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生活を豊かにするモノの開発と利用

江戸川大学 情報文化学科 神部 順子

(2009年06月15日 会告Vol.8, No.2)

先日、“平成生まれの新入生”と一緒に、以前にNHKで放映された番組「プロジェクトX」のビデオを観た。戦後、高度経済成長期という時期に、人の生活を豊かにすることを願ったモノの誕生や開発にはどういった経緯があったのか、そして、それらが今日の私達の生活にどういった影響を及ぼしているのかについて、彼らの視点から考えてほしいと思った。学生達の反応はさまざまだった。ここで、印象的だったのは、「定説に囚われない強い思いがなければ、新しいモノの開発はなかったことがわかった。」「今の自分たちの生活に当たり前だと思っていたこと(モノ)が、全く当たり前ではなかった時代があったことを知った。」といったコメントである。もう彼らにとっては、生まれたときから存在していたモノに対して、身近に科学技術の使われていることを特に意識していない様子がよくわかった。

一方、私はここで、高齢者などにとっては(まさに「プロジェクトX」に出演されていた方々の世代)、最新の科学技術の結集である家電製品をどう選択するかが、非常に困難な問題になっていることについて考えていた。一例として、今後のテレビの購入について挙げてみるなら、地上デジタルテレビ放送は、視聴者の多様化に対応していることをうたっているが、実際に店頭に出てみると、自分の家にふさわしいテレビを選択するにも店舗担当者が十分に対応できているとは思えない。また、別の例として、デジタル印刷についても似たような傾向がある。今日、デジタル一眼レフカメラは一般的にも、また、高齢者のうちにも普及しつつあることはよく報道されているところだが、撮影したものをどう保存し、必要なものについてどう印刷して残していくか、などについての相談、技術を指導する機能はないに等しいと思われる。つまり、今日の社会では、モノはあふれていても利用者のニーズに基づいたサービスの提供は不足している。これらのサービスは速やかに展開されるべきであり、それに柔軟に対応する場の確保が必要である。つまり、利用者に寄り添い、その思いや希望を受け止め、それを叶える方法が提示されるべきである。

さらには、手にしているモノ(情報)を活用し、科学技術の発展にも寄与してもらう時代になったことを感じている。国立天文台の研究者グループによる呼びかけで、国内では46年ぶりの今年の7月の皆既日食を、一般の方のデジタルカメラで撮影したデータを収集する動きがあるそうだ。一般の人に参加してもらうことでデータを蓄積し、そこからこれまでに十分に解明されていないメカニズムを明らかにしていくことは、今後さらに重要な課題になるだろう。

以上のことを通して、デジタルの世界の可能性と、一方で、対話なしには展開できないアナログでの世界の有用性について、学生達と共にさらに探究することを決意した。

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