演題 New-γ を用いた縮合多環芳香族炭化水素の PPP 計算 (6)
発表者
(所属)
○蛭田公広,時田澄男,大黒義裕(埼玉大工)
 西本吉助(基礎化学研究所)
連絡先 〒338 浦和市下大久保 255 埼玉大学工学部応用化学科
    TEL 048-858-3516 FAX 048-855-2889
キーワード PPP 分子軌道法 Spectrochemical Softness 分子設計
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
半経験的 PPP 分子軌道法のパソコン用プログラム [PPP-PC] に,新しい二中心電子反発積分 [new-γ のパラメータを加え,大きな共役π系を有する有機化合物の吸収波長を,より正確に計算できるようにした.
環境 適応機種名 PC-9801 VX 以上   
OS 名 MS-DOS   
ソース言語 FORTRAN   
周辺機器   
流通形態
右のいずれ
かに○をつけ
てください)
  • 化学ソフトウェア学会の
    無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス、出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他
  • ○未定
具体的方法

1.はじめに

 半経験的 PPP 分子軌道 (MO) 法は,原則的には平面 π共役系のみを対象としているためパソコンで計算が容易に実行できる.この方法は,今日でも有機色素の吸収スペクトルの計算に広く用いられているが,しかし,計算対象化合物のπ共役系の拡張とともに,吸収波長の予測値が実測値より短波長側にずれてくる場合がしばしばある.このことは,新しい二中心電子反発積分 new-γ[γrs = e2 / (Rrs + kars),ただし,e2 = 14.317 eV%Å,Rrsr 番目と s 番目の原子の間の距離,ars = 2e2 / (Ir - As + Is - Ar),IA はそれぞれ原子価状態のイオン化ポテンシャルと原子価状態の電子親和力を表わす] を用いることによって改善できる.著者らは,基本的な有機化合物である縮合多環芳香族炭化水素 (PAHs) の p-吸収帯の計算に適する new-γの spectrochemical softness パラメータ k が,種々の方法で合理的に見積もれることを報告してきた1-3).今回は,new-γを含む高精度 PPP 分子軌道法を利用した,長波長領域に吸収を有する PAHs の分子設計について報告する.

2.方法および結果

 PPP MO 計算は,パソコン用プログラム PPP-PC の new-γ対応版を用いて,variableβ,variableγ法で実施した.パラメータは, PPP-PC にプリセットされているものをそのまま

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 化合物	   n の範囲   a(傾き)  b(切片)
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  1      0〜9     92.4	    193.8
  2      1〜8     92.6	    254.2
  3      1〜8     94.1	    136.0
  4      1〜7     87.6	    234.1
  5      1〜7     80.5	    341.9
  6      2〜6     82.0	    294.0
  7      2〜6     87.4	    239.4
  8      2〜6     83.1	    303.4
    9    2〜6     84.0	    272.0
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使用し,CI 計算は,25個の一電子励起配置を考慮した.
 PAHs の p-吸収帯は,構造式中に太線で示した特定の部分構造 spectroactive portion (SP) の影響を強く受ける.著者らは,SP 中の六員環の数 l から new-γ中のパラメータ k を見積もる回帰式 [k = 0.33 l + 0.48] をコンピュータ実験により算出し,その k 値を含む new-γを用いた PPP 法で 112種の PAHs の p-吸収帯の吸収波長を計算した3)
 PAHs には,acene 類 (1) のように SP の増大に伴って p-吸収帯の吸収波長がほぼ一次の関係で長波長シフトする系列があり,new-γを用いた計算値は,そのような実験値をよく再現する3).そこで,同様な関係が他の系列でも成立することを確かめるため,未知化合物を含む acene ユニットが SP である PAHs (1-9) の p-吸収帯の吸収波長を new-γを用いて PPP 計算し,その結果を上表のように一次式[λcalc. = a%n + b]の関係で整理した.
 化合物 2-9 における初期の増環では,λと n の間に直線性はないが,増環が進むにつれて,六員環一個ごとにほぼ同じ幅の長波長シフトが生じるようになることが表中の a の値からわかる.すなわち,初期の増環は,末端骨格の影響によりπ共役系の拡張に十分に寄与しないものの,その後末端骨格と反対側の部分の増環が進むにつれてその影響が徐々に弱まり,acene (1) と同様のシフト幅を示すようになることが確認できた .以上のように,PAHs の吸収波長の計算においてSP を考慮することの妥当性が検証でき,PAHs の分子設計についての指針が得られた.

1. K. Hiruta, S. Tokita, K. Nishimoto, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2, 1995, 1443.
2. 蛭田, 時田, 木原, 西本, 化学ソフトウェア学会 '94研究討論会, 218, 苫小牧 (1994).
3. K. Hiruta, S. Tokita, K. Nishimoto, Dyes and Pigments, in press; ibid, in press.