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2019年度表彰

2020年6月12日 表彰

2019年度

日本コンピュータ化学会  表  彰
SCCJ Award of the Year 2019

[ 学会賞 |  功労賞(特別功労賞)  | 吉田賞(論文賞) ]

日本コンピュータ化学会 2019年度 学会賞
【受賞者】

望月 祐志 氏  立教大学 理学部 化学科 教授

【受賞理由】

 2020年2月27日に開催された日本コンピュータ化学会役員会で、本年度の日本コンピュータ化学会学会賞を、立教大学理学部化学科教授の望月祐志氏に授与することが満場一致で決まりました。ここに同氏の経歴と推薦理由を記します。
 望月祐志氏は昭和60年3月に北海道大学理学部化学第二学科を卒業し、昭和62年3月に北海道大学大学院理学研究科化学第二専攻博士前期(修士)課程を修了、平成2年3月に北海道大学大学院理学研究科化学第二専攻博士後期課程を修了され、理学博士を取得されました。その後、日本電気(株)基礎研究所、日本原子力研究所付きJST博士研究員、同RIST研究員を経て、平成15年2月に東京大学生産技術研究所「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」プロジェクトに転じ、国立医薬品食品衛生研究所の中野達也氏によるフラグメント分子軌道(FMO)プログラムABINIT-MPの開発に参画されました。そして、平成18年4月に立教大学に助教授として栄転されて独立研究室を主催、平成22年4月からは教授となっております。また、平成18年4月から東京大学生産技術研究所の非常勤研究員・リサーチフェローを兼務されています。
 望月祐志氏は、JST-CRESTや文部科学省系の複数のプログラム開発プロジェクトを通じ、ABINIT-MPにおける電子相関と励起状態に関するモジュール群の開発をフルスクラッチで手掛けられました。とりわけ、2次摂動(MP2)計算モジュールの高速性はタンパク質やDNAの非経験的な相互作用エネルギー解析のルーチン的実行を可能とする画期的なものでした。平成24年4月からは、取り纏め責任者としてABINIT-MPの整備開発と普及を推進されてきました。ABINIT-MPは、全国のHPCI拠点においてライブラリプログラムとなっている他、製薬等の民間企業でも広く使われています。FMO応用計算では、星薬科大学の福澤薫氏、神戸大学の田中成典氏、産業技術総合研究所の古明地勇人氏らと多数の共著をお持ちです。
 また、望月祐志氏は、2018年度の本学会吉田賞を受賞した奥脇弘次氏(令和元年9月より望月研究室の助教)と共に、粗視化シミュレーション手法の一つである散逸粒子動力学(DPD)の有効相互作用パラメータをFMO計算によって非経験的に算定し、経験的パラメータを用いる従来のやり方に比して汎用性と信頼性を大幅に向上させる、マルチスケールのFMO-DPD法を創案し、手法の整備と先導的な応用計算を進めてきました。FMO-DPDの適用対象は、電解質膜や脂質膜、さらにタンパク質など広範囲です。併せて、リバースマッピングによってDPDシミュレーションで得られた粗視化構造をナノ構造に再転換し、FMO計算による相互作用解析を適用する技術も確立しつつあります。
 さらに、最近では機械学習の応用に関してFMOの計算結果の解析だけでなく、数値流体力学(CFD)シミュレーション、テキストマイニングなどに広く適用しています。一方、3Dプリンタを使ったモデル開発やScratchアプリケーションの開発などの化学教育の活動もされています。
 以上のような望月祐志氏のコンピュータ化学に対する貢献に対し「日本コンピュータ化学会」は、ここに望月祐志氏を本会の学会賞の受賞者とすることに決定致しました。

(文責:会長 細矢治夫)

日本コンピュータ化学会 2019年度 特別功労賞
【受賞者】

佐藤 博 氏  日本プリプレス株式会社 代表取締役

【受賞理由】

 2020年2月7日に開催された日本コンピュータ化学会役員会で、本年度の日本コンピュータ化学会特別功労賞を日本プリプレス株式会社 佐藤博氏に授与することが満場一致で決まりました。ここに同氏の推薦理由を記します。
 2007年当時、日本コンピュータ化学会の論文誌は、印刷体をPDF、電子出版をHTMLの出版形態をとっており、文書の電子化のために開発されたSGMLにより作成されていました。その当時は日本化学会のBCSJ誌もSGMLによる出版ワークフローでしたが、海外ではSGMLからインターネット上でのデータ交換に適したXMLへのワークフローの移行が始まっており、佐藤氏は日本化学会の担当者とともにBCSJ誌のXMLワークフローの導入を手掛けることとなり、Inera社のeXtylesを日本に導入し、XMLによる出版ワークフローをスタートさせました。その頃は、まだ、国内ではXML出版は評価されておらず、XML出版を推進するため、翌年の2008年に佐藤氏は日本プリプレス株式会社(Japan Pre Press)を設立されました。その2008年にJ-STAGE を管轄するJSTから、J-STAGE 公開論文もXML形式を推奨するとの方針説明があり、日本コンピュータ化学会でもXMLでの公開を目指すこととなりました。そして、日本化学会でXML公開推進を検討していた佐藤氏に学会誌のXML化を依頼することになりました。
 佐藤氏は、2009年eXtylesが完全ユニコード対応になったのをきっかけにTypeを導入し、日本語論文を掲載しているJCCJ誌の日本語のXMLワークフローを確立させました。特に数式の多い日本コンピュータ化学会論文では、数式の変換・組版が最大のネックで、日本語でのXML出版は困難を極めましたが、試行錯誤を経てXML出版を確立することができました。その最初のXMLフローで組版されたのが日本コンピュータ化学会のJCCJ誌(Vol.9 No.2; 2010)の掲載論文であり、日本初 (=世界初) の日本語でのXML出版となりました (研究論文 「日本コンピュータ化学会論文誌のXML形式への変換ワークフローとWeb公開管理システムの開発」太刀川 達也,佐藤 博,野沢 孝一,中村 恵子,中野 英彦,蔵内 伸悟,後藤 仁志, Vol. 10, No. 4 pp. 141-146 (2011))。
 このような佐藤氏の多大なる貢献により、日本コンピュータ化学会の論文は和英ともに世界標準を満たすことになり、各種データベースへの搭載も加速され、世界に広く研究成果を発信できるものとなり、国内外から高く評価され、地位向上へとつながっています。
 現在、佐藤氏は、XML変換技術で学術集会のオンデマンド化を手掛けており、今はオンライン学会へと繋がっているなど、活動の範囲をさらに広げています。
 以上の功績により、日本コンピュータ化学会は、ここにJapan Pre Press 代表取締役 佐藤博氏を本会の特別功労賞の受賞者とすることに決定致しました。

(文責:会長 細矢治夫)

日本コンピュータ化学会 2019年度 吉田賞(論文賞)
【受賞論文】

第一原理計算を用いた硫化スズ電極のNaイオン電池性能評価と放電機構解明

小鷹 浩毅, 籾田 浩義, 喜多條 鮎子, 岡田 重人, 小口 多美夫

Journal of Computer Chemistry, Japan, Vol. 18(2019), No. 1, pp.78-83

【受賞理由】

 2020年2月7日に開催された日本コンピュータ化学会役員会で、2019年度の日本コンピュータ化学会論文賞を以下の論文に対し与えることとなった。ここに推薦理由を記します。
 「二次電池」は充電によって繰り返し使用できる電池のことである。広く社会で利用されている二次電池として、例えばリチウムイオン電池やニッケル・水素電池が良く知られているが、電圧や容量などの電池性能の向上や安全性・長寿命化を目指して、新材料の開発に現在でも莫大な努力が払われている。
 本論文は、従来の二次電池に比べて大きな電気容量を持つ二次電池の開発をターゲットに第一原理計算を応用した研究が纏められている。本研究では、Naイオン二次電池の負極材料となりうるコンバージョン系負極材料として硫化スズに着目し、第一原理計算を用いてその電池特性を調べている。負極材料とキャリアであるNaが反応した場合に生成すると予想されるNa-Sn-S系化合物のエネルギーを計算し、生成エネルギー解析に基づいて評価した三元系相図から充放電反応過程の生成物を明らかにした。また、計算から得た充放電反応式をもとに電圧容量曲線を作成し、実験にて測定された充放電曲線との比較を行い、実験結果をよく再現する結果を得ている。さらに、充放電反応過程の生成物を特定するために、硫黄K端のX線吸収スペクトルを計算し、実測結果との比較が行われた。放電時にNa2S由来のスペクトル形状の変化が現れ、それが充電時に再びSnS由来のスペクトル形状に戻ることを確認している。より大容量で長寿命の二次電池の実現を強く期待させる論文である。
 以上のような試みを通じた計算材料化学に対する多大なる貢献に対し「日本コンピュータ化学会」は、ここに本論文を本会の論文賞(吉田賞)としてたたえることに決定致しました。

(文責:会長 細矢治夫)

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