演 題 C60クラスターのケクレ構造の数と Pauling-bond-orderについて
発表者
(所属)
○成田 進、森川 鐵朗*、渋谷 泰一 (信州大学繊維学部、*上越教育大学自然系)
連絡先 〒386-8567 長野県上田市常田3-15-1 信州大学繊維学部素材開発化学科
TEL:0268-21-5397
E-mail:
キーワード Fullerene, Pauling bond order, Kekule; structure counting, C60 polymer
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
 C60クラスターやポリマーのケクレ構 造数え上げのプログラムを作り、ポーリングのボンドオーダーを求める。
環 境 適応機種名 マッキントッシュ
O S 名 マックOS 8.5以上
ソース言語 Fotran 77
周辺機器  
流通形態
  • 化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス,出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他:未定
具体的方法

 

1.序
 近年、フラーレンC60のダイマーやポリマー[1-3]が合成され、その多 様な結合形態が注目されている。C60のダイマーについていえば化学結合 2本で連結されたダンベル型の(C60)2、結合1本で連結された (C60)22-などの存在が確認されている。またポ リマーについても、1次元ポリマーや2次元ポリマー(4角格子状、3角格子状)など が実在し、結晶の格子定数などが実験により求められている[4]し、3次元ポリマーに ついてもその存在が示唆されている。このようにC60は他のフラーレンと は異なり、多種多様な結合状態や性質を示すことが知られている。C60は π共役性の高い分子であると考えられており、ダイマーやクラスターについても同様 の高いπ共役性が期待できる。そこでこれらの分子について、π結合性を表す Pauling-bond-orderを求めることが出来れば、物性 の解明や予測の一助となるのは明らかである。
 我々は、昨年発表したフラーレ ンの部分構造におけるケクレ構造数え上げのアルゴリズム[5]を発展させ、C60のダイマーやクラスタ ー、ポリマーのPauling-bond-orderを求めるプログラムの作成を試みた。基本的な前提として(1)C60間の連結は2本の辺でなされている、(2)どの炭素も、3個の隣接炭素と辺で結ばれている、という条件をおいた。

2.計算手順
 C60のクラスターやポリマーにおいて、「C60を一つのサイトと見なし、各 サイトを連結しているボンドが2個ある」というモデルを立てる。このモデルでは各連結ボンドの取りうる状態は、(D,D),(S,D),(D,S),(S,S)の4つある。ここでDは2重結 合を、Sは1重結合を示している。各サイトを連結しているボンドの状態が決まれば自動的にサイトの状態(C60から取り除かれるべき原子の数とその番号、及び取り除かれるべきボンドの数とその名前)も決定されることに注意する。各サイトを連結しているボンドの状態は「端のある、なし」(クラスターとポリマーの違い)で大きく変化する。例えば1次元ポリマーでは連結ボンドの取りうる状態は4つ存在するが、1次元クラスターでは(D,D), (S,S)の2つしかない。

計算の手順は以下のようになる。

〔1〕C60クラスターやポリマー中のC60を一つのサイトと見なしサイトの数、ボンドの数を入力し、各ボンドが連結しているサイトの番号、サイト内の位置の名前をボンドの数だけ入力する。各連結ボンドの取りうる状態とその総数を求 めbndstoutという名前を付けたファイルに格納する。

〔2〕bndstoutを基にして諸サイトの状態を求めファイル(siteout)に格 納する。諸サイトの状態は重複するものが多数発生するので、それらを整理し、別のファイル(cntanlz)に格納しておく。

〔3〕cntanlzを基にして各サイト状態ごとに、ケクレ構造の数、及びC60内の各ボンドを取り除いたときのケクレ構造の数を計算し、C60のケクレ構造の数12500で割った数値をファイル(elm.kekule)に格納する。C60クラスターやポリマーのケク レ構造の数は膨大な大きさになるのでC60のケクレ構造数を単位とする規 格化をする。

〔4〕siteout、elm.kekuleを入力データとして、C60クラスターやポリマーのケクレ構造の数を求める。siteoutから諸サイトの状態を読み出し、elm.kekuleからそのサイト状態に対応するケクレ構造の数を求め、それらの数の積を求める。これが連 結ボンドの取りうる状態1個に対するケクレ構造の数に対応する。連結ボンドの取りうる状態全てに対してこの操作を行い、和を求める。この和がC60クラスターやポリマーのケクレ構造の総数となる。クラスターやポリマー内の特定のボンドに着目したケクレ構造の数も全く同様の操作で求めることができる。Pauling-bond-orderは このケクレ構造の数をケクレ構造の総数で割ったものとして求められる。

3.参考文献
  1. P. C. Eklund an A. M. Rao, FullerenPolymers and Fullerene Polymer Composites, Springer-Verlag, New York,1999.
  2. G.Oszlanyi et al,Physical Review B,1995,51,12228.
  3. Peter W. Stephenes et al,Nature,1994,370,636.
  4. M. Nunez-Regueiro et al,Physical Review Letters,1995,74,278.
  5. 成田、森川、渋谷、化学ソフトウェア学会1999年会.

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