演題 相転移における結晶構造の視覚化
発表者
(所属)
○野口文雄, 福地正行, 小林秀彦, 三浦 弘
(埼玉大学工学部)
連絡先 〒338 浦和市下大久保255
TEL/FAX 048-858-3536
E-mail
キーワード 相転移, 結晶構造, 格子変換
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
相転移における結晶構造の比較を容易にするため、格子変換 を行い、VRML(Virtual Reality Modeling Language)の半透明 色表示機能を利用して、相転移前後の結晶構造を重ね書きし、 結晶構造の変化を視覚化させるPCソフトウェアの開発
環境 適応機種名 PC98シリーズ、DOS/V
O S 名 Windows95,Windows98,WindowsNT
ソース言語 Borland C++, Borland C++ Builder
周辺機器 メインメモリ 32MBバイト以上推奨
流通形態
右のいずれ
かに○をつけ
てください)
  • 化学ソフトウェア学会の
    無償利用ソフトとする
  • 独自に配布する
  • ソフトハウス、出版社等から市販
  • ソフトの頒布は行わない
  • その他
  • ○未定
具体的方法


1 はじめに

 結晶には,ある温度を境にして相転移を起こし,結晶構造を変え多形を生ずるものがある。状態図から得られる情報では,結晶系の変化を知るにとどまり,結晶構造を調べて相転移前後の構造を単純に比較しても,結晶格子の種類や単位格子中の化学単位の数(Z)が異なる場合が多いため,一見するとあたかも大幅な構造変化があるような錯覚に陥り易い。相転移における結晶内の原子の移動が極端に大きなものとは考えずらいので,格子変換により相転移前後の構造を比較し易い形に結晶データを自動変換し,VRMLの半透明色の表示機能を利用して相転移前後の結晶構造を重ね書きして,結晶構造の変化を視覚化するPCソフトウェアを開発した。

2 プログラムの概要

 2.1 結晶データ

これまで,約3500件のWyckoffの結晶データをデータベース化して来たが,相転移の結晶構造を調査するには不十分であるため,GMELIN研究所が製作したICSD(Inorganic Crystal Structure Database)のCD-ROM版データベース(登録件数42,000)を用いた。自作ソフトウェアで用いる格子定数・原子座標ファイルをICSDから生成するプログラムをInprise社のコンパイラC++ Builderを用いて作成した。

 2.2 格子変換

本ソフトウェアでは,格子変換行列のユーザー入力により,変換後の結晶系の判定および新格子定数のデータファイルを生成する。また,格子変換行列の逆行列の転置行列を計算させ,旧原子座標から新原子座標を自動生成する座標変換機能を備えている。原子座標の変換では,単位格子に上下,左右,前後,斜めに隣接する計27個のセル内に旧原子座標を並進展開したのち,座標変換を行い,それらすべての座標を新単位格子内に並進させ,重複原子座標を削除する手法で,新原子座標データファイルを生成させた。

2.3 相転移における構造変化

 開発プログラムには汎用性があるが,ここではジルコニアの正方晶から単斜晶への相転移を例として述べる。ジルコニアは,1000℃で単斜晶から正方晶に相転移する。ICSDの結晶データを用いて両者の構造を単純比較したものを図1に示す。
fig1.gif

この場合,単位格子内の化学単位の数(Z)が異なるうえ,単斜晶ジルコニアのZr4+が格子点にないので,結晶構造の変化を把握できない。そこで,単斜晶ジルコニアのZr4+を格子点に平行移動し,正方晶ジルコニアに対してa1'=a1+a2,a2'=a1-a2,c'=cの格子変換を行ったところ,正方晶ジルコニアのZが4となり,相転移の結晶構造の変化はわずかなものであることが確認された(図2)。
fig2.gif

正方晶および単斜晶いずれのものも,Zr4+を取り囲むO2-の数は8で,O2-を取り巻くZr4+の数は4となった。正方晶ジルコニアも単斜晶ジルコニアのいずれのものも,カルシアを固溶させた立方晶ジルコニアが示す蛍石型の結晶構造に類似なものであることが,本ソフトウェアを利用することで簡単に視覚化された。

3 おわりに

開発したPCソフトウェアは,Webブラウザ上でマウスドラッグによる重ね書きされた結晶構造図の分離などの機能をもつため,相転移における結晶構造変化を視覚化できるが,各原子の変位量などの数値データを出力する機能はないので,今後その機能を持たせることで,相転移のみならず類似結晶構造の比較にも利用出来ると期待される。