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2025年度表彰

2026年6月5日 表彰

2025年度

日本コンピュータ化学会  表  彰
SCCJ Award of the Year 2025

[ 学会賞 |  功労賞(特別功労賞)  | 吉田賞(論文賞) ]

日本コンピュータ化学会 2025年度 学会賞
【受賞者】

山本 典史 氏  千葉工業大学 工学部 応用科学科 教授

【受賞理由】

 山本典史氏は、九州大学において理学の学士・修士・博士の学位を取得しました。博士課程修了後は、日本学術振興会特別研究員(PD)として東京大学大学院総合文化研究科で研究に従事し、岐阜大学および名古屋大学を経て、千葉工業大学工学部応用化学科に着任しました。現在は同学科の教授として、量子化学・分子動力学・機械学習などの手法を用いた計算化学の研究と教育に取り組んでいます。
 2021 年には、計算化学の研究と教育の経験を踏まえ、紙でつくる分子模型・分子パズル「PuzMol(パズモル)」を開発しました。PuzMol は、炭素や酸素などに用いる六角形の原子パーツ、水素に用いる四角形の原子パーツ、および結合パーツの三種類で構成されます。接着剤やはさみは不要で、結合パーツを原子パーツのスリットに差し込むだけで組み立てられます。結合角にゆるやかな自由度をもたせた設計により、水分子のような小さな分子から C60 フラーレンに至るまで、同じパーツでさまざまな構造を表現できます。紙製のため一つあたりの費用を抑えやすく、参加者一人ひとりが自分で組み立てた模型を持ち帰れるのも特長です。初等教育から高大接続に至るまで、さまざまな教育や普及の場で、分子の立体構造を手で確かめる体験を支える教材として広く活用されています。
 山本氏は、PuzMol を用いた化学教育やサイエンスコミュニケーションを通じて、分子のかたちへの直感を育み、コンピュータ化学への関心を引き出す実践を重ねてきました。日本コンピュータ化学会の活動としては、科学技術振興機構が主催する「サイエンスアゴラ」に学会の一員としてブースを出展し、2022 年から 2025 年まで毎年 PuzMol を用いたワークショップを実施したほか、本学会の秋季年会における一般公開の場でも 2022 年度および 2023 年度の企画・運営を担いました。学校や科学館との連携では、2024 年から 2025 年にかけて大阪市立科学館のジュニア科学クラブで小学校 5・6 年生を対象としたワークショップを開いています。公的プログラムやイベントでは、科学技術振興機構の「Q-LEAP 人材育成プログラム」に QunaSys 株式会社と共同で参画し、小学生から高校生までを主な対象とする量子コンピュータ人材育成のワークショップなどを企画・実施しました。EXPO 2025 大阪・関西万博では「香りと量子」をテーマとするトークセッションを企画して登壇するとともに、PuzMol を用いたワークショップも行いました。さらに、企業の研究開発者などを主な受講者とする計算化学の講座やセミナーで講師を多数務めるとともに、日本化学会関東支部が主催する化学クラブ研究発表会では長年にわたりコメンテーターを務めています。
 あわせて、小学校から高等学校までの教育機関や、サイエンスコミュニケーションのイベントを運営する関係者に対して、PuzMol のパーツの無償提供を積極的に進め、授業やワークショップでの活用を後押ししてきました。これら一連の活動は、2022 年度の東レ理科教育賞 企画賞にも選ばれています。  日本コンピュータ化学会は、紙製分子模型を基盤として幅広い世代に分子の世界への親しみを広げ、化学教育やサイエンスコミュニケーションを通じてコンピュータ化学への理解を深め関心を育てた業績を高く評価し、山本典史氏を本会の学会賞の受賞者とすることを決定いたしました。

(文責:会長 河村雄行)

日本コンピュータ化学会 2025年度 功労賞
【受賞者】

波田 雅彦 氏  京都府立大学 大学院 生命環境化学研究科 特任教授 / 東京都立大学 名誉教授

【受賞理由】

 2026年2月12日に開催された日本コンピュータ化学会役員会で、2025年度の日本コンピュータ化学会功労賞を京都府立大学大学院生命環境科学研究科特任教授(東京都立大学名誉教授)波田雅彦氏に授与することが満場一致で決まりました。ここに同氏の研究概要と推薦理由を記します。
[受賞者の研究概要]
 波田雅彦氏の研究内容は 主に、相対論的量子化学の理論・方法論の提案とそのソフトウェアーの開発、及び、重原子を含む化合物における相対論効果が関与する種々の化学現象の解析が挙げられます。特に、重原子NMR化学シフトの計算及び解析に関する研究は、斯界の研究者から高く評価されております。
[本会への功績]
 本功労賞は、波田雅彦氏が本会に長年果たして来られた多大な功績に対するものであります。同氏は、2002年1月1日に発足した日本コンピュータ化学会に参加し、研究成果を積極的に発表し、学会理事として会の運営にも携わって来られました。波田雅彦氏の本学会への貢献として特筆すべきは、日本コンピュータ化学会論文誌SCCJとSCCJ-IEの編集と出版への寄与であり、Associate Editorとして長く活動しておられ、本学会会員の研究発表に多大の功績を残されました。また、2014年には特集号13巻1号「相対論的量子化学 – 高精度予測と新化学領域の探求」の編集に尽力されました。
 以上のような波田雅彦氏の学会誌、及び、計算化学に対する多大なる貢献に対し「日本コンピュータ化学会」は、ここに波田雅彦氏を本会の功労賞の受賞者とすることに決定致しました。

日本コンピュータ化学会 2025年度 吉田賞(論文賞)
【受賞論文】

Accuracy of Hartree–Fock Energies and Physical Properties Calculated Using Lambda Functions for Helium, Lithium, and Beryllium Atoms
ヘリウム、リチウム、ベリリウム原子のラムダ関数を用いて計算されたハートリー・フォックエネルギーおよび物理特性の精度

秦野 甯世, 山本 重義

Journal of Computer Chemistry, Japan, -International Edition Vol. 11(2025).

【受賞理由】

 変分法で原子分子の波動関数を得た場合に、全エネルギー(TE)の有効桁数を知ることは重要である。また、電子-核カスプ条件(CC)や<ri などの計算値の有効桁数がTEと比べてどの程度の比で得られるかも重要である。この議論には正確な波動関数が必要になるが、本論文ではラゲール型基底関数の一種であるΛ関数を用いて、Hartree-Fock (HF) limitに近い波動関数を得て議論している。Λ関数は原子の束縛状態に対して完全規格直交系を成すため、数学的に整備された環境で研究を遂行できる。
 HF計算の精度は、基底関数の展開項数(N)と実数表現に用いるビット数で決まる。本論文でのNは150である。筆者らはこれまでに、HeからOgまでの四倍精度のHF計算の結果を発表している。その時の二電子積分の精度は30桁で、He、Li、BeではTEの精度は30桁、CCの精度はそれぞれ26、17、17桁であった。これらの原子においてはTEが四倍精度の限界に達しているので、今回、多倍長精度に拡張し、積分の精度を80桁で計算を行っている。その結果、TEは66、43、43桁、CCは30、19、19桁の精度が得られている。TEに対するCCの桁数の比は0.45、0.44、0.44となり、原子種に依らず0.4程度になる。また、<r9 では比が0.79、0.72、0.70となり、原子種に依らず0.7程度である。物理量によって比が異なる。
 本論文で述べられている研究成果は、新しい理論を構築する際の参照データとなる。また、基底関数の開発に必要な基礎データを提供する。コンピュータ化学の発展に貢献する業績であり、吉田賞(論文賞)として表彰することを決定した。

(文責:会長 河村雄行)

日本コンピュータ化学会 2025年度 吉田賞(論文賞)
【受賞論文】

化学勾配の緩和過程に基づくゾウリムシの長距離後退遊泳行動モデリング

   宇座 恩, 砂川 泰也, 國田 樹

Journal of Computer Chemistry, Japan, Vol. 24(2025),No.2, pp.58-67.

【受賞理由】

 生物が複雑な環境に適応し自律的に移動するメカニズムを解明することは、生体システムの理解のみならず、工学的な自律移動型ロボットの開発などにおいても重要である。とりわけ単細胞生物が示す環境適応行動は、細胞内外の化学勾配や化学反応が力学的な出力に変換されるプロセスを基盤としており、その数理的アプローチによるモデリングが求められている。
 本論文では、単細胞生物ゾウリムシが細長い空間内で障害物に衝突した際に、短距離の後退遊泳を繰り返しながら徐々に後退距離を伸ばす「長距離後退遊泳行動」に着目した。著者らはこの行動を再現するため、Hodgkin-Huxley方程式を用いた膜電位動態モデルに対し、膜電位と繊毛運動の関係を定式化した運動モデルを統合した新たな数理モデルを構築した。数値シミュレーションによる検証の結果、カルシウムイオンチャネルの遅い応答を考慮するだけでは不十分であり、後退遊泳を引き起こすカルシウム電流の閾値が環境刺激に応じて動的に変化する仕組みを導入することで、短距離から長距離の後退遊泳へと移行するプロセスの一部を再現することに成功した。
 本論文で示された成果は、ゾウリムシが化学勾配に対して単に受動的に応答するだけでなく、膜電位と繊毛運動のダイナミクスを通じた内因的な制御メカニズムを備えていることを示唆するものであり、生物の複雑な環境適応能に新たな知見を与えるものである。コンピュータ化学の発展に貢献する業績であり、吉田賞(論文賞)として表彰することを決定した。

(文責:会長 河村雄行)

日本コンピュータ化学会 2025年度 吉田賞(論文賞)
【受賞論文】

分子動力学法とFMO法を用いた非晶質固体分散体の吸湿安定性解析

松本 穂香, 奥脇 弘次, 東 顕二郎, 古石 誉之, 福澤 薫, 米持 悦生

Journal of Computer Chemistry, Japan, Vol. 23(2024),No.4, pp.115-125.

【受賞理由】

 非晶質固体分散体の吸湿安定性について、分子動力学計算(MD)およびフラグメント分子軌道法計算(FMO)を用い、非晶質固体分散体における分子間相互作用と吸湿挙動の関連性に基づく予測的評価の可能性を検討した。
 非晶質固体分散体は医薬品の溶解性改善手法として広く用いられているが、非晶質状態における吸湿による構造変化や安定性低下は製剤設計上の重要な課題である。 本研究では、水分子の吸着および拡散挙動に着目し、吸湿過程における分子レベルでの相互作用を解析した。 MD法により非晶質固体分散体全体の構造変化および動的挙動を評価し、FMO法により局所的な分子間相互作用エネルギーを定量的に解析した。 これらの結果を統合することで、吸湿に伴う安定性変化を分子レベルで評価する枠組みの有用性が示唆された。
 コンピュータ化学の発展に貢献する業績であり、吉田賞(論文賞)として表彰することを決定した。

(文責:会長 河村雄行)

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