演 題 金属錯体関連の双極子モーメントデータのパーソナルコンピュータによるデータベース化(続報)
発表者(所属)  ○山崎 昶、 川田知宏、牧野利洋、圓子祐司、松井 啓(電気通信大学)
連絡先 〒182-8585 調布市調布ヶ丘 1-5-1 電気通信大学電子物性工学科分子工学
キーワード 双極子モーメント、錯体化学、溶存状態、配位子、パーソナルコンピュータ
開発意図
適用分野
期待効果
特徴など
従来のままでは、他の研究方法との比較や検討の対象とはなかなかなりにくかった金属錯化合物の双極子モーメントデータや更に関連する配位子類の双極子モーメントデータを集積し、中心金属や配位子、原報の刊行年度や第一著者そのほかによる検索利用を可能とした。
環 境 適応機種名 PC-9801VM,EPSON-PC386 ,IBMPC-AT 以上
O S 名 MS-DOS ver 5.0以上   
ソース言語 スプレッドシート(Lotus 1-2-3, Excel)
周辺機器 特に必要としない
流通形態
(右のいずれ
かに○をつけ
てください)
 ・化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする
 ・独自に配布する
 ・ソフトハウス,出版社等から市販
 ・ソフトの頒布は行わない
 ・その他     ・未定
具体的方法

ディスクメディアによる個人的頒布を予定

 錯体の双極子モーメントは、溶液内構造についての貴重な情報源となることは権威あるテキスト類にも詳しい。抗癌剤のシスプラチンなどを含む白金(II)錯体の幾何異性体の双極子モーメントが大きく異なることなどは有名で、標準的な無機化学の教科書にもしばしば取り上げられている。最近では薬学方面での定量的構造活性相関(QSAR)における基礎データとしても注目されているらしい。
ところで、当研究室では一昨年あたりからこの種の金属錯体やキレート性配位子などの溶存状態のチェックのために、関連する錯体の双極子モーメントのデータを調べる必要が生じ、いくつかの権威ある成書や物性値表を調べることとなった。だが、どのデータ集の場合にも、大量の有機化合物のデータ(数万レコード)の中に散在しているものを、ブラウジング方式でしらみつぶしに拾い上げるしかなかった。
しかも分析化学や無機化学、錯体や有機金属化学の方で興味のある配位子となる化合物は、一部を除くと「有機化学の王道」や「物理化学の興味の対象」からはほど遠いものとされているらしい。錯体化学の常識から考えて、どう見ても有り得ないような組成の錯体(Th(acac)2(!?))が、原著のまま無批判にそのまま記載されている例が少なくない。たとえ成書に纏められていたとしても、ほとんどが無縁のデータだらけの数百ページから数千ページにも及ぶ大集成のなかから、数少ない求める化合物や関連の配位子のあるものを探り出すことは著しい困難を伴うのが現実である。そこで今回、現在の研究対象としているβ-ジケトン錯体やイオン対の研究に必要な部分のデータを集めようとしたのだが、上記のような状況を鑑みると、今後のためにやはり無機・分析・錯体化学方面におけるデータ集積とその簡便な利用を考える必要が当然ながら存在している。逆に考えると、このような価値ある情報を含む大集成がありながら、検索手段がないためにせっかくの先人の業績が眠っているということでもある。
 そのために現在までに報告のある金属錯体及び関連化合物の双極子モーメントデータをパーソナルコンピュータで検索できるようなデータベースを作成する事を試みた。
 この種の数値と文字の混在するデータを集積し、校正を行うのには、何といってもスプレッドシートタイプのソフトウェアが便利である。今回は Lotus1-2-3(ver.2.4J) を利用して、まず1960年代までの測定結果の総集成である McClellan のデータ集(正篇)と1973年に刊行された続篇から、関連のあるものを抽出して整理した。それぞれのデータの要素もほぼこれに倣うこととした。すなわち「分子式」「化合物名」「双極子モーメント値」「誤差」「メディア」「測定温度」「濃度」「測定手法」「文献番号」である。さらにChemical Abstracts の Collective Index を利用して原文献をチェックしているが、この正篇と続篇の渉出はかなり綿密に行われていて、1972年頃までのものでは重要なデータの採録漏れはほとんどなかった。
 ただしこのままでは、我々の利用にはまだ不便なので、さらにいくつかのデータ要素を付加させることとした。「中心金属」「通常用いられる化学式」「文献刊行年度」「定型化した文献情報」「第一著者」である。「文献番号」の記載方式は、このMcClellanの本では正篇と続篇でそれぞれ別方式になっているので、それぞれソートしてから「刊行年度」「定型化文献情報」「第一著者」に書き換えたあとは削除することとした。可能な限り原文献を参照して誤記などを改め、また重複を削除した。
 錯体化学上は検索用のキイとして「金属元素」と「通常用いられる化学式」というのがどうしても不可欠である。もともとの表は前述のように有機化学者の利用を第一に考えられてつくられたらしく、炭素、水素のあとは全ての元素のアルファベット順(つまりHAIC Indexタイプ)に編成されている。だから「ジクロロベンゼンの異性体の双極子モーメントの簡単な比較」などには、この方式が好適であることはいうまでもない。ところが錯体や有機金属の場合には、類縁体の比較は難しいし、予想もつかぬ組成式となっている場合もある。例えば鉄のペンタカルボニルも C5FeO5 のような形で記されている。われわれにとってはやはり Fe(CO)5 でなくては不便である。また、ビスアセチルアセトナトベリリウム(II)は、原データ集の方式の通常の分子式表現だとC10H14BeO4なのだが、類縁錯体のビスアセチルアセトナト亜鉛(II)ならばC10H14O4Znとなって著しく離れた別の所に配置されてしまうから、よほど熟練しないとデータの抽出も難しい。やはり[Be(acac)2]や[Zn(acac)2]のようにして、見ただけですぐにわかるようにしたい。
 さらに、たとえばアセチルアセトナト錯体でも、ビス、トリス、テトラキス錯体は炭素の数が違うのでまったく別のところへ配置されてしまうから、配位子略号や、CASの化合物登録番号による検索も可能としたいのだが、現在のところはまだである。
 この種のデータを利用する可能性のある何人かの錯体関係の研究者に伺った限りでは、下手にネットワーク上で公開するよりも、手近なマシンでいつでも検索できるようにフロッピーメディアで頒布して呉れる方がありがたいという声が絶対多数であったので、当面はフロッピーディスクの形での配布を考慮中である。