演   題

電子状態における電荷移動の寄与の定量的評価法:Configuration Analysis

発 表 者

(所属)

    ○鈴木 哲、和田朋久(信州大工)、里園 浩(分子バイオホトニクス

研究所)

連 絡 先

380   長野市若里500   TEL:026-226-4101

     信州大学工学部   FAX:026-223-9249

     E-MAIL:

キーワード

電荷移動、Configuration Analysis、半経験的分子軌道法

開発意図

適用分野

期待効果

特徴など

 電荷移動(Charge Transfer)の概念は、化学における重要な基本概念の一つと考えられる。本発表では、基底および励起電子状態の各状態における電荷移動の寄与の定量的評価法について述べ、テトラシアノベンゼンとメチル化ベンゼンとの電荷移動錯体についての解析結果を報告する。

 

 

 

環  境

適応機種名

O S 名

ソース言語

FORTRAN

周辺機器

流通形態

・化学ソフトウェア学会の無償利用ソフトとする

・独自に配布する

・ソフトハウス、出版社等から市販

○ソフトの頒布は行わない

・その他

 

 

 はじめに  電荷移動(Charge Transfer)の概念は、化学種の電子状態を特性づける上で、化学におけるもっとも基本的な概念の一つと考えられる。その理論的取り扱いは、R. S. Mulliken1952)によって始められ、その後、この概念は、電子状態の解釈に不可欠な基本概念となっている。鈴木らは、各電子状態における基底配置、局在励起配置、電荷移動配置等の化学者にとってなじみの深い状態に基づいて、各状態の寄与を定量的に評価する配置解析法(Configuration Analysis)を定式化した。本発表では、典型的な電荷移動錯体であるテトラシアノベンゼン(TCNB)とベンゼンおよびメチル化ベンゼンとの電荷移動錯体の基底および励起電子状態波動関数の配置解析結果について報告する。

 配置解析法の概要  分子スピン軌道関数で構成された分子の電子状態波動関数は、一般に次式のように展開することができる。ここで、F 0[ ... ]は各種の電子配置を、係数でつくられた行列式は対応する電子配置の寄与の大きさを表す。

この一般式を具体的に基底および一重項励起電子状態に適用すると、それぞれ次の式が導かれる。

ここで、V 0などは、基底配置、局在励起(LE)配置、電荷移動(CT)配置等の参照配置を表す。D0などは、分子軌道の係数からつくられる小行列式である。従って、解析しようとする基底および励起電子状態V0およびVIK は、参照状態で展開されたことになり、V0などの係数が各参照状態の寄与の大きさを表す。従って、配置解析計算は、V0などの係数である行列式の値を計算することに帰着する。

 結果と考察  TCNBとベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ジュレン、ペンタメチルベンゼンおよびヘキサメチルベンゼンとのサンドイッチ型二量体を初期構造として、MOPACにより最適化構造を求めた。その結果、いずれの錯体についても、回転対称軸が互いにやや傾いた構造が最適化安定構造となった。この構造を用いてCNDO/S計算を行い、基底および励起一重項状態の電子波動関数を求めた。得られた波動関数の配置解析計算を行い、基底および励起電子状態に対する分子間電荷移動の寄与を調べ、各電子状態のキャラクタリゼ−ションを行った。
 基底電子状態の配置解析結果は、いずれの錯体においても、参照状態の基底配置の寄与が
99.5%を越えており、電荷移動の寄与は無視できるほど小さい。従って、この錯体は基底状態でいわゆる接触体として存在していると考えられ、実験結果に対応した結果が得られた。
 
TCNB-ベンゼン錯体の第1励起状態は、TCNBLE配置の寄与が93%で、この状態はTCNBLE状態に帰属される。TCNBからベンゼンへのCTの寄与は7%である。CTの寄与は、メチル基の数とともに増加する。キシレン、ジュレン、ペンタおよびヘキサメチルベンゼンでは、CTの寄与がそれぞれ709998および99%で、これら錯体の第1励起状態はCT状態に帰属される。
 同様の解析から、
TCNB錯体の第2および第3励起状態は、TCNBLE状態に帰属される。CTの寄与は相対的に小さいが、とくにメチル基の数が4以上の錯体では、CTの寄与は特に小さい。これら状態とは対照的に、第4励起状態は、ベンゼンのLE状態に帰属される。
 このように、基底および励起電子状態の個々の状態の性格は、互いに大きく異なっており、各状態固有の性格を持つことがわかる。配置解析法は、電子状態の理解に有用な方法であると結論できる。