演 題 固溶体結晶のXRDシミュレーション
発表者
(所属)
○内堀可奈子, 梅下友則, 野口文雄, 小林秀彦(埼玉大学工学部)
連絡先 〒338-8570 埼玉県浦和市下大久保255
TEL/FAX 048-858-3536
E-mail
キーワード Powder X-ray diffraction,solid solution 
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
 粉末法XRD(X-ray Diffraction)は無機結晶の同定手段としては欠かせないものである.また,新規な無機材料開発には固溶体である複合酸化物を扱う機会が多い.そこで, 同一サイトを複数の原子が占める無機結晶にも対応できるXRDパターンシミュレーションのPCソフトウェアを開発した.
環 境 適応機種名 PC98シリーズ,DOS/V
O S 名 Windows95/98/NT
ソース言語 Inprise社Borland C++ Builder5
周辺機器  
流通形態
  • 化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス,出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他:未定
具体的方法

 

1.はじめに
 XRDパターンによる粉末結晶の同定では,JCPDSカードが多用されているが, 最新の論文の結晶構造解析データがJCPDSカードに登録される際のタイムラグの問題がある.結晶構造データから,理論回折図形を手計算や表計算ソフトウェアにより求めることもできるが,単純な立方晶でさえ膨大な計算を要求され,対称性の低い結晶系あるいは単格子中の原子数が多くなると,手計算・表計算は極めて困難になる.
 今回は,開発済みのXRDシミュレーションソフトウェアに改良を加え,無機結晶DB(ICSD:Inorganic Crystal Structure Database)のCIF(Crystallographic Information File)ファイルを直接読み込み,固溶体の各サイトの占有率を反映させた粉末法理論回折図形を出力するソフトウェアを開発した.なお,本ソフトウェアは結晶構造解析データを直接入力して,回折図形を出力できる仕様にもなっている.

2.プログラムの概要
2.1 回折図形描画のアルゴリズム
 CIFファイルより格子定数,原子座標パラメータを読み込み,自作の空間群DBにより原子座標を展開し,Braggの回折条件式から各回折ピーク位置(回折角)を求め,次式より各ピークの回折強度を計算させ,結晶子の厚さを反映させたガウス関数を用いて回折図形を出力させた.
F:構造因子, p:多重度, I:相対積分強度, θ:Bragg角
fj:j番目の原子の原子散乱因子, (xj,yj,zj):j番目の原子の原子座標

従来の自作原子散乱因子DBにイオン散乱因子のデータを新たに追加し,固溶体結晶の各元素の占有率を認識させたイオンもしくは原子散乱因子の計算を行った.散乱因子には加成性があるので,固溶体の原子散乱因子を次式で算出した.

f:原子散乱因子 A,B:占有率

回折角,面間隔,強度比,反射指数などの数値情報を記載したテキストファイルも出力できるため,ユーザーは実測データとの詳細な照合を行える.

2・2 出力結果の検証および散乱因子の影響
 プログラムバグの有無を検証するため,一部の結晶について行った手計算の結果と比較したところ,良好な一致をみた. 占有率反映の有無による結果の違いを確認するため,Fig.1にChamosite(シャモス石)の回折図形を示す.

占有率認識         占有率無視
Fig.1 占有率反映の有無によるXRD回折図形の相違
(Mg1.5Fe7.9Al2.6) (Si6.2Al1.8O20) (O H)16)

 固溶体のサイト占有率を反映させない計算と反映させた計算では,メインピークの逆転などが起こる場合も見られ,回折ピークの相対積分強度が大幅に異なることが分かった.これらの結果により,固溶体結晶の場合,占有率を考慮した原子散乱因子の計算を行い,回折パターンを出力することが重要である.


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