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日本コンピュータ化学会への期待

日本コンピュータ化学会名誉会長 平野 恒夫

(2002年6月15日 会告Vol.1, No.2)

日本コンピュータ化学会(Society of Computer Chemistry, Japan: SCCJ)が発足して既に半年が経過しようとしています。会員数も幹事一同の危惧を払拭して1000名に達しようとしています。旧JCPEの会員の皆様には、申し訳なかったのですが会費の値上げをお願いしました。それに見合うサービスに努める所存ですのでご寛恕頂きたいと思います。もし、ご不満、ご希望があれば、office@sccj.net まで、どんどんお申し出ください。ついでに、本学会のホームページ http://www.sccj.net/ にも、時々アクセスしてみてください。まだ、旧JCPE、旧CSSJからの引継ぎが不完全ですし、工事中の部分も多々ありますが、これも追々、手直ししていくつもりなので、大目に見て頂けたらと思います。

旧JCPEは化学に関連したソフトウエアの交換からスタートして計算化学(Computational Chemistry)の普及を目指して、また、旧CSSJは化学に関連したソフトウエアの開発と交流を目指して、やってきました。平成14年の1月に、両者が発展的に統合されて発足した本学会は、細矢会長のご挨拶(本誌1号巻頭言)にもあるように、当面は、論文誌Journal of Computer Chemistry, Japan (JCCJ)の発行、春・秋2回の討論会のほか、セミナー、講習会の開催、会員間の情報交換を、その活動の柱にしてゆくつもりです。しかし、本学会は会員の皆様のものなので、私としては、むしろ皆様のご意向に沿っての新しい展開を期待しています。どうか、ご遠慮なく、ご意見をお寄せ下さい。

私事にわたって恐縮ですが、私が計算化学の仕事で第1報を書いたのは1967年です。当時はタイガー計算機をチン-ジャラジャラと廻して、計算していたものです。5x5次の永年行列式を解くのに苦戦していたら、友人が見かねてX線の結晶解析用に導入されたばかりの最新型の電動計算機を使わせてくれたので、半日で解けてしまったのには感心したものでした。また、私が書いた最初の分子設計の報文は「オキセタンの配位アニオン重合の可能性の予言」ですが、1975年のことです。まだ、分子設計という言葉がなかった時代です。もちろん、もう電子計算機が利用できて久しくなっていましたが、使ったのは80桁カード(IBMカード)読込み式のHITAC 5020E(東京大学大型計算機センター)で、主記憶容量260kB、磁気ドラムとディスク装置を合わせて合計32.6MBといった大型機でした。今では、CPU 2GHz、主記憶容量1GB、ハードディスク80GBといった仕様のパソコンが20万円強で手に入る(手作り出来る)時代ですから、隔世の感があります。 計算精度も格段によくなって、難しかった第1遷移金属を含むラジカル、例えばFeN、FeC、FeCOなどの回転定数を0.5%程度の誤差で、またcm-1単位で議論される分光学定数を実験値と比較できる制度で予測することが可能になりましたし、大きな分子でいえば、ロドプシン(J.J.P. Stewart、MOZYME in MOPAC)やチトクロームc(柏木ら、Protein DF)までも計算できるようになりました。チトクロームcの中心金属Feのフロンティア軌道が、軌道密度こそ小さいながらもほぼ分子全体に広がっているという柏木らの知見は、従来の酵素学の常識を覆すものでありました。これらの発展は基礎理論、プログラム、計算機の3者のあいまった発展によって支えられてきたものです。これからもそうあるべきものですので、我がSCCJに寄せられる期待は大きいと思われます。

会員相互の交流の場として、また、計算化学/計算機化学の発展の牽引車として、本学会の益々の発展を願っています。名誉会長職ではありますが、皆様とともに頑張りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

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