演題 ニューラルネットワークによるスペクトルパターン認識(第59報)
近赤外スペクトルによるプラスチック廃棄物分別システムの開発
発表者
(所属)
(物質研)○田辺和俊 (富士通)上坂博亨 (東亜電波工業)相川克明・天野敏男
連絡先 〒305 つくば市東1−1 物質工学工業技術研究所
電話 0298−54−4522 FAX 0298−54−4487
キーワード キーワード・ニューラルネットワーク・プラスチック廃棄物分別・近赤外スペクトル 
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
ニューラルネットワークにより近赤外スペクトルからプラスチック廃棄物を分 するシステム
環境 適応機種名 富士通FMR   
OS 名 MS−DOS   
ソース言語 C   
周辺機器 ニューラルネットワークシミュレータNEUROSIM/L   
流通形態
右のいずれ
かに○をつけ
てください)
  • 化学ソフトウェア学会の
    無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス、出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他
  • ○未定
具体的方法

1.はじめに

 年間に数百万トンも発生するプラスチック廃棄物の処理は資源のリサイクルおよび環境汚染防止の観点から重要であり、特に身近な問題として廃棄プラスチックボトルのリサイクルに対する関心が高まってきているが、その有効性と経済性を高めるためには廃棄プラスチックボトルを各樹脂に分別することが必要である。しかし、これまでの分別方法では比重差のないプラスチックの分別は不可能であった。したがって、プラスチックボトルの材料である樹脂を対象とした自動分別装置を実現することができれば廃棄プラスチックボトルのリサイクルの推進に大きく貢献することができると考えられる。
 我々はこれまでの一連の研究からニューラルネットワークをスペクトルのパターン認識に適用すると、最大の利点として処理時間が極めて短縮できることを見いだした。本研究ではこの利点を生かして、ニューラルネットワークを応用したPETボトルなどのプラスチック廃棄物の分別処理を検討した。

2.方法

2.1 学習データ

 ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの汎用プラスチック樹脂について近赤外領域の反射スペクトルを測定し、反射率のデータをニューラルネットワークに入力した。その際、データ処理操作としてスペクトルデータの2次微分を計算し、さらにそれを強度で規格化したものを入力した。

2.2 ニューラルネットワーク

 本研究で用いたニューラルネットワークシミュレータは富士通のNEUROSIM/Lであり、これをニューロボード付き富士通FMR70HD上で稼働した。このNEUROSIM/Lは階層型ニューラルネットワークであり、3層パーセプトロンモデルが採用され、学習にはエラーバックプロパゲーション方式が用いられている。今回用いたニューラルネットワークは3層構造のパーセプトロンモデルであり、ユニット構成は入力層250、中間層100、出力層は識別すべきプラス チックの数とした。

2.3 学習とテスト

 各プラスチックについてそれぞれメーカーなどの違いによる数種のスペクトルを用いてニューラルネットワークの学習を行った。その後、学習に用いない未知スペクトルを学習済みのネットワークに通してテストを行い、的中率を計算した。

3.結果

 9種類の試料を用いてテストを行った結果を表1に示す。下線は出力値最大のユニットであり、そのユニットに対応するプラスチックであると判定される。したがって、試料1はPE、試料6と7はPET、試料2、3、5と9はPS、試料4と8はPVCという結果が得られたことになるが、この結果はこれらのテスト試料の正体と完全に一致していることが分かった。

表1 テスト結果                  
試料番号ニューラルネットワークの出力値
PE PET PP PS PVC
0.75 0.00 0.11 0.01 0.02
0.02 0.00 0.03 0.59 0.06
0.02 0.01 0.17 0.42 0.00
0.07 0.02 0.00 0.01 0.94
0.01 0.00 0.03 0.57 0.08
0.00 0.98 0.00 0.02 0.01
0.01 0.99 0.00 0.11 0.00
0.12 0.00 0.07 0.00 0.75
0.00 0.01 0.00 0.99 0.01

4.結論

 以上の結果より、いずれのプラスチックについても100%の的中率が得られたが、プラスチックの種類がさらに増えてもほぼ100%の的中率が期待される。また、判定の処理時間についてもパソコンでも100ミリ秒以内ときわめて短い。以上のことから、ニューラルネットワークを利用した近赤外スペクトルからのプラスチック判別処理技術を採用した廃棄物分別処理システムが実用化できるものと結論される。