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機械工学分野におけるコンピュータ化学の役割と今後の発展

東北大学 大学院工学研究科 久保 百司

(2009年09月15日 会告Vol.8, No.3)

私ごとではありますが、東北大学の化学系から機械系に異動して、もうすぐ2年の月日が過ぎようとしています。その間にも、機械工学分野においてコンピュータ化学の重要性・有用性は急速に拡大しています。従来、機械工学分野においては、有限要素法、有限体積法、流体力学などのマクロスコピックなシミュレーション手法を活用して、破壊現象、流動現象、機械特性などの検討が行われてきました。しかし、近年のナノテクノロジー・超微細化技術の発展により、機械工学分野においても、「化学反応の解明」が不可欠となり、電子・原子レベルのシミュレーション、いわゆる「コンピュータ化学」の活躍の場が大きく広がってきています。

具体的な例としては、原子力発電所、火力発電所、化学プラントなどの超大型建造物において問題となる材料の応力腐食割れ、環境助長割れなどの構造破壊・劣化現象は、従来、有限要素法や有限体積法などのマクロスコピックな方法論を用いて、その亀裂進展に関する検討が行われてきました。しかし、これらのマクロ的な破壊現象においても、最初のステップは、水分子や塩素イオンなどの分子・イオンと鉄表面・ステンレス表面の化学反応であり、「コンピュータ化学」の応用による化学反応メカニズムの解明とその防止対策の提案が求められています。また、機械工学分野において重要な摩擦現象(トライボロジー)の制御においても、「コンピュータ化学」の重要性が急速に増加しています。トライボロジーは、スペースシャトル、航空機、自動車、人工関節、マイクロマシンまで機械的な動きが存在するもの全てに関わる研究分野であり、従来は主に流体力学を用いて、流体潤滑現象の解析が行われてきました。しかし、近年のナノテクノロジーの発展により、潤滑被膜の形成反応、劣化反応、摩耗防止機能など、摩擦下における化学反応の解明が重要課題となっており、「コンピュータ化学」の活用が不可欠な分野となってきました。

これら以外にも、スペースシャトルが大気圏に突入する時の材料劣化、マイクロマシン・MEMSの加工技術、固体酸化物形・固体高分子形燃料電池の構造破壊・亀裂生成現象、半導体・エレクトロニクスデバイスの長期信頼性など機械工学が関わる広範な研究分野において、「コンピュータ化学」を用いて「化学反応」と「摩擦、衝撃、応力、流体、熱、光、電場、磁場」などが複雑に絡み合ったマルチフィジックス現象を解明し、安全・安心社会の確立に貢献することが強く求められています。本稿では、「コンピュータ化学」の応用分野として機械工学を紹介しましたが、それ以外の多様な分野においてもコンピュータ化学の広範な展開が期待されています。その意味で、日本コンピュータ化学会が果たすべき役割は、今後さらに大きくなっていくことは確実であり、本会の今後の発展を強く期待しております。

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