時田澄男 ,渡部智博,木戸冬子,前川 仁,下沢 隆
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とその電子密度分布
を,極表示,等高線表示,または
擬三次元表示で示した.また,4f軌道までの三次元等値曲面表示を示した[15].Breneman は,
水素原子の s 軌道から g 軌道までの平方に関する等値曲面表示を報告した[16].Leibl は,
1s 〜3d 軌道に対して5つの表示方法,すなわち動径表示,極表示,等高線表示,擬三次元表示,
そして三次元表示のいずれかを選択して可視化できるプログラムを開発した[17].著者の一人時田は,
マイクロコンピューターを利用し,種々の方法で原子軌道を可視化する方法を開発した[18].
Douglas は,原子軌道の電子密度を点画で描くプログラムを開発し,水素原子の 1s, 2s, 2p, 3s,
3p, 3d 軌道などを表示した[19].Schwartz は,水素原子の1s と2s 軌道に対する等値曲面を計算し,
その切断面を表示させた[20].Cooper らは,市販ソフトウェアである“ Mathematica ”を使って
そして
の各軌道を表示した[21].
………(1)
は水素原子の中の電子の状態を表す 1電子波動関数(原子軌道),
h はプランク定数,
e は電気素量,m は電子の質量,r は原子核と電子との距離,E は電子のエネルギー,( x, y, z ) は
電子のデカルト座標である.
2.2 解析方法
式(1) は,極座標
に変換した後,解析的に解くことができ,エネルギー E ( eV )
として,
………(2)
また,原子軌道
として,
………(3)
が得られる.ただし,上式(3) において,
………(4)
………(5)
………(6)
であり,
は水素原子の原子軌道関数の動径部分,
と
は水素原子の
原子軌道関数の角部分と呼ばれる.また,n は主量子数( n= 1, 2, …),l は方位量子数
( l = 0, 1, 2, …, n - 1),m は磁気量子数(|m|=0, 1, 2,・・・, l )である.
さらに,
………(7)
………(8)
である.
また,
はLaguerre の陪多項式
………(9)
であり,
はLegendre の陪多項式
………(10)
である.
式(6) において,
はm≠0 では,複素関数であるから,
式(3) の
も
一般には複素関数となる.従って,原子軌道
を図示するためには,何らかの方法で実関数に変換する
必要がある.これには,次の2通りの方法がある.
(A) 波動関数
を組替える方法:
m=0 のときは
は実関数ゆえ,波動関数
は実関数となるが,m≠0 のときは,波
動関数
と
とを線形結合させて実関数とする.
………(11)
………(12)
m≠0 のとき,波動関数
と
の
エネルギーは等しいのでこれらを規格化,直交条件の
下で線形結合した原子軌道(11), (12) は,やはり Schroedinger の波動方程式(1) の解である.
(B) 波動関数
を平方して確率密度関数とする方法:
………(13)
であるから,
………(14)
は実関数となる.ここで,上式(14) は,電子の存在する確率密度関数を意味している.
2.3 可視化方法
ハードウェアとして,EGWS IRIS INDIGO XS24Z ( シリコン・グラフィックス社 ),
またはTITAN 3000 ( クボタコンピュータ社 ),カラープリンターとして
Shinko Color Hard Copy CHC 345(神鋼電機) を使用した.ソフトウェアは,
AVS 3 〜 5 ( 米国 AVS Inc. ) を用いた.
水素原子の原子軌道は,Fig. 1 のフローチャートに従い,以下のプロセスで可視化した.
(a) 三次元格子点における原子軌道関数の関数値を計算する.AVS ではこの形式のデータを
フィールドデータと呼ぶ.
(b) フィールドデータをAVS に渡し,特定の関数値に対する等値曲面を計算する.このとき,
曲面の色,陰影のつけ方,光源のおき方等を指定する.
(c) 等値曲面をグラフィックディスプレイ上に表示し,カラープリンターに出力させる.
を例にして,上記2.3 (b)における関数値を変更し,等値曲面を表示させたときの関係を
Fig. 2 に示した.Fig. 2 から,関数値の絶対値が大きいと等値曲面の形は小さくなり,この
絶対値が小さいと等値曲面の形が大きくなる.関数値の絶対値を大きく設定しすぎると中央の
リング部分が上下のアレイ部分より先に消滅してしまう.逆に小さくしすぎるとリング部分と
アレイ部分が接近するため,両者の関係が分かりにくくなる.
従来の可視化の例として,水素原子の 7 個の 4f 軌道の等値曲面表示に関して汎用性のある
プログラムを報告したが,表示に要する時間は,数日間に及ぶことがあった[13].今回,EGWS 上で
AVS を利用した場合,適当な関数値を選択してから原子軌道を表示するまでに要する時間は,
格子点の数が9,261 (21×21×21) では約 4 秒, 132,651 (51×51×51) では約 1 分であった.
関数値の絶対値を変化させる際には,格子点の数を9,261 にして検討した.最終結果は 132,651
格子点を用いて出力した.このようにして選択した1s 軌道から 6h 軌道までの原子軌道の関数値を
Table 1 に示す.関数値が正のときをオレンジ色,負のときを黄色として表示した.結果を
Fig. 3 に示す.1s 軌道から 6h 軌道の原子軌道を表示して節面の型の規則性を明確に定式化した
報告はない.
Fig. 3 において,軌道胞( lobe : 等値曲面で囲まれた閉曲面)の数について調べると,
(a) 磁気量子数の絶対値|m|を一定とすると,方位量子数 l の増加とともに,軌道胞の数が
規則的に増加する.
orbital function value
au-1.5
1s 0.0400
2p 0.0260
3d 0.0093
4f 0.0045
5d 0.0020
6h 0.0015
(b) 方位量子数l が一定のとき,磁気量子数の絶対値|m|の増加とともに軌道胞の数が規則的に
減少する.この関係を数式で表せば,
m=0 のときは,
軌道胞数=l +1 ………………… (15)
m≠0 のときは,
軌道胞数={(l +1) -|m|}×2|m|………………… (16)
である[16].
次に,原子軌道の節面( node : その両側で原子軌道の符号が変化する面.すなわち,
軌道関数の値が 0 となる面 )について調べると,
(c) ( n, l, m )=( n , n-1, n-1)のとき,すなわち,( n, l, m )=( 1, 0, 0),
( 2, 1, 1),( 3, 2, 2),( 4, 3, 3),( 5, 4, 4),または,( 6, 5, 5)のときは,
平面型の節面がそれぞれ l 個しか存在しない.
(d) ( n, l, m )=( n,n -1, 0)のとき,すなわち,( n, l, m )=( 1, 0, 0),( 2, 1, 0),
( 3, 2, 0),( 4, 3, 0) ,( 5, 4, 0),( 6, 5, 0)のときは, l が偶数の時は曲面型の節面が
l 個あり,l が奇数の時は中央の節面が平面型であり,残りの( l - 1) 個は曲面型の節面である.
(e) 上記,およびそれ以外の系( l= n-1 のすべての系 ) に共通する規則は,以下のようにまとめ
られる.
平面型の節面が
個,
曲面型の節面が
個である.ただし,
はガウスの記号で,xを越えない整数のうち最大の値を表す.
3.2 存在確率密度
2.2 の方法(B) に従って,水素原子の電子の存在確率密度関数を出力させた.結果を Fig. 4 に示す.
電子の存在確率密度は必ず正の値となるので,全てオレンジ色で表示されている.また,波動関数
を
平方することによって,
に依存しない電子の存在確率密度関数となるので,Z軸(上下方向)のまわりに
対称の形となる.
また,この一連の図における軌道胞の数は,
(a) 磁気量子数の絶対値|m|を一定とすると,方位量子数 l の増加とともに,軌道胞の数が規則的に
増加する.
(b) 方位量子数 l を一定とすると,磁気量子数の絶対値|m|の増加にともなって,軌道胞の数が
規則的に減少する.これを数式で表せば,
軌道胞数 = (l +1) -|m| ………………………… (17)
となる.
次に,関数の値が 0 となる面の数は,
面の数 = l -|m| ………………………… (18)
である.また,この面の数が偶数の時は曲面型のみであるが,奇数の時は中央に平面型が一つ存在し,
他は曲面型である.
3.3 表示方法の相互関係
Fig. 5 の3d 軌道を例とし,Fig. 3 と Fig. 4 の相互関係を説明する.
|m|= 0, 1, 2 のそれぞれの組は,下段は Fig. 3,上段は Fig. 4 に対応する.下段は
実関数の値が
,上段は複素関数の平方が
となる等値曲面である.
一般に,下図に示した原子軌道の図がよく使われている.各々の上図を,Z軸を含む|m|個の節面で
等間隔に分けた関数が下図に相当している.このとき,|m|個の節面で切断する方法が無数に存在し,
これは縮退している
と
を線形結合させる数式が無数に存在することに対応している.
本研究に当たり,多くのご協力を頂いた杉山孝雄氏(埼玉大学工学部)に深く感謝致します. また,成塚章二氏(立教高等学校)からは数学的なご助言を頂いた.
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