をFigure 3に示す.


Figure 3. Relations among the SPM, the humidity and the temperature observed at Funazuka, Miyazaki city, 2008/4/24.

Figure 3を見ると,17~20時の間にSPM塊の通過が観測されている.SPM濃度の変化はFigure 2の場合と違い急激である.この時の大気の状況を他の気象データから推定する.Hum.曲線の段差(矢印)に注目する.2008/4/24, 15:30, 17:00, 20:00に3種類の大気境界面が通過している.ここでは時刻順に第1~3境界という.
第1境界では寒冷,湿潤な大気が流入した境目である.SPM濃度は不変である.第2境界では温度は不変でより湿潤でSPM濃度の高い大気の流入である.第3境界ではより寒冷,乾燥,低SPM濃度大気の流入である.デジタル粉塵計,温湿度ロガーの併用で大気の境界面(不可視)が識別できる.宮崎気象台観測の風向風速の変化をTable 2に示す.

Table 2. The Atmospheric pressure, the wind speed and the direction at Miyazaki observatory, 2008/4/24.
TimePressureWind sp.DirectionWidth
12 h1008.4 hPa7.5 m/sW
131008.16.0WSW
141008.05.3W
151007.65.9WSW
161008.03.6E19km
171008.74.7ENE
181009.44.8ENE42km
191010.02.2ENE
201011.24.2W
211012.33.1WSE
221013.02.4WSE
231013.22.0W
241013.51.7WNW

風速から計算した大気塊の幅は19, 42kmである.
大気の流れには複数の階層構造があり気象現象もその階層により分類される.大気中の水蒸気の現象にメソ構造があるようにFigure 1~3のSPM時間変化を見る限りSPM流動にもメソ構造が存在すると考えられる.黄砂塊の存在は独立行政法人情報通信研究機構[15]が発表している.

4 黄砂の可視化

(本論文の定義の)SPMのうちで最も視認性の良い黄砂を画像化する.黄砂現象が予測され,青色が減じている空を撮影する.
画像ファイルを得る手段は冷却CCDカメラからCMOS webカメラまで多種多様である.その中で画素数,画素のビット数,電源の可搬性,画像処理ソフトウェアの完備を考慮するとデジタル一眼レフカメラが最適と思われる.我々が使用したカメラはPentax *istDS2とK100D super,撮影レンズはDA 21mmF3.2, FA 50mm F1.4である.RAWファイルのビット数は12である.しかし,RAWファイルは直接自作ソフトウェアからアクセスできない(ファイル形式の詳細が公表されていない).我々は各社から提供されているRAW現像ソフトウェア(たとえばPentax Photo Browser)を使用し,画像に様々な変換(ホワイトバランス,色温度設定,noise reduction,コントラスト強調,ヒストグラム調整)を行う.変換後一般的な画像フォーマット(TIFFなど)に変換する.最終的な画像のビット数は8であるが編集は12ビットで行う.
我々は空を撮影しRAW現像ソフトウェアでコントラスト強調処理を試みたがSPM可視化は十分できなかった.SPMはppbオーダの濃度であり,ほとんど透明である.またエアロゾルであるため輪郭は明瞭でなく径数十mm以上の粒子と違い虹のような色彩を伴う現象を起こさない.画像化は極めて困難である.映像としてはかすかな霧であるがSPMを可視化するために,我々は次のような条件下で処理した.
  1. 背景が均一である,
  2. 太陽光球の近傍である,
  3. SPMが水蒸気の豊富な大気中に進入してきたとき.
カメラ側では,
  1. 長波長の画像成分を抽出する,
  2. 受光素子の熱雑音を極小化する.
現実には撮影時に条件1), 2)を満たすようにカメラの角度を定め,条件3)を満たすように海に向かって風が吹いているときの空を狙う.カメラの撮影情報設定時に感度最低に設定する(条件5)).条件4)は画像処理の段階でR成分を抽出した.条件2)を満たすように日中の南方向の人工的SPM排出源がない地帯を撮影するようにした.
撮影のタイミングは,カメラのファインダーではSPMを確認できないので時間間隔を定め約5000枚の空を撮影した.以上のようにして得た画像の一例をFigure 4示す.


Figure 4. A monochrome picture of SPM in the sky of Kaeda-hill in Miyazaki, at 2007/3/28, 11:24 [JST].

Figure 4はRAW現像ソフトウェアでコントラスト強調処理が施されている.その上にモノクローム化時にRGB成分をZ=(B+2G+R)/4とし,このZ(16ビット)をRGB成分に代入し8ビットとした.その操作は受光素子の熱雑音を減じかつB成分の寄与が減るため解像度とコントラストが向上する.一般のレンズはB領域の収差補正がG領域に比べて悪いので上記の効果が現れる.したがって眼視よりもSPMの存在は明らかである.しかしまだ明瞭ではない.より明瞭な画像を得るため,我々は次のようにピクセル(pixel)値を変換した.
1) RAW現像ソフトの出力画像をTIF 8ビット形式とし,ファイル・コンバータでRGB形式に変換しFortranプログラムでbinary形式でopenし,書式なしREAD文で読みRGB 3成分からR成分を抽出した.
2) ピクセルのR成分値を{Xi}と書くと,

である.画像のどの部分に写っているか分からないSPMを強調するために,画面の至る所コントラスト強調処理を施す.すなわち,

とする.ここでnは経験的に決定する定数である.有効数字は目的の画像の調子により変化する.当然撮影機材によっても変わる.我々の経験ではn=1.2~1.6が適切であった.XinではなくaXi(aは定数)でも良いがデジタルカメラの高輝度部は実照度に比べ輝度値の増加が抑制されているのでコントラスト強調効果は低下する.
3) 式(3,4)により画像の規格化を行い,{ Yi' }をファイルに出力する.

この規格化は式(2)より不要に思われるかも知れないが,右辺のXiの値によっては[Ymin, Ymax]が[0, 255]にならない場合がありうる.僅かな確率で,効果も画素値の範囲を小拡大するだけであるが悪影響はないので使用した.
Figure 4のR成分をn=1.51で画像化したものをFigure 5に示す.


Figure 5. A modification picture of the R-image of Figure 4, when the modify parameter is n=1.51.

式(2)による画像強調処理は有効に作用し黄砂は低空の霧のように明確になった.丘陵を越えて流入してきた黄砂は不定形で高濃度の中心部と周辺部からなる.その分布はFigure 2のGaussian分布と矛盾しないが,さらに詳細な構造があるように見える.
希薄な周辺部では小さな雲(矢印)の生成が見られた.雲は5分で消滅した(雲の詳細は付録参照).雲生成はその付近の大気が湿潤であることを示すが,湿潤な大気もまたSPMと一緒に流動している.雲が生成した理由は湿潤なSPMを含む大気が丘陵地帯を通過する際,地形により上空に押し出され冷却されたことを示す.雲の位置は丘陵地帯の稜線にあると考えられる.
Figure 5の画角は横58.5度,縦41.0度である.丘陵は国土地理院1/25000地形図「日向青島」のくん鉢山(標高500m)の東尾根で標高178~388mである.尾根の中央部(標高260m)までの撮影点宮崎大学工学部E棟7Fからの距離は2.5kmである.Figure 5の中央下部の小さな雲の高度は仰角(7.62度)から計算すると590mである.Figure 1のピークAのSPMが低空の霧であったことと対応しているように思う.
式(2)の剰余関数によりpixel値255を超える高輝度部はいったん0に戻る.それゆえ画面に白黒の不連続曲線が描かれる.そのような曲線は一般写真では有害であるがSPMの分布を知るためには有用である.曲線が滑らかであるときSPMは均一分布である.曲線が急激に曲がり波打っているときは特徴的なSPM分布がある.Figure 5の丘陵部に近い空では曲線が波打っている.そこでは画像では明確ではないがSPMが存在する.
同日の黄砂は西風により宮崎平野に流入し日向灘に抜けた.黄砂の背面をFigure 6に示す.


Figure 6. The yellow sand (A) and the accompaniment haze (B) on the Huge-nada (Pacific Ocean near Miyazaki prefecture), at 2007/3/28, 15:18. The image is trimmed; whose angle of view is 42.05×25.73 [deg].

Figure 6では撮影点(宮崎大学工学部E棟7F)から東方向を撮影した.海岸線まで3.6kmである.宮崎市衛生環境研究所に設置されている環境省大気汚染物質広域監視システム[16]のSPM観測値は13[mg/m3]であった(撮影点で黄砂が通過したことを示す).
黄砂本体(A)は水平線の上0.817度にある.黄砂までの距離を宮崎地方気象台15時の視程20km[17]とすると高さは290mである.随伴ヘイズ(B)極大部の高度は1.3kmである.式(2)のnは1.354である.その値は黄砂本体とヘイズの極大部の形状を明確にするためにパラメータとして最適化した.両者の極大中心部は一致していない.黄砂の二層化がかなり前に起こり,高度により大気の流れが異なっていたことが分かる.
画像の極大部の判定にはレンズの周辺光量の考察が必要である.撮影レンズ(f=21mm)のF9.5の時の光量はFigure 7であった.Figure 7の縦灰色線の間がFigure 5の画角である.中央部と周辺部の最大光量差は-3%である.充分な精度がある.
2007/3/28, 15:20青島アメダス[9]は南南東の風2[m]を記録している.図では右から左へ風が吹いている.上空ほど風が強いとするとヘイズの濃度極大部が本体に比べ左側にズレているのは妥当である.
Figure 5は海に沈む黄砂の終末の状況を表している.


Figure 7. The change of the brightness for retro-focus type wide lens, f=21mm F=9.5. Curve A: observations, B: optimized cos-4 lines, C: theoretical cos-4 lines for non retro-focus type wide lenses.

5 大気流動の可視化

黄砂以外に可視化できるSPMは焚火や花火の煙,霞,霧,海塩粒の対流状況である.霞の可視化は黄砂に較べて格段に難しい.可視化されたSPMは同時に大気の流動を間接的に示す.
一例として鹿児島,宮崎の県境の丘陵付近の霞により明らかになった大気中の平面波をFigure 8に示す.n=1.3,画角は縦(20.4度)×横(13.7度)である.3つの黒い円弧状の縞から太陽光球はFigure 8の左端下方向である.この縞は地図で言えば等高線である.その傾斜面に横縞の小さい振幅の波が存在する.さらに画面最上部の横縞の線が波打っていることから,海岸に打ち寄せる横波の波頭がまちまちになっているような状況を類推する.
2008/2/20, 18:00宮崎気象台の観測は東風1.2[m],快晴,視程は40[km]である.18:00宮崎市衛生環境研究所に設置されている環境省大気汚染物質広域監視システムのSPM観測値は15[mg/m3]である.これらの値から静かな夕空を予想するが,大気の流動はFigure 8が示すように複雑である.


Figure 8. Atmospheric plane wave detected by the mist on the boundary hills between Kagoshima and Miyazaki prefectures, at 2008/2/20, 17:59 [JST].

次に日向灘上空の海塩粒子(推測)を核としたヘイズ(霞より高濃度なので以下ヘイズという)と大気の流れをFigure 9に示す.
本図の画像作成式は式(2)の代わりに式(5)~(7)を使用した.

代替式は境界が黄砂より明確でない空中に拡散したSPMに対して効果的である.式(5)~(7)は式(2)よりも濃淡の緩やかな(白黒が交替の)境界線を生成する.
ヘイズは空中に拡散しているので,立体的な構造を見るにはRGB三成分を使用し,光の透過性の相違を利用する.Figure 9はパラメータa=16で計算したヘイズのRGB3画像である.画角は縦(20.4度)×横(13.7度)である.太陽光球はFigure 9の各画像右端上方向である.
2008/2/27, 8:40の青島アメダスの記録は北西の風6[m/s]快晴である.9:00宮崎気象台の観測の視程は30[km],9:00宮崎市衛生環境研究所に設置されている環境省大気汚染物質広域監視システムのSPM観測値は9[mg/m3]である.快晴で視程も良いが太陽方向の空は高濃度のヘイズであった.


Figure 9. The atmosphere mixing of convections on the sea and three flows in the sky, which are detected by the mist on Huga-nada, at 2008/2/27, 8:37 [JST].

Figure 9の撮影点(東経131.415153度,北緯31.828148度)から画像右下のビル(東経131.461152度,北緯31.806148度)まで5.0km方位角139度(南西方向)である.B画像で海面が明瞭であるので視程30kmは妥当である.
R画像のL1層に注目する.この層はG, B画像に無い.R画像は長波長光の映像なので遠方の光景まで記録される.従ってL1層は陸地から遠い海上にある層である.高知大学気象情報ページの同時刻の衛星(ひまわり6号)可視画像[18]には宮崎沖太平洋上には北西の風に沿った筋状の雲列が見られる.その雲列と直角に横縞模様の山岳波状雲が存在する.L1層はその雲と考えられる.
L2層に注目する.L2層はR>G>B画像の順に明瞭である.L3層はB>G>R層の順に明瞭である.従って下の層ほど遠方にある.
陸上の風向は北西である.画面手前から奥に向かって吹いている.L2, L3層間の縞の傾きを直線で図中に記入した.傾きはRGB画像で異なる.この傾きを説明するには上空の風は北西より北向きでなければならない.衛星可視画像に該当する雲はないが,水蒸気画像では北北西と西方からの二種類の水蒸気の流れが存在する[18].従ってRGB画像間の傾きの相違は妥当である.以上,L2~L3層間の大気層は奥行きがある.
B部分に注目する.R画像で顕著でB画像では明瞭ではない.ゆえに海上の大気構造である.しかし受光素子前面のマイクロレンズの影響を考えると,画面通りの球状構造かどうかは分からない.この相違は陸風(B画像のB部分の境界を淡くしている上昇気流)と海風の相違を示していると考えている.
以上ヘイズの可視化から大気の流動について情報を得ることができる.

6 まとめ

調査した現象は黄砂とヘイズである.それらは大気中のエアロゾルが原因である.エアロゾル粒子はSPMと呼ばれ起源は様々である.SPMは大気の流れに伴い移動し,公害物質や微生物を表面に付着させる.黄砂は化学反応の場という説には説得力がある.我々はSPM分布を可視化する意味があると思う.
我々はSPM濃度分布にメソ構造が存在すること,その構造が黄砂現象と大気境界面で違うことを示した.そのメソ構造を詳しく調べるため,画像化を試み,デジタル一眼レフカメラを用いた可視化方式を考案した.
SPM可視化法で明らかになった黄砂現象の特徴は,
  1. 黄砂分布形状は不定形で高濃度の中心部と周辺部がある.雲の生成を伴うことがあること,
  2. 随伴雲の位置から黄砂の上限高度は約600mであること,
  3. 海に沈降する黄砂は本体とヘイズ部の二層構造を成していること,
であった.同法をヘイズに適用して明らかになった点は,
  1. 大気の中の微細な流れをSPM散乱光は明らかにし,SPM粒子は大気流動の検出トレーサになること,
  2. SPM粒子散乱光のRGB分解画像から大気の立体構造が定性的に分かること,
である.
提示したSPM可視化法は有用と考える.考案したSPM可視化法は誰にでも簡単に大気中のSPM分布を画像化できるところが特徴である.また従来法では難しかった(費用が掛かった)黄砂,ヘイズの動態と部分構造を明らかにできる.環境科学へ応用可能な方法である.

本研究は財団法人鉄鋼業環境保全技術開発基金環境研究助成金(代表者:中山榮子)により成された. 本研究の一部は,地球環境研究総合推進費H19地球環境研究革新型研究課題浮遊粒子状物質(SPM)および大気汚染物質の脳型多変量解析技法の開発(FY2007−FY2008)代表:神部順子の補助を受けている。

参考文献

[ 1] 河村公隆,野崎義行, 大気・水圏の地球化学, 倍風館, 東京 (2005), p. 74, ISBN4-563-04906-9.
[ 2] 環境省,地球環境・国際環境協力,黄砂,
http://www.env.go.jp/earth/dss/
[ 3] 成瀬敏郎, 世界の黄砂・風成塵, 築地書館, 東京 (2007), ISBN978-4-8067-1352-4.
[ 4] 岩坂泰信, 黄砂−その謎を追う, 紀伊国屋書店, 東京 (2006), pp. 189-193, p. 223, ISBN9784314010023.
[ 5] 岩坂泰信, 黄砂は何を運んでくるのか, 科学, 78, 729-735 (2007).
[ 6] 水野量, 雲と雨の気象学, 朝倉書店, 東京 (2000), p. 53, ISBN4-254-16703-2.
[ 7] Dockery, D. W., Pope III, C. A., Spengler, J. D., Ware, J. H., Fay, M. E., Ferris Jr., B. G., and Speizer, F. E., An association between air pollution and mortality in six U.S. cities, The New England Journal of Medicine, 329, 1753-1759 (1993).
[ 8] Pope III, C. A., Thun, M. J., Namboodiri, M. M., Dockery, D. W., Evans, J. S., Speizer, F. E., and Health Jr., C. W., Particulate air pollution as a predictor of mortality in a prospective study of U.S. adults, American Journal of Critical Care Medicine, 151, 669-674 (1995).
[ 9] 香川順, 米国の粒子状物質に係る環境基準の改定提案の概要−PM2.5のより厳しい基準値と新しいPM10-2.5の基準値の設定提案−, 大気環境学会誌, 41, A55-A68 (2006).
[10] 工藤翔二「生活環境中の汚染物質の健康影響に関する研究成果集(PDF),環境再生保全機構ホームページ, (2004).
http://www.erca.go.jp/asthma2/library/investigate/4/3_3.html.topics/2004/tp040312.html
[11] 西川雅高ほか, 大気エアロゾルの計測手法とその環境影響評価手法に関する研究, 国立環境研究所特別研究報告, SR-43-2001 (2001).
[12] 韓国農村振興庁,The Korea farm village promotion agency News,
http://www.janjan.jp/world/0303282474/1.php
[13] Nobuo Sugimoto, Atsushi Shimizu, Lidar Cover,
http://www-lidar.nies.go.jp/
[14] 長谷川隆司,上田文夫,柿本太三, 気象衛星画像の見方と使い方, オーム社, 東京 (2006), p. 3 , ISBN4-274-20212-7.
[15] 田中栄一,独立行政法人情報通信研究機構 報道発表:東京上空に飛来した黄砂の流れ可視化に成功-都市部上空気流の立体観測実現に向けて-2007.4.17.
http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/h19/070417/070417.html#zu1
[16] 環境省大気汚染物質広域監視システム(そらまめ;Atmospheric Environmental Regional Observation System: AEROS),
http://soramame.taiki.go.jp/Index.php
本システムは大気汚染状況の実況である.
[17] 気象庁,気象統計情報,
http://www.jma.go.jp/jma/menu/report.html
[18] 高知大学気象情報ページ,
可視画像
http://weather.is.kochi-u.ac.jp/sat/JPN/
水蒸気画像 http://weather.is.kochi-u.ac.jp/sat/gms.fe-wv/

付録 SPMと雲

雲の生成については微物理分野で研究され教科書的な本も出版されている[6].そこに記載されているのは過飽和の水蒸気が凝結核により水滴になり,それが大きくなる過程である.
本論文の黄砂が雲を生じる過程は,高濃度のSPMが粒子周辺の水蒸気を吸着し,表面が水に被われ,反射率が高くなり雲として一時的に視認された現象である.ゆえに短時間(数分以内)で消滅する.
雲形は不定で雲底,頂相当するものは1分間も安定して存在しない.高濃度SPMが過飽和大気中で一時的に生成する雲は(最近)頻繁に見出せる.Figure A1はその例である.SPMはヘイズ中の海塩粒子である.画角は26.6度×18.0度である.本図は式(5)~(7),パラメータa=9.0による画像強調処理が施されている.矢印の小さな部分が雲である.雲は2分で消滅した.周辺の雲のように見える大きい部分はヘイズである.ヘイズ中の複雑なSPM濃度分布が明らかである.


Figure A1. A1 Tentative clouds are grown from the high density SPM and the super-saturated atmosphere.The image is from the west supper sky at Miyazaki University, when the time is 2008/10/16, 11:25 [JST]. The camera is Nikon D40x (IR-enhanced), f=50mm. The sensitive region is 750-1000nm.


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