演 題 茶カテキン類の電子状態
発表者
(所属)
田村克浩・松本高利・長嶋雲兵 (静岡工技セ・物質研・融合研)
連絡先 〒305-8562 茨城県つくば市東1-1-4 産業技術融合領域研究所
TEL:0298-61-3044, FAX:0298-61-3046 
E-mail:
キーワード 電子状態、茶カテキン
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
 
環 境 適応機種名  
O S 名  
ソース言語  
周辺機器  
流通形態
  • 化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス,出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他:未定
具体的方法

 

1.はじめに
 近年の住宅の高気密化にともない、家具や建材から放出されるホルムアルデヒドなどのVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)によるシックハウス症候群が問題になっている。 高垣ら[1]は、緑茶から抽出したカテキンのホルムアルデヒド捕捉能力が非常に高いこと、また緑茶カテキンの中でもC-3位にガレート基を持つ(−)−エピカテキンガレート((-)-ECg)および(−)−エピガロカテキンガレート((-)-EGCg)がホルムアルデヒドとのC-6位またはC-8位における求電子置換反応の高い反応性を持つことを見いだした。これらの緑茶カテキンの高い捕捉能力はフロログルシノール様の環構造持ち、カテキン骨格のC-3位にガレート基を持つ化学物質に共通する性質であるが、この反応性について分子軌道法を用いた理論的な検討は行われていない。本研究では、ガレート基の有無によりホルムアルデヒドとの反応性が大きく異なる5種類のカテキン類((+)−カテキン((+)-C)、(−)−エピカテキン((-)-EC)、(-)-ECg、(−)−エピガロカテキン((-)-EGC)および(-)-EGCg)のC-6位またはC-8位での求電子置換反応の反応性を理論的に明らかにするために、半経験的分子軌道計算を行い、それらの波動関数を解析した。

2.計算方法
 計算した茶カテキンの構造式は、Figure2示した。半経験的分子軌道計算はMOPAC97を用い、パーソナルコンピュータPanasonic CF-M1ER(PentiumIII 500MHz)をもちいて計算を行った。なお、パラメータセットにはAM1を用いて行った。分子構造はすべて最適化した。

3.考察と課題
 よく知られている福井のフロンティア軌道理論[6]によれば、茶カテキンとホルムアルデヒドの求電子置換反応は、茶カテキンのHOMOとホルムアルデヒドのLOMOとの相互作用が重要である。茶カテキンのC-6位またはC-8位における求電子置換反応では、茶カテキンのHOMOが不安定化し(軌道エネルギーの増大)、HOMOに属する電子のC-6またはC-8における存在確率が(HOMOの振幅)が大きくなることにより、反応性が増大する。
 また、ガレート基を導入した(-)-ECgおよび(-)-EGCgは他の茶カテキンと比べHOMOのエネルギーはほとんど変わらず、LUMOのエネルギーが低くなっている。また、ガレート基を持つ(-)-ECgおよび(-)-EGCgではC-6位、およびC-8位の炭素にHOMO軌道が分布している。これはC-6位およびC-8位の炭素上でHOMOに属する電子の存在確率が大きくなり、C-6位, C-8位での求電子置換反応が他の茶カテキンに比べ直接的に起こりやすいことを示唆している。
 C-3位へのガレート基の導入によって、茶カテキンのHOMOのC-6位とC-8位への局在化が進み、反応性が高くなることが判った。茶カテキンの反応性を高めるためには、反応部位であるC-6位とC-8位での振幅を増大させる大きなπ系を持つ官能基が有効であることが示唆された。また、茶カテキンのC-8位およびC-6位がB環およびガレート基等の他の部位と比較して優先的に求電子置換されるのは、分子上の負電荷が大きいためであると考えられる。

4.参考文献
  1. A. Takagaki, K. Fukai, F. Nanjo and Y. Hara, J. Wood Sci., in press,2000.
  2. M. Fechtal, B. Riedl and L.Calve,Holzforschung,1993,47,419.
  3. P. Kaitgrajai, J. D. Wellons, L. Gollob and J. D. White,J.Org.Chem.,1982,47, 2913.
  4. 高垣,深井,南條,原,渡邊,櫻川,木材学会誌,2000,46, 231.
  5. 中西,黒野,中平訳,モリソンボイド有機化学 (下) 第4版, 東京化学同人,p1246.

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